214.
【俺、悪役騎士団長に転生する。】3巻が11/10に発売です!
今回も素晴らしいイラストの数々で、眼福ですよ♡
そして1巻の再重版が決定しました!
お買い上げくださった皆様、ありがとうございます!
それにしても、一度黒狼という派閥の人物に会ってみたいものだ。
話しぶりからして、件のダークエルフがリーダーというわけでもなさそうだしな。
俺の予測では黒狼の誰か、恐らくリーダーが今回の黒幕だと思っている。
「そういえば黒狼では米は作ってないのか? もし作っているなら精米方法を教えれば貸しが作れると思うが」
俺の提案に萌は複雑な表情を浮かべた。
「うぅむ。それはそうじゃが、里を飛び出した者達に有益な情報を与えるとなると、この里の者達がよい顔をせぬじゃろう。それにのぅ……、黒狼の頭をしている藍という者がじゃなぁ……」
藍という名前が出た瞬間、荘と茅が明らかにピリついた空気を醸し出した。
どうやら藍というエルフは二人から相当嫌われているらしい。
「性格に難あり、というところか?」
「難ありどころではありません!」
「あんな奴、難しかないぞ!」
茅と荘がキレた。
嫌われているとかいうレベルじゃなさそうだ。
そしてひとつ気になった。
「……もしかして、飛び出したという黒狼の連中とは交流があるのか?」
恐らく里を飛び出したのは数十年前、それなのにずっとこれほど怒りを持続させるのは無理だろう。
だとしたら、今でも二人を怒らせるような出来事があるはず。
「よくわかったのぅ。そうじゃ、黒狼の連中は全部で十五人じゃから、衣服などの生活用品を自分達だけで賄うのは無理じゃろう? 人里に下りてこの山のエルフの存在を大体的に公表しない代わりに、そういう最低限の物々交換には応じるという約束をしておるのじゃ。我々の存在をバラされるのは困るからと、里の者達も渋々了承しておる」
「なるほど」
なかなか小賢しい連中のようだ。
やはりエルドラシア王国での黒幕は、黒狼のリーダーという線が濃厚だろう。
他にもエルフの里の事を聞いていたら、息を切らせた蕉が戻って来た。
「各責任者に伝えて来ました! 今後のためにも何枚か書き写しておきますね! ジュスタン殿、この米の活用法は他にもあるのでしょう!? ぜひ詳しく教えていただきたい!」
「あ、ああ……。書く物を渡してもらえばそれに書いておこう。蕉は書き写し作業をするんだろう?」
「あっ、そういえばジュスタン殿はエルフ文字が書けるんでしたね! では書く物を持って来ます!」
何の悪気もなく、蕉は爆弾発言を残して執務室へ筆記用具を取りに行く。
「エルフ文字が書ける……じゃと?」
萌がジトリとした目を俺に向けた。
シモンやジャンヌも驚いた顔をしている。
「団長、エルフ文字って何だ? オレ達が使ってる文字と違うのか?」
「エルフ文字は複雑で、エルフ以外が扱う者はほとんどないと黒が言っておった。なにゆえ主殿が……」
前世の事はジェスにはアランと会った時に話したが、ジャンヌにも、当然シモンにも話した事はないからな。
しかもこれからどんな関係になるかわからないエルフ達の前で、前世の事を話す気もない。
ここはしらばっくれるのが正解だろう。
「たまたまひとつだけ何かで見た文字を覚えていただけだ。当然今から書くのは俺達が普段使っている文字だぞ。長く生きているエルフなら俺達が使っている文字も読めるだろう?」
シレッとそう答えると、萌以外は納得したようだ。
つまり、萌だけはずっとジト目で俺を見ている。
まさか長年の経験でメンタリスト並みに人の表情の変化を見分けられるなんて事ないよな!?
内心ドキドキしつつも、無表情を貫き通した。
蕉が戻って来るまでの時間が妙に長く感じたが、紙の束と筆や墨の入った硯も一緒に持って来て俺の前に並べる。
墨と筆なんて、中学の書道の時間以来だな。高校は墨で汚れるのが嫌で美術を選択したし。
懐かしさを感じながらも、小筆に墨を吸わせ、丘に軽く当てて余分な墨を墨池へと流した。
当然書く文字は共通語と言われる普段自分達が使っている文字だ。
筆で横文字を書くのは何だか変な気分だが、久々の筆はちょっと楽しい。
炊き込みご飯や焼きおにぎり、肉巻きおにぎり、塩胡椒と少しの醤油で味付けするシンプルな炒飯などのレシピを書いていく。
「ほおぉぉぉ。ジュスタンは随分と筆の扱いに慣れておるのぅ。外界の者が筆を使うと、ペンと同じように持つせいで手を汚すと聞いた事があるが、まるでエルフのように紙に手も触れず、筆を立てて書くとは」
萌がニヤニヤしながら、わざとらしくそんな事を言った。
こいつ……!
わかっていながらずっと見ていたな!?
「へ? てっきりお貴族様は学院で習うから知ってるものだと思ってたぜ。だってこんな道具初めて見たからよ」
シモンが追い打ちをかけるように自国では見た事もないと証言する。
やめろ! 誤魔化せなくなるだろう!
ジェスはうっかり言わないためなのか、両手で口を押えているのが視界に入って思わず笑いそうになった。
「その理由を話す義理はないだろう? 知っているか? 情報は金になるんだぞ。このレシピを提供するのは、今後の取り引きのためだ」
「ほぅ、ではその情報をいただいて、我々がジュスタンが欲しがる物を提供しなかった場合どうなる?」
「ふん。米料理がここに書かれている物だけだと?」
鼻で笑ってレシピの書かれた紙をヒラヒラと動かす。
「そんなもの、外界と交流するようになったら……」
「俺はエルフの里で初めて米を見たぞ? いったいどこに他のレシピがあるんだろうなぁ?」
開き直って俺だけが知識を持っている事を仄めかす。
数秒の睨み合いの後、萌は大きなため息を吐いた。
「はぁ~~~。わかった、わらわの負けじゃ。余計な詮索はせぬよ。米も味噌も醤油も提供すると証文を書こう」
「交渉成立だな」
ニヤリと笑う俺と、不満顔の萌は握手を交わした。