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37.

 執務室に顔を出した俺は、休暇の延長の可能性を伝えて今度こそ王都を出た。

 急げば最初に申請した五日間の休暇中に戻って来れるはずだ。



 きっと今頃は王太子やら神殿にも司法の調査が入っているだろう、この国は王制ではあるが法治国家でもあるからな。

 王族とはいえ法を破れば罰を受ける、しかも弟達がいるから廃嫡されても問題……はあっても何とかなる。



 そうなると聖女を未来の王妃にしたい神殿としては、今回の騒ぎは起こし損だよなぁ。

 まぁ、王都に戻って来る頃には多少動きはあるだろう。

 王太子が廃嫡されるとディアーヌ嬢が可哀想か? いや、そうなれば婚約破棄になるだろうから、むしろ幸せかもしれないな。



「犯罪に関しては俺達は専門外だもんな、餅は餅屋って事で任せればいいか。久々にお前(エレノア)と一緒に遠出するんだ、嫌な事は忘れて楽しく行こうか!」



 そう思えたのは実家の領地に到着するまででした。

 順調に一日で領地まで来たのはいいが、俺が屋敷に到着すると、それはもう物々しい雰囲気で完全にアウェイだ。



 どうやら俺が到着する直前に、出入りの商人経由で俺がディアーヌ嬢拉致未遂犯として捕まったという報せを受け取ったらしい。

 父親からしたら「とうとう馬鹿息子がやらかした」といったところか。



 昼時に到着しそうだったから、先に弁当を食べてから来て正解だったな。

 こんな雰囲気で家族と食事なんて出来そうにない。

 今俺は家令に案内されて食堂に来たのだが、全員が食欲が失せたと言わんばかりにカトラリーを置いた。



「父上、ただいま戻りました」



「……お前には色々と聞きたい事がある」



「なんなりと。食事は必要ないからお茶を頼む」



 家を出るまで俺が使っていた席は、誰も座っていないままだったので、メイドにお茶を頼んで席に着いた。

 以前の俺なら「お茶を持ってこい」と言っていたせいか、メイドは驚いた顔をしていた、俺の家族も。



 食事の席には両親、長男夫婦、次男が。

 長男夫婦には四歳と二歳の子供がいるが、カトラリーが上手に使えるまでは食堂では食べない。

 若干緊張した面持ちのメイドがお茶を持って来てから、お茶に口を付けると父親が口を開いた。



「お前が王太子の婚約者を拉致しようとしたというのは本当か」



「いいえ、拉致を阻止したのが俺です。濡れ衣で裁判にかけられましたが、被害者本人であるタレーラン辺境伯令嬢が証言してくれたからこそ、無罪放免されてここにいるのです」



 普通久々に息子が帰ってきたら、まずはおかえりのひと言くらいあってもいいんじゃないか?

 子供好きだった前世の父さんとは大違いだな。



「そうか、ならいい」



「それで、用件も書かずに手紙で俺を呼びつけた理由は?」



「父上に向かって何だその口のきき方は!」



 長男のアルベールがドンとテーブルを叩いた。

 義姉上(あねうえ)がビクッてなったじゃないか、ヴァンディエール家って結構血の気が多いよな。



「俺はともかく、兄上は食事中でしょう? お行儀が悪いですよ」



「なんだと!?」



「いちいち大きな声を出さないと話せないんですか? 次期当主なんですから、もっと落ち着きを持ってください。簡単に感情的になっては周りから(あなど)られますよ」



 シレッと返すと、次男のシリルが笑いを(こら)えているのが視界に入る。

 アルベール兄上の息子が七歳になれば、スペアとして無用となるがゆえに、シリル兄上的に色々含むところもあるのだろう。



「随分……変わったのね、ジュスタン。以前とはまるで別人のようだわ」



 母親が戸惑いながら声をかけてきたが、俺の中ではやはり前世の母親が親であって、(ジュスタン)にさして興味を持たなかったこの女性を母親とは思えない。

 それでも愛情を求めていた以前の(ジュスタン)は、やさぐれてあんな悪評まみれの人物になったわけだ。



 その事をぶちまけてやってもよかったが、もうこの血の繋がりだけの人達を家族として扱いたくない気持ちが勝った。

 俺は母親に向かって愛想笑いを向ける。



「おや、俺の事を知っているんですか、てっきり興味がなくて何も知らないのかと。お久しぶりですね」



 ちょっとした嫌味をお見舞いしたら、まるでショックを受けたかのような表情をした。

 実際今まで興味もなかったくせに、そんな顔をする資格はないだろう。



 長男が第一、ついでに次男、三男はどうでもいいと如実に行動が物語っていた。

 実際、実家を離れてから一度も母親からの手紙は届いてないし、当然会いに来た事もない。王都に来た時でも。



「……本当に変わったな。そういえば叙爵の話を断ったというのは本当か?」



「「叙爵!?」」



 父上の言葉にアルベール兄上とシリル兄上が同時に声を上げた。

 爵位を継げるアルベール兄上はともかく、シリル兄上はあくまで貴族の子という立場なせいで、俺が叙爵されたら身分が俺の方が高くなるからな。



「実際手柄を立てたのは部下であって俺ではありません。部下の手柄を横取りするような浅ましいまねはいたしかねますので。それに……、その内自分の手柄で叙爵されてみせますよ」



 実際小説だとこの先、竜やら邪神やらで手柄を立てられるチャンスは多いはずだからな。

 自信満々に言い切る俺に、父上は目を瞬かせていたが、最後は満足そうに笑みを浮かべた。

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