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俺、悪役騎士団長に転生する。  作者: 酒本アズサ


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229.

ジュスタン視点です

「ボクの事わからないの……?」



 子供が困った顔で俺を見上げた。

 その目が俺を信頼していると、そして悲しいと伝えてくる。

 だが俺にこの子供に関しての記憶はない。

 子供を見ていると、なぜか胸の辺りがジリジリとして、謎の焦燥感に襲われる。



「おいシモン! この子供は誰だ!」



「あ、ジェスの事覚えてないのに、身体が覚えてんのかな? 前の団長なら『お前のようなガキは知らん!』とか言って突っぱねてたはずだぜ。ジェスは団長と従魔契約してるドラゴンだよ。ジャンヌもだけど」



 いつものように余計な事を言うシモン。どれだけ殴られても学習しない奴め。

 だが、耳を疑う言葉が聞こえた。



「は……? 従魔契約? ドラゴンだと!?」



 今何と言った? ドラゴン?

 伝説と思われている存在と俺が従魔契約していると言うのか? しかも親子と。



「とりあえず状況を整理するために客間に戻りましょう。蘭、見聞きした事を詳しく教えてくれるな?」



「うん……、わかった」



 男のエルフに促され、先ほどと同一人物なのかと疑いたくなるくらいに、しょんぼりとしながら頷く蘭と呼ばれた女。

 俺もシモンから色々聞かねばならない。とりあえず話ができる場所へ移動するようなのでついて行く事にした。

 靴も履いていない事に気付いたが、この場の全員が履いていないところを見ると、そういう場所のようだ。



 移動中にジェスと呼ばれた子供が笑い出したり、宙を見ている。妙な行動はドラゴンだからか?

 先頭を歩いていたエルフが途中で部屋に入って行く。

 他の者も入って行くので続いて入って行くと、さっきの部屋と同じ床に、四角い薄いクッションのような物の上に座り出した。



「椅子はどこだ。まさか床に座れと?」



「どうしました? 先ほどまで普通に座っていたではありませんか。とりあえずお座りください」



 どうやらさっきまでの俺は普通に座っていたらしい。

 座らなければ話が進まないようなので、仕方なく空いたクッションの上に座った。


 

「さぁ蘭、何があったか説明してもらおう」



「部屋に来たと思ったら突然様子がおかしくなったの……。本当に私は何もしてないよ!」



 問われた蘭が目に涙を溜めて言ったが、どうにも疑わしい。

 俺が気付いたばかりの時に、妙な事を言っていたからな。

 男のエルフは戸惑ってはいるが、疑ってはいないようだ。



「それにしては設置された魔法陣が発動した痕跡があったのはどういう事であろうのぅ? あきらかにそなたの魔力であったが、それも説明してもらおう」



 ドラゴンだというジャンヌがそう言うと、蘭の表情が一変し、部屋を飛び出して行った。

 突然の事で状況が掴めない。



「いったい……何が……」



 蘭が出て行った廊下の方を見たまま、藍がそう漏らした。



「妾も何が起こったのか正確に把握しておらぬが、主殿に蘭が何かをしたというのは間違いなかろう。長であれば何かわかるかもしれぬ」



「あの女を捕まえた方が早くねぇ!? このままじゃ逃げられちまうぜ」



 シモンが今にも飛び出そうとしていたが、ジャンヌがニヤリと笑った。



「シモンよ、エルフの里に来て最初に妾が何をしたか覚えておるか?」



「え……っと、古い結界を壊して里に入った……?」



「うむ、その後妾が結界を張り直したであろう?」



「そういえば……」



 このドラゴン、そんな事をしていたのか。

 古くなっていたとはいえ、エルフの張った結界を壊すなんて、すごい事じゃないか?

 しかもその結界を張り直しただと!?

 まだ確信したわけではないが、ドラゴンだと信じていいのかもしれない。



「つまりは出入りの制限は妾が決められるという事だ」



 ジャンヌの言葉に藍が瞠目した。



「結界を壊したとはどういう事ですか!? 結界は長が張っていたはず!」



「古い結界ゆえ妾が通る時に壊してしまってのぅ、代わりに張っておいたのだ。萌に比べれば妾なんぞ小娘に見えるかもしれぬが、ドラゴンとしての能力は備わっておる」



 また知らない奴の名前が出て来た。

 しかし、男のエルフが長と言ったな。萌というのがエルフの長なのか。

 ジャンヌは若く見えるが、この古臭い言葉遣いからしてそれなりの年齢なのだろう。

 そのジャンヌが小娘に見えるとなると、エルフの長は老木のような数百歳でもおかしくないな。



 あまりにも今の俺は状況は把握できていない。

 菊というエルフが長を呼びに行っている間に、この場にいるエルフの名前と、俺が忘れている間の出来事を聞く事にした。

 そしてシモンの口から語られたのは、あまりにも信じられない事の連続で、短い時間に何度否定したかわからない。



「パンケーキだと!? そんな物、俺が作るわけないだろう!」



「でもさ、パンケーキはないかもしれねぇけど、今もその魔法鞄に入ってるはずだぜ。ジェスのおやつ」



 そう言われて半信半疑のまま確認するため、魔法鞄に手を入れた。

 手を入れると、魔法鞄に入っている物を把握できるため、すぐに真偽がわかるというものだ。



「そんなバカな事が…………」



「な?」



 魔法鞄には記憶にない物がいくつもあった。その内のひとつを取り出すと、包みの端がスルリと滑り落ちる。

 俺が手にしていた物は、持っているだけで柔らかいとわかる小さなパンだった。



「俺の記憶が抜け落ちているというのは信じるしかなさそうだな。しかし……、このどう見ても人族にしか見えない二人がドラゴンで、俺の従魔なのか……」



 シモンが言っているのは本当の事らしい。

 従魔という事は、このドラゴン達は俺の命令に逆らえないという事だな。

 せっかくこんなにいい女なんだ、戦闘だけに使うのはもったいないというものだろう。

 見れば見るほど人族の女にしか見えない。しかも極上のな。



「ジュスタン、お母さんにはお父さんがいるからね」



 俺のよからぬ思考を見抜いたかのように、ジェスがそう言った。

 そうか、考えてみれば子供がいるのだから父親もいるのは当たり前か。



「……父親は俺の従魔じゃないのか?」



 従魔であればこちらの命令には逆らえないだろう。

 しかし、シモンの言葉でその考えは打ち砕かれた。



「団長、ジェスの父親は古竜で、団長の事睨んでたからヘタな事しない方がいいぜ」



 古竜だと!?

 しかもシモンの口ぶりからして従魔ではないようだ。

 父親の方は契約者である俺が死ねば、この親子が自由になると思っていそうだな。

 知っておかないとこちらの命に関わりそうだ。

 シモンにドラゴンの父親の事を説明させていると、廊下が騒がしくなり、数人の足音が近付いて来た。

もうしばらくジュスタン視点続きます

なおタンのセリフがない分早く進むかと思ったのに、なかなか進まない……。

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