239.
「げほげほっ、ひぇぇ、これがエルフが使う魔法の威力かよ……」
自由になった手で土埃を払いながらシモンが呟く。
確かに人族がこんな威力の魔法を使うなんて、小説の中には出てこなかったもんな。
ジャンヌが先行して追っているが、途中で何度も爆風が襲ってくる。
山の木々も巻き込まれているからか、生木を裂くような音もすさまじい。
木々が倒れ、数ヶ所ちょっとした開けた土地状態になっているくらいだ。
「これは人族が参戦する余地がないように思えるな。シモン、ジェス、巻き込まれないように退避するぞ。ジャンヌは余裕そうだったから問題ないだろう。エルフ達は防御魔法で自分の身は自分で守れるはずだ」
「了解!」
「うん! ジュスタン、シモン、二人ともボクに乗って世界樹のところまで行く?」
ジェスの提案にジュスタンが怪訝な顔をした。
「お前のその小さい身体でどうやって俺達を……」
ジュスタンが言い終わる前に、ジェスは竜化の呪文を唱え、倒れた木の横に身を伏せた。
「本当に……ドラゴンだったんだな」
呆然としながらジュスタンが呟く。
「今更何言ってんだよ団長、ジェスに早く乗ろうぜ!」
「お前が無謀なのは知っていたが、ドラゴンに乗る事も躊躇せんとはいい度胸をしているな」
「そりゃあ二回目だからさ」
「なんだと!?」
あっさりと答えるシモンに、ジュスタンが驚きの声を上げた。
「邪神討伐の時に団長がジャンヌに、オレがジェスに乗ったもんな!」
『うん!』
「……なるほど、ドラゴンの姿の時は人の言葉が話せないのか」
「え?」
倒木からジェスに乗り移ろうとしていたシモンが振り返る。
ジュスタンはそんなシモンの反応に首を傾げた。
「何だ、おかしな事でもあるのか?」
「……団長、ジェスの声聞こえなくなっちまったのか? これまでドラゴン姿のジェスとも普通に話してたのに」
「何……っ!?」
ジュスタンの表情が消え、闇落ちしたかのように瞳が暗くなる。
記憶だけじゃなく、持っていた能力まで失ったと知れば、そうなっても仕方ないか。
シモンはそんなジュスタンに気付く様子もなく、久々のジェスの背中に軽く興奮状態で棘に掴まった。
「団長! ちゃんと掴まってないと落ちても知らねぇぜ!」
「ふん、落ちるとしたらお前の方だろう。自分の心配だけしておけ」
ジュスタンはそう言いながらも、ちゃっかりシモンの掴まり方を見て同じように棘に掴まる。
『じゃあ行くよ~!』
ジュスタンとは一定の距離以上は離れないが、一応俺もジェスの背中に乗った。
数回翼を動かしてから、空へと舞い上がる。
今の俺には物質の身体がないせいか、前回感じた浮遊感が全くない。
「おお……、これが空を飛ぶ感覚なのか……!」
意外にも、ジュスタンが子供のように目をキラキラさせている。
幸いなのは、前にいるシモンが振り返る余裕がなくて、見られていない事だな。
もしも今のジュスタンを見たら、記憶が飛ぶまで殴られてもおかしくない。
プライドが高いというか、下の者に、はしゃいでる姿を見られるのをとても恥ずかしいと考えるせいだな。
だが、そんな時間が突然終わりを告げる。
ジェスが木々の間を抜け、数十メートルの高さで世界樹に向かおうと旋回の体勢に入った瞬間、ジェスの翼の被膜部分に穴が空いたせいだ。
一瞬何が起きたかわからなかった。
被膜には痛覚がないからなのか、ジェスも最初気付いていないように見えた。
恐らく炎の矢だったのだろう。
ドラゴンが飛ぶのは魔力を使っているとはいえ、飛行機で言えばエンジンはあるのに、いきなり翼に穴が空いたようなものだ。
『えっ!? わぁっ、バランスが……!』
「「うわぁっ」」
ジェスの悲鳴のような念話と同時に、ジュスタンとシモンが背中から放り出された。
嘘だろ!? このままジュスタンが落ちて死んだら俺も死ぬよな!?
落ちる途中のジュスタンが、咄嗟にシモンを掴んで引き寄せ、身体強化を使うのが見えた。
俺はジュスタンから離れられない、逆にジュスタンも俺から離れられないはず!
一秒も経たない間に、俺の思考はフル回転した。
できるだけ空へ、上へと飛ぼうとすると、急に下に思い切り引っ張られる感覚がする。
それにできるだけ抵抗して空中に踏ん張ると、ジュスタン達の落下速度が落ちたように見えた。
そのままジュスタン達は崖の上の巨木へと落ちて行く。
バキバキと枝を折る音が聞こえ、最終的に太い枝の上に着地できたようだ。
少し遅れて五百メートルほど離れた場所にジェスが落ちる音と共に地響きが伝わって来た。
『ジェス! 無事か!?』
『ジュスタン! 翼に穴が空いて落ちちゃった。ジュスタンは怪我してない?』
『俺は今怪我するような状態じゃないからな、身体の方はシモンと一緒に木の上に落ちたが、太い枝の上で大きな怪我はなさそうだ』
『すまぬジェス、主殿、蘭に隙を突かれてジェスへの攻撃を許してしもうた。二人共大事ないな?』
俺とジェスの念話に、心配そうなジャンヌが会話に入って来た。
恐らくジェスに攻撃する事によって、ジャンヌの動揺を誘いたかったのだろう。
だが、蘭は俺達が念話できる事を知らない。甘いな。
とりあえず俺はジュスタンとシモンの様子を見に行こう。




