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34.

「ヴァンディエール、出ろ。再びここに戻る事になるだろうがな」



 牢屋に入れられた翌日、コンスタンが姿を見せたので、朝食のために魔法鞄(マジックバッグ)を持ってきてくれたのかと思ったら呼び出しだった。



「先に朝食を済ませていいか? あ、急ぐなら馬車の中でも構わないが」



 貴族である俺が裁判にかけられるとしたら、貴族街にある裁判所だろう。

 第二騎士団の詰め所も併設されていて、貴族の住宅街から一本隣の通りにある。



「裁判には王太子も傍聴(ぼうちょう)されるらしい、お待たせするわけにはいかないから馬車の中で食べるといい」



「わかった。裁判が終わった時にすぐ返してもらえるように、預けてある剣と魔法鞄(マジックバッグ)も持っていってくれよ」



「…………わかった」



 昨日までは完全に俺を犯人だと思っていたみたいだが、一貫して変わらない主張をしている俺に自信が揺らいでいる、といったところか。



「団長さんよぅ、また戻って来たらあんたの飯を分けてくれよ。ちょっとした賭けだと思ってくれていいぜ?」



 昨日から絡んできていた奴がニヤニヤ笑いながら鉄格子越しにこちらを見ている。



「フッ、もし俺がここに戻って来たら一食分食わせてやろう」



「絶対だからな!? 約束だぞ!?」



 それじゃあ俺も、と次々に言う囚人達に手を上げて応え、コンスタンと共に地下牢を出た。

 髭は元々薄いから一日くらい剃らなくても大丈夫だが、剛毛だったら裁判所での印象が最悪なんじゃないか?



 馬車に乗って裁判所へ向かう。商会の事務所が立ち並ぶ、いわゆるオフィス街みたいな通りだ。

 四方を第二騎士団の騎士達が囲み、馬車内では左右に騎士、正面にコンスタンが同乗している。

 完全に凶悪犯の護送じゃないか。



 裁判所に到着すると、入り口で魔力を封じる手枷を装着させられた。

 自暴自棄になって暴れた奴が過去にいたせいだ。



 今日の裁判は急遽開かれる事になったせいか、法廷内の見物人は耳の早い貴族と商人が傍聴席に半数ほど。

 正面にいる裁判長と同じ高さの席に、勝ち誇った顔の王太子がいた。



 ちょっと待て、俺の弁護人が見当たらないのだが。

 コンスタンに連れられて中央に二つ並ぶの証言台の片方に立つと、裁判長がガベルと呼ばれる木槌をカンカンと鳴らして宣言する。



「ただ今より、ディアーヌ・ド・タレーラン辺境伯令嬢拉致未遂事件の裁判を行います! 被告人ジュスタン・ド・ヴァンディエール侯爵令息、あなたはタレーラン辺境伯令嬢を拉致しようとし、その時令嬢とお付きの侍女を助けた者に怪我を負わせて逃走した、間違いないですね?」



「間違い……だらけです。正確には事件名以外は全て間違いですね」



 口を開いてすぐに、傍聴者たちは俺が認めると思ったのか、前のめりになったが、否定した途端に騒つきだした。

 同時に王太子が立ち上がる。



「嘘をつくな! お前とディアーヌが一緒にいるところを見た者がいるのだ! そしてディアーヌはボロボロになって気絶した侍女と戻って来た! 証拠と証人もいるんだ!」



 俺は王太子を無視して裁判官だけを見ていた。

 ディアーヌ嬢からの証言については何一つ言っていない、証拠はあの時投げた短剣(ダガー)の可能性が高いが、証人っていったい誰だよ。あの時の犯人か?



「何とか言ったらどうなんだ!」



「…………裁判官、発言しても?」



「どうぞ」



 直感だが、この裁判長、騒がしいエルネストより俺の方が好感度が高そうだ。



「裁判の邪魔をする者に対して、法廷侮辱罪などは適用されないのでしょうか?」



「ほぅ、法廷侮辱罪ですか……。初めて聞く言葉だが、確かにそのような法律があってしかるべきですな、今度の議題に上げたいと思います」



「ぜひそうしてください。こちらとしてはタレーラン辺境伯令嬢か、その侍女であるアナベラ嬢の証言ひとつで無実が証明されるのです。その二人を差し置いて証人と言われても捏造(ねつぞう)しているとしか思えないのです」



「恐ろしい目に遭わせた本人に会わせられるはずがないだろう! 話すのも辛そうなのだぞ! 裁判長、証人を早く呼べ!」



 早急に法廷侮辱罪の実施をと、俺と裁判官の心はひとつになったと思う。

 裁判長と同じ方を向いているエルネストからは見えないだろうが、正面にいる俺からはハッキリ見えた。

 裁判長の眉間のシワが。



「……では原告側、被告人が否定している事について何かありますか?」



 原告と言われて立ち上がったのは、何度か王城で見かけた事のある顔だった。

 随分前に機嫌が悪かったせいで腰を抜かすほど脅かした事があるような、ないような。



「物証としてこちらの短剣(ダガー)を提出いたします。これは以前よりヴァンディエール被告が使っている物なのは騎士団で確認済みです。そしてその短剣(ダガー)で怪我をしたのは聖騎士団の従騎士(スクワイア)であるこの者です」



 そう言って原告の男は抜き身の俺の短剣(ダガー)をかかげ、俺が入って来た扉から妙に怯えた十代半ばの少年が連れてこられた。

 少年は怯えながら俺の方をチラチラ見つつ、もう一つの証言台に立つ。



「証人は証言を」



「は、はいっ! 偶然ご令嬢の悲鳴を聞いて駆けつけたところ、賊に短剣を投げつけられ負傷しましたが、何とかご令嬢達の拉致を阻止できましたっ」



「負傷したのはどこだ?」



 横から質問を投げかけた。



「えっ、あっ、えっと……、左の脹脛です」



 こいつ、あの時の黒幕と繋がっているのはこれで確定したな。

 俺の短剣(ダガー)がここにある時点で分かっていた事だが。



「ならばもう聖騎士にはなれんな」



「えっ!? な、なぜ……」



 俺の言葉に動揺する従騎士(スクワイア)、傍聴人達の騒めきも大きくなった。





宣誓してないとか色々ツッコミどころ満載な裁判になっていると思いますが、正確な手順を描写していたらお話が進まないので割愛して書いています。

(中世裁判の資料を持っていないのも理由のひとつだったり……)

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