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202/216

202.

「地下三階は元々先代魔塔主の師匠専用だったの。今はほとんどあたししか使ってなくて、魔塔主もたまに様子を見に来る程度だったのに……。扱いに注意が必要な研究もあったから、関係ない人が勝手に入れないように扉に魔力登録してないと、扉が開けないようにしてあるんだ」



 地下三階にはほぼ人が来ないせいか、二階までの階段に比べて薄暗い階段を駆け下りると、アリアは扉についている魔石に触れる。

 ガチャリと鍵が開く音がして、扉を開くとドーム状の傷だらけの広い空間の奥の壁に、ひとつだけ扉があった。



「うおっ、何だここ!?」



「ここは魔物を使った実験をする場所なの。私が怪我したのもここ。だから壁や床が傷だらけでしょ?」



 入った途端に驚いているシモンに、アリアが説明しているが、俺はフレデリクが見当たらない事が気になった。

 その時奥の扉が開く。



「おや、生きているじゃありませんか。あの実験体は思ったより使えなかったようですね……この手は使いたくありませんでしたが」



 そう言ってフレデリクはポーション瓶のような物を取り出し、赤黒い液体を飲み干した。



「あれは……!」



「わかるのか、アリア」



「はい、あれはさっきの人を変化させた、魔素を液体にした物です。まさか自分で飲むなんて……」



 フェリクスの問いの答えは、まさかのものだった。



「ふふ……、魔素を早く排出しないと、さっきの実験体のようになってしまいますからね。早々にカタをつけさせてもらいますよ『氷弾(アイスバレット)』」



 フレデリクの呪文で氷の(つぶて)が複数空中に出現した。

 本来であれば嫌がらせ程度の威力しかない魔法だが、先ほどの液体の事もあり、嫌な予感がして咄嗟に叫ぶ。



「避けろ!」



 ドゴゴゴゴゴ!



 飛んで来た氷弾の威力は、従来の魔法の数倍どころではなかった。

 避けていなかったら身体に風穴が空いていただろう。



「フハハハハ! すごい! やはり予想通りだ! あの老いぼれの実験を完成させた事を感謝するぞ、アリア! 世話をしていると信じて殺してくれた事もな! 『風斬(ウィンドカッター)』!」



「あたしが防ぐわ! あんただけは許さないんだから!!」



 本来なら草刈りくらいにしか使えない呪文だが、さっきの氷弾と同じく威力が跳ね上がっていると音でわかる。

 アリアは身に着けていた魔導具を発動させた。

 どうやらシールドの魔導具だったらしく、俺達の前で衝撃音と共に風が吹き荒れ、蓄積されていた細かい砂と埃が舞う。

 攻防が続き、段々とフレデリクがイラついてきたのがわかった。



「おのれ……! ちょこまかと! これで決着をつけてやろう……」



 フレデリクはもう一本のポーション瓶を取り出し、飲み下す。

 その途端、明らかに見た目に変化が起き始めた。

 皮膚がボコボコとうごめき、身体も明らかに肥大している。



「薬のせいで理性と判断力が低下しているわ! あれを二本も飲んだら……」



「ぐおぉぉぉぉ! 力が溢れてくるぞ! ぐぅぅっ」



 いきなり八本の触手がフレデリクの背中から生えた。しかも体の肥大化が止まってない。

 完全に人間を辞めた見た目になったフレデリクは、触手に魔力を纏わせ振り回して向かって来た。



「ぐわぁっ」



「うっ」



 近衛部隊は身体強化を使っているにもかかわらず、吹っ飛ばされている。

 さっきのダメージも完全には回復していないのだろう。

 骨が折れる音もしたし、動けなくはなっているが、幸い命に別状はないようだ。

 こちらも剣を使って直撃は免れているものの、ガスパールとマリウスが吹っ飛ばされた。



 マリウスはともかく、戦闘能力の高いガスパールまでやられるくらいのスピードと威力があるのはかなりの脅威だ。

 もうアリアの魔導具も魔力が尽きたのか、シモンが壁際まで退避させている。

 身体強化を使っても触手の数が多くて、ジリ貧状態へと追い込まれてしまう。



「団長! このままじゃこっちが消耗しちゃうよ! 触手が硬過ぎて斬れない!」



「アルノー、アレ(・・)の使用を許可する! シモンはアリアを守っておけ! デジレもフェリクスを守って下がれ!」



「私も戦う!」



 庇うデジレを振り切るように、前に出て来るフェリクス。



「バカッ! 頭を下げろ!」



 迫る触手に気付いておらず、咄嗟にフェリクスの頭を抱きかかえるようにして飛びついた。

 一緒になって倒れ込んだものの、何とか触手は回避し、剣に魔力を纏わせて振るうと、床に切断された触手の先端が落ちる。

 邪神討伐の途中からも感じたが、俺の魔力が不足すると、ジェスとジャンヌの魔力が補充される感覚がするのだ。

 これならやれる!



「デジレ! フェリクス様を頼んだ!」



「ああ! フェリクス様、こちらに!」



「アルノー、準備はいいか!?」



「いつでも!」



「残った者は同時にやるぞ! ……今だ!」



 触手を再生させようとしているのか、動きが一瞬止まったのを見逃さずに指示を出す。

 近衛部隊の剣では傷は付けられないが、攻撃をいなす事はできる。

 それがわかっているからか、アルノーが動きやすいように連携してくれているようだ。

 俺も回復した魔力を使い、次々に触手を斬り落とす。



 アルノーが襲って来る触手を掻い潜り、脇腹に剣を突き立てた。

 すぐに引き抜き距離を取る。

 その直後、フレデリクが悲鳴を上げた。



「があぁぁぁぁっ! 何だこれは……ッ! 熱い……痛い! 痛い! 助けてくれぇっ!」



 刺された傷口から変色し始めたフレデリクは、俺達が目に入っていないように、暴れてのたうち回りながらも出口へと向かう。



「一体何が起こったのだ」



「部下の剣に五百年前にいたという毒竜の毒を塗ったのです。知り合った古竜(エンシェントドラゴン)にですら、触れただけで鱗がただれると言わせる、強力な毒をね。死ぬのは確定でしょうが、万が一にでも外で暴れると大変ですから追いましょう」



「ああ、ポーションを飲んで回復したら行くぞ!」



 呆然とするフェリクスにざっくりと説明した。

 さっき使用許可を出した物が、黒からもらった毒なのだ。

 俺には必要ないとして、ひとつしかない上に、危なすぎてアルノーにしか持たせられないと、ジュスタン隊で話し合って決めた。

 これで放っておいてもフレデリクは死ぬだろう。しかし、あのまま暴れられて魔塔が崩れでもしたら厄介だ。



「なぁ、さっき団長……フェリクス王太子の事呼び捨てにしてなかったか?」



「ですよね? 自分も聞きました。しかもバカって言ってました」



 フラつきながらも立ち上がっているガスパールとマリウスの言葉は聞かなかった事にして、地上への階段に向かった。

エルドラシア王国編もあと一話!

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