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俺、悪役騎士団長に転生する。  作者: 酒本アズサ


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210/231

210.

 案内された板張り床の部屋には、テーブル席の上に和食が並べられていた。

 そう、和食なのだ。

 どう見ても(あじ)の塩焼きにしか見えない物もある。



「海の魚……?」



「うむ、転移陣で海辺まで一瞬じゃからのぅ。岸壁に網を設置して、探索魔法を使って魚がいる所を風魔法で海水ごと巻き上げれば、いつでも大漁というものじゃ。さぁ、座るがよい」



 促されるままに席に着き、並べられた料理をまじまじと見る。

 鯵の塩焼き、鰹節と生姜の載った豆腐、ホウレンソウのおひたし、わかめと豆腐の味噌汁、叫びたいほどの興奮を押し殺して最後に主食を……。



「米……、だよな?」



「そうじゃ、ジュスタンは米を食したいと言うておったじゃろう? わらわは苦手じゃからの、ジュスタン以外はわらわと同じすいとんにしておる」



 だが、明らかに籾殻(もみがら)付きだ。もみすりがされていない。

 半分ほどが籾殻から白米がこんにちはしている。

 もしかして籾殻も食べられる品種なのだろうか。



「この棒何だ? フォークとナイフがねぇけど、手づかみで食うのか?」



 シモンが箸を両手に一本ずつ持って困惑している。

 箸なんて見た事もないカトラリーだから仕方ないが。



「何じゃ、シモンは箸を知らんのか」



「ボクも知らないよ。お母さんとジュスタンは知ってる?」



(わらわ)も知らぬ。初めて見る物だが、これで食べるのか?」



「これはフォークやナイフの代わりになる物だ。こうやって持って、こう動かして挟んで食べられるぞ」



「さっすが団長! お貴族様は物知りだぜ! こうか?」



 持ち方を教えたが、三人共苦戦している。

 見かねた萌が手で合図すると、使用人によりフォークとナイフとスプーンが並べられた。



「これで食べられるじゃろう。さて、いただこうかのぅ」



 萌が箸を手にしてのを見て、俺は手を合わせた。



「いただきます」



「「「いただきます」」」



 俺の影響でシモン達も食事の前にいただきますと言うようになってはいたが、手を合わせているのを不思議そうにしながらもマネをした。

 箸で籾殻付きの米を口に運ぶ。懐かしい味が広がるかと思いきや、ジャリジャリと口の中で音が鳴った。

 やっぱり普通の籾殻だよな? 本来食べないはずの!



「不味くて当然じゃないか! もみすりをしていないんだから!」



「何じゃ? もみすりとは」



 萌はキョトンとしている。



「籾殻……米の皮を剥く作業だ! もみすりができていないから精米も当然やっていないだろう!? せっかくの米なんだから、美味しく食べろ! 米のポテンシャルはこんな物じゃないんだぞ!」



「団長が壊れた」



 ポツリと漏らされたシモンの言葉で我に返る。



「ンンッ、それとな、調理法を聞いていいか? 妙に芯が残っていたのが気になる」



 咳払いして誤魔化し、気になった事を聞いた。

 芯が残っているというか、むしろ半生と言った方が正確かもしれない。



「調理法は確か一時間水に浸けてから、三十分茹でておったはずじゃ。あとは塩で味付けじゃな」



「三十分? それなら芯が残る事なんて…………ハッ、まさか標高のせいで沸点が低いからか!?」



「それとな、以前風魔法で皮を剥こうしたんじゃが、粉々になって結局このような形に落ち着いたのじゃ。栄養価は高いからのぅ、家畜の餌としては重宝しておる。麦のように皮がなければ楽なんじゃが」



 どうやらここで使われている小麦粉は俺の知っている品種ではないようだ。

 だから余計にもみすりの発想がなかったのだろう。



「…………ひとつ言わせてくれ、この口に残る皮の部分は食べるところではない。後で正しい処理の仕方を教えるから、代わりに米を売ってくれ。醤油と味噌も」



「これが美味しくなるのならありがたい! わらわの権限で希望の品を融通しようぞ。それにしても、ジュスタンは醤油や味噌どころか、わらわ達も知らぬ事をなにゆえ知っておるのだ?」



 萌の質問に言葉を詰まらせる。

 つい興奮して欲望のままに発言してしまったが、確かにこのエルフの里にしかない物であれば、俺が知っているのは不自然だ。

 何か言い訳を……、そうだ!



「萌達はいつから外界と接触を断っている? 世界は広いんだぞ」



 思わせぶりな事を言って煙に巻く、これが正解だろう。



「なるほどのぅ……。わらわは外界と接触せぬ方がよいと思うておったが、蓮達の白狼の言う通り、多少交流を持った方がよいかも知れぬ。まずはジュスタンの言う正しい処理の仕方をした米を食してからじゃの」



 申し訳ないが噛めば噛むほど籾殻と中身が混じり合う米は残させてもらい、残りの美味しい和食を完食し、精米までの手順をレクチャーする事になった。



「まずは脱穀した米をもみすりするところからだな。萌、ヤスリやカンナをかけていない板はあるか? 米を並べる物と手に持てる大きさの二枚」



「蓮、あるか?」



「すぐに持って来ます」



 蓮達はまだ俺が信用できないというのがヒシヒシと伝わる視線を向けて来るが、萌の言葉に頷いた。

 今も荘と蕉が残って俺達を見張っているしな。

 蓮は風魔法で中階層へと飛んで、すぐに戻って来た。

 板を受け取った俺は、台所に置いてあった脱穀済みの米をザラザラとした板の上にぶちまける。



「綺麗な板だと米が滑って上手くもみすりできないからな。こういう板の方がやりやすいんだ」



 板で挟むようにしてゴリゴリと円を描くようにすると、もみ殻が外れて玄米になる。

 風魔法でゴミを吹っ飛ばし、続けて玄米を再び風魔法で擦り合わせて精米した。



「さて、これで米を研いだら転移で海辺に行くぞ! ここでは美味く炊けないからな」



 俺のやる気とは違い、他の者は全員ポカンとしていた。

 気圧と沸点の関係を先に教えるべきだろうか。

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