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216.

「まぁ、それはさておき、だ。蓮達には言ったが、俺達はエルドラシア王国の王都でコーヒーを売りに来た奴らを探しているんだ。そいつらがエルドラシア王国の王族の一人を殺したと疑っている」



 座り直して本来の目的を萌に伝えると、こめかみをグリグリと指で揉みながら大きなため息を吐いた。



「はぁ~。この里のコーヒーの消費量的に、この里から持ち出された物ではないのは明白。となれば黒狼の連中じゃろうなぁ。コーヒー自体、ダークエルフの蘭がこの里に来た時に種を持ち込んで栽培を始めたものじゃし、栽培しておるのも黒狼じゃ」



 どうやらコーヒーは元からこの里にあった物じゃないらしい。

 和風な里にコーヒーがあるっていうのはおかしいと思ったんだよな。



「俺達はエルドラシア王国の者ではないからすぐに事を構えようという気はないが、実情を知りたいから黒狼の集落に行って話を聞きたいのだが」



「確か明日はコーヒーと他の物資を交換しに来る日のはずじゃ。その時におぬしらを紹介しよう。色々こちらもおぬしらに聞きたい事もあるからのぅ、好きなだけこの里に滞在するとよい。どうせ部屋は余っておるしのぅ」



「助かる」



「ではわたくしは世話係として何人か声をかけてまいりますので、少々席を外します」



 これまで黙っていた茅がそう言って頭を下げた。



「うむ、頼んだぞ。白狼の者から選べば問題なかろう」



 その白狼のリーダーが初手でかなり人族を見下して噛みついて来たからな。

 やってみたい、と実際やってみるが違うように、人族に会ってみたら嫌悪感丸出し……なんて事になったりしないだろうか。



 そんな心配をよそに、その後俺達が他のエルフと会う事はなかった。

 別に世話をしたくないから誰も来なかったわけではなく、どうやら遠巻きに見られているらしい。

 だが、茅は姿を見せるものの、部屋や食事の準備はしっかりされているのに、認識阻害の魔法を使っているかの如く気配すら感じられないのだ。



 その日の夕食には、さっそく白米が出された。

 萌が海で獲った魚も一緒に。

 魚の種類はそんなに詳しくないが、淡白な白身魚を塩焼きにしてあって、白米と合う。

 白身魚のフライを教えたら喜ばれるかもしれないな。



「ふぅむ……。何というか、もう白米を知らなかった頃に戻れなくなったのぅ。焼き魚といい、味噌汁といい、白米と一緒に食べるためにあるかのようじゃ」



 気持ちはわかる。

 俺もさっきからひと口分のご飯を口に入れてから、味噌汁を少し口に含むという、ひと口猫まんまを堪能しているしな。

 さすがにぶっかけスタイルをするのは行儀が悪いから控えているが、本当は茶碗いっぱいにして食べたい。

 そんな俺を盗み見している萌がマネをしているところを見ると、エルフにも口内調味の文化があるのだろうか。



 久々にちゃんとした和食を堪能した後は、風呂に案内された。

 そしてその風呂は檜風呂だったのだ。

 高級旅館に来たみたいでウキウキしてしまう。もちろんシモンの前では顔に出さないが。



「うっわぁ~、木の匂いかコレ!? すぅ~はぁ~……めちゃくちゃいい匂いだな!」



「ふふん、そうだろう。檜の風呂はエルフの文化だからな。風呂に入る時は先に身体を洗って」



「わかってるって! ちゃんと泡も綺麗に流してからだろ? 騎士団で厳しく言われてるからその辺はバッチリだぜ」



 どうやら一緒に食事したからか、シモンと蓮はかなり打ち解けてきたようだ。

 その時、トドメとなる物が運ばれて来た。



「長がぜひこれを持って行けと……。ジェスは子供だからこっちを飲むといい」



 そう言って荘が持って来たのは、どう見てもお銚子とお猪口がみっつ載ったお盆である。

 ジェスの分はただの水のようだ。

 湯船に浸かっていた俺達に、水面に浮かぶお盆が近付いて来た。



「これはありがたい! ここが露天風呂なら最高なのだがな」



 本当に旅館に来た気分になるな。

 こんな風に飲むのは前世含めて初めてだ。

 蓮が三人分のお猪口に透明な酒を注ぐ。それを手に取り、お互い掲げてからクイッと飲み干した。



「美味い……。これもエルフの里だけで造られているのか?」



「ああ、世界樹の根本から湧き出る命の水を使っているから、ちょっとしたポーションくらい身体にいいぞ」



 そういえば命の水は世界樹に近いほど効果が高いと言っていたな。

 確かに疲れが取れた気がする。

 山登りから、米の事であっちこっち行って作業したりと、結構疲れていたはずだが。



「このお水も命の水なの? とっても美味しい!」



「ああ。エルフの里で使われている水は基本的に命の水だからな。長の家でなら効果も間違いないだろう」



「それってさぁ。エルフが長命種なのって案外命の水のおかげだったりして。くはぁ~、本当にこの酒うめぇな」



 手酌でお代わりしているシモンは何気なく言ったのかもしれないが、蓮が止まってしまった。



「エルフの里全てに命の水が湧いているのか? それに魔力量によって老化の速度も違うと言っていなかったか?」



「あ、ああ、そうだ。魔力量が人族より多いからドラゴンも長命種だしな。だが、世界樹がある場所にエルフの里があるはずだから、もしかしたら……」



「外界で暮らしているエルフも一人くらいはいるんだろう? そのエルフの寿命が変わっていないのなら関係ないはずだ」



「なるほど……、確かにそうだな。もしも今後エルフと会う事があったら聞いてみてくれるか? 話ができるように手紙を預けておこう。里が違っていても、ダークエルフでもない限り仲間意識はあるからな」



「わかった」



 黒狼の連中と会って確認した後にどうするか決めていなかったが、どうやら今後のやる事がひとつ決まったようだ。

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