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俺、悪役騎士団長に転生する。  作者: 酒本アズサ


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241.

「い、言うておくがまだ、油断してはならぬのじゃぞ! 今回離れたのは前世を思い出した事により色が変わってしまった部分というか、本来あり得ぬ変質をした部分なのじゃ。そのような変質が起こるのは魂が悲鳴を上げるような出来事があった時らしい」



「魂が悲鳴を……、なるほど」



 俺の場合は大和が事故に遭う瞬間を思い出して、アランは自分のせいで俺を事故に巻き込んだという罪悪感といったところか。



「あの魔法陣で魂が身体から引っ張り出されるところじゃが、その変質した境目があったせいと言うか、おかげというか、魂が分離したというわけじゃ」



「という事は俺が前世を思い出していなければ、今頃身体を乗っ取られていたというわけか」



「うむ。蘭がハイエルフであれば魂の変質に気付いたであろうが、さすがに予想すらできなんだようじゃのう」



「なぁ……、前世ってなんだ?」



 俺と萌が話していると、シモンが首を傾げて聞いてきた。

 しまった! つい普通に前世の話をしていたが、シモンの前だった!

 だが、ラフィオス王国だけじゃなく、これまで前世という概念を見聞きした事はないから、何の事か理解できてなさそうだ。



「前世というのはのぅ、今お主はシモンとして生まれておるが、生まれる前にシモンでない人生……いや、人とは限らんが生を全うして生まれてきておるのじゃ」



「へぇ~……?」



 萌が説明してしまい、少々焦ったが、どうやらシモンには理解できなかったようだ。



「お前は気にしなくていい。忘れろ」



「やだよ! だってまた団長がさっきまでの団長みたいに……って、あれ? もしかしてタレーラン辺境伯領で団長の性格が変わったのって……、その前世ってやつを思い出したからなのか!?」



 まさかのシモンが正解を導き出した。

 どうする!? 誤魔化すか!? それとも……。

 一瞬迷ったものの、すぐに覚悟を決める。



「ああ、そうだ」



 どんな反応が返ってくるのかと、内心ドキドキしていたが、シモンはニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべていた。



「もしかしてその前世で弟がいたとか?」



「ああ、七人いた」



 アランの事まで話さなくてもいいだろう。



「へぇ~? ふぅ~ん、そっかぁ、だからかぁ」



「何だ、その気持ち悪い笑みは」



 弟が七人いると言うと、大抵驚かれたが、シモンは驚いた様子ではない。

 もしかして、前世も貴族で異母弟も含めていると思っているのだろうか。

 それにしては妙に含みのある笑みをしている。



「いやぁ、あの『お兄ちゃんの言う事を聞け!』っていう発言の理由がわかったからさぁ」



「貴様……っ! 二度とその事は口にするな!」



 最初の失態を掘り返され、一瞬で顔が熱くなる。

 シモンを捕まえようとしたが、シモンは笑いながら逃げ出した。



「あははは、この事あいつらに話していいの~?」



「いいわけないだろう! 混乱させるだけだ!」



「了解~! 口止め料に何か甘いモンが食いたいな~! ジェスもおやつ食いたいよなぁ!?」



 人化したジェスの脇を走り抜けながら、シモンが問いかける。



「うん! ボクもジュスタンが作ってくれたお菓子、食べたいな」



 はにかむジェスにそんな事を言われ、シモンを追いかけていた足がジェスの横で止まった。

 確かにお菓子を出せば、まだ少し不機嫌そうな萌の機嫌も直るかもしれない。



「確か、まだいくつか残っていたはず……。ああ、パウンドケーキなら一本丸ごとあるな。みんなで食べるか」



「わぁい!」



「パウンドケーキとは何じゃ!? ジェスがそんなに喜ぶほど美味いのか!?」



 さっきまでの不機嫌さは消え去り、好奇心に満ちた顔になっている。

 専用型がなかったから、テリーヌ用の型で焼いたパウンドケーキだが問題なかった。



「素朴な味だが、バターの香りと砂糖の甘さでいいお茶請けになるんだ。里で飲まれているお茶ではなく、今回は俺が持っている紅茶を淹れよう」



「ほぅ! それは楽しみじゃ! 屋敷の食堂で待っておるぞ!」



 完全に機嫌の直った萌は、スキップでもしそうな勢いで屋敷へと向かった。

 シモンとジェスも萌の後に続く。



『ジャンヌ、こっちは萌の屋敷に向かう事になった。そちらに残っているエルフ達にも伝えてくれるか?』



『あいわかった』



 本当に念話は便利だな。

 騎士団でも念話が使えれば、かなり作戦も楽になるが……。

 第一騎士団以外はほとんど魔力がないから無理か。



 台所を借りて、普段飲んでいるお茶を淹れる。

 ティーポットがないから急須で。

 ひと切れずつにしたら足りないと騒ぎそうだな、シモンが。

 少し薄めに切ってふた切れずつ皿に載せ、ティーカップもないから湯呑みにお茶を注いだ。



「ひとセット借りていいか? ジャンヌが戻って来たら出してやりたいから、魔法鞄に入れておこうと思ってな」



 控えていた茅に確認すると、快く頷いてくれた。



「はい、構いません。それでも数が多くありませんか?」



 ジェスと萌とシモンと俺、そして茅の分で五人分準備してある。

 あ、もしかして茅はまた控えて食べないつもりだったのかもしれない。



「多くないぞ。茅も一緒に食べて意見を聞かせてくれ。エルフが好む味であればこれのレシピも教えるから」



 そう言うと、数回瞬きしたあと嬉しそうに微笑んだ。

 その後、みんなでおやつタイムを楽しんでいると、水に濡れた犬のようにしょぼくれた藍がジャンヌに連れられて姿を見せた。

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