253.
「諸事情があると言っただろう。目的を達成するまでの期間限定の話だ」
「そ、そうか。とりあえず夕食の準備ができているから行こう」
烈陽に案内された部屋には、ずらりと料理が並んでいた。
わかりやすく目を輝かせるシモン。
「すっげぇ量! 何人分だ!?」
今部屋にいるのは、俺達の他に烈陽とその部下が五人。
残りは交代で警備をしているらしい。
「東宮様を助けてくれた礼だ。遠慮なく食べてくれ!」
勧められた烈陽の隣の椅子に座ると、盃を持たされ、茶色っぽい酒を注がれた。
これは飲んでも大丈夫なやつだろうか。
材料も何も予測がつかない。
だが、烈陽は盃を掲げると、一気に飲み干した。
試しにひと口飲むと、初めての味だが悪くない。
隣を見ると、藍之介も平然と飲んでいるので初めてではないのだろう。
シモンは最初はちびりちびりと飲んでいたが、すでに二杯目に突入している。
「シモン、酒だけを飲むな。何か腹に入れてからにしろ。藍之介も食事の時はフードを取れ」
「へ~い」
「はい」
藍之介がフードを下すと、視線が集中した。
「すげぇ、本当にエルフだ」
「本物だ!」
「こんなに美形じゃあ、昔の皇帝が反対を押し切ってエルフを側室にするのもわかるよなぁ」
ただでさえ帝国民以外は珍しいのに、伝説級のエルフの実物に室内が騒ついている。
烈陽も含めて護衛達や給仕をしている者達も、無遠慮に藍之介に釘付けだ。
「やはりエルフ独特の耳が気になるようですね。『認識阻害』」
藍之介は自分の耳に触れて呟くように呪文を唱えた。
その瞬間、見えているのに意識できない不思議な状態になる。
だが、見られているのはエルフだからという理由だけじゃないから、無駄だと思うぞ。
「っっか~! この肉、酒にめちゃくちゃ合うな! 烈陽、これって羊だよな? 俺が知ってるのと全然違うぜ」
そんな周りを気にせず、シモンはしっかりと料理を味わっていた。
「今飲んでる酒がその料理にも使われてるから、合うのは当然さ! 「黄酒といって、皇帝の家名と同じ縁起のいい酒さ!」
そう言って烈陽は『黄酒』と書かれた紙が貼ってある酒瓶を机にドンと置いた。
「へぇ、国名が家名の王族は多いが、黄鱗帝国は黄だけなんだな」
「初代皇帝は本来朱という姓だったが、黄龍との友好により変えたという伝説があるんだ。龍が実在するなら見てみたいけどなぁ。エルフがいるなら龍もいておかしくないよな!?」
そう熱弁する烈陽はすでにほろ酔い状態に見える。
「だったら団長、ジェスとジャンヌ呼んでやろうぜ! ドラゴンを見てみたいんだってさ!」
烈陽に負けず劣らずほろ酔いのシモンがバカな事を言い出した。
ドラゴンと従魔契約をしているのがバレたら、それこそ東宮の護衛に勧誘されるだろうが!
余計な事を言うなという念を込めてシモンを睨むと、一瞬で酔いが醒めたようで視線を逸らした。
「ジュスタン殿、ジェスとジャンヌというのは?」
「ああいや、気にしないでくれ。どうせ今はラフィオス王国にいるしな」
「ふぅん?」
嘘は言っていない。いつでも転移で来れる事を話さないだけだ。
怪訝な顔をしたものの、烈陽はほろ酔いな事もあり、すぐに興味をなくしたように料理に箸をつける。
ここは海からそう離れていないからなのか、しっかり塩がきいているというか、味が濃くて酒が進む。
「主様、エルフの特徴の耳を認識できないはずなのに、どうして彼らは私を見るのでしょうか」
酔って桜色にうっすらと染まった肌、潤んだ碧い瞳、注目されて戸惑う様子はまるで恥じらう乙女のようだ。
実際は三百歳超えの男だけどな。
「まぁ……、他国の者自体が珍しいみたいだしな、その内見慣れるだろう。気になるなら耳だけじゃなく、自分自身に認識阻害をかけてもいいんじゃないか?」
そんな俺の声が聞こえたのか、烈陽が自分の部下達に声をかけた。
「おい! あまり客人をジロジロ見るんじゃない! 失礼だろう」
「いやぁ、お二人が滅多に見ない美形なんで、つい……」
ん? お二人?
「へいへい、どうせオレはその辺にいる程度の男だよ。団長はエルドラシア王国でも目立ってたもんな~」
シモンが拗ねたように酒を飲みほした。
どうやら視線を集めていたのは藍之介だけではなかったようだ。
悪意も殺気もない視線に比べたら、好奇心だけの視線は気付きにくいから仕方ない。
今は酒も飲んでいるしな。
ウイスキーに比べたら強くはないが、確実にビールよりはアルコールが強い。
皇族のいる屋敷であれば警備は万全だろうから、俺達が襲われる危険はほぼないが、それでも泥酔しない程度に抑えないと。
すでにシモンは怪しいが。
「ジュスタン殿、三人はこれから都へ向かうと言っていただろう? だったら東宮の警護兼話し相手として同行してくれないか? 道中の路銀はこちらが持つし、報酬も出す。しかも皇帝陛下に拝謁するなら最高の伝手だろう?」
「はは、確かにそうだな。東宮に仕える事はできないが、都までの間なら引き受けよう」
「そうか! では道中は護衛として扱うから、我々と同じ服を準備しておこう」
「わかった」
飲みなれない酒のせいか、少々加減を誤って頭がふわふわしていたせいで、安請合いをしてしまった。
そう思ったのは翌朝、知らない天井を見た時だった。




