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200.

「なぜこの国の者ではない我々にそのような要請を? 本来であれば貴国の者だけで解決すべき事なのでは?」



 確かにエルネストの言った事は正論だ。

 しかし、恐らくそんな事はフェリクスだって百も承知だろう。



「それは……。情けない話ですが、現在調査の最中というのもあり、今の我々に確実に信用できる者達が少ないのです。ここで相手勢力の者が紛れ込めば、大きな痛手になりますから」



「ふむ、それなら他国の我々の方がまだ信用できる……と」



「それもありますが、何よりクラリスがエルネスト様は絶対に信用できるから安心するよう言われて……」



「! クラリスが……、そうか……」



 上手いな。

 そんな言い方をされたら、エルネストは協力せざるを得なくなるだろう。

 実際エルネストは満更でもない様子だ。



「それに、これまでの話からヴァンディエール殿もアリアと浅からぬ仲のようですから」



 ちょっと待て、その言い方は誤解を生みそうなんだが。

 やめろエルネスト、疑惑の目を向けるな。



「コホン。縁があって実験の手伝いなどもしていましたからね。最新の魔導具の購入権を餌にされて」



「そういう事か。ではジュスタン隊は魔塔へ向かう事に異議はないのだな?」



 どうやら納得したらしく、魔塔へ向かう事に対して肯定的になったようだ。



「帰る家がなく、魔塔に住み続けているのはアリアだけでしょうから、彼女と関わったジュスタン隊は全員行く気になっているかと」



 確認のために部下達を振り返ると、全員当然とばかりに頷いている。

 そんな俺達に、フェリクスは頭を下げた。



「感謝する……」



「我々がしたくて協力するのですから、頭を上げてください。あ、エルネスト様は何かあった時に責任者不在は困るので、ここで待機してくださいね」



「そんな!?」



 いや、そんな、じゃなくて当然だろう。

 ついて来ようとするエルネストを説得し、ジュスタン隊は護衛する時の騎士服で魔塔へ向かう事に。

 迎賓館の玄関を出ると、フェリクスの近衛が五人待っていた。



「恥ずかしい話だが、絶対の信頼が置けるのはこの五人だけなのだ」



 フェリクスは申し訳なさそうにそう言ったが、邪神討伐と違い、相手は魔塔主一人なのだから十分だろう。



「五人も信用できる者がいるのなら、誇ってもいいと思いますよ。私はエルネスト様が信頼している者が何人いるか知りませんが、五人もいるかどうか……」



 実際、常に侍っている側近という者がいないのでは、と思う。

 俺を陥れようとした時に離れて行ったのかもしれない。だとしたら自業自得とはいえ、原因は俺か。



「はは、たとえ一人でも、ヴァンディエール殿のように頼りがいのある者がいるのであれば、それはそれで幸せ者だな」



 うん? フェリクスは何か勘違いしていないだろうか。

 今の言い方だと、まるで俺がエルネストから信頼されているみたいじゃないか?



「何を不思議そうにしているのだ? まさかあれだけ信頼されていて、気付いていないわけじゃないだろう?」



「信頼……されている……のでしょうか?」



 俺とフェリクスは、お互い言っている事が理解できずに二人して首を傾げた。



「団長ってあんなに鈍かったか?」



「数年間いがみ合っていたから、すぐには切り替えられないんじゃない? あれだけ懐かれているのにね」



 ヒソヒソとシモンとアルノーが囁き合っているが、今は信頼しているとかされていないとか関係ない。



「ンンッ、それで、今から魔塔へ向かいますか?」



「ああ。先に馬車は準備してきたから乗ってくれ」



 確かに迎賓館の前には三台の馬車があった。

 基本的に馬車は四人乗り、当然のようにジュスタン隊の部下達は四人まとめて最後尾の馬車に乗り込んだ。

 近衛部隊の隊長とフェリクスは先頭の馬車へ、残りの近衛部隊は二台目の馬車へ乗り込んだので満席。

 そうなると必然的に俺はフェリクスの乗る馬車しか選択肢がない。



 進行方向を向いて座るのは、当然フェリクス。俺と近衛部隊長はその向かいに座ったので……狭い。

 近衛部隊長が大男じゃないのがせめてもの救いか。

 クラリスの護衛をしていた時に、近衛部隊長のデジレとは挨拶をしたが、これから戦闘になった時のためにお互い名前で呼び合う事にした。



 戦闘中に、長い家名や役職名で呼ぶのは非効率だからな。

 デジレは現在三十歳で、フェリクスが生まれた時には近衛部隊見習いで、それからずっと仕えているらしい。

 フェリクスにとっては最も信頼できる、歳の離れた兄のような存在だとか。



 そんな話をしている間に、魔塔の前に到着した。

 普段から魔塔の人間は引きこもり気味とは聞いているが、あまりにも人の気配がしない。

 馬車を降りて魔塔の扉をフェリクスが開いた。魔力を登録されていない者のための、鍵代わりの魔導具を持って来たようだ。



 中に入ると、シンと静まり返っている。

 まずはアリアの安全を確保して、それから魔塔主の元へ行く事になった。

 お見舞いに来ていたおかげで、アリアの部屋はわかっている。自分達の足音しかしない塔内を進み、アリアの部屋に到着し、フェリクスがノックをした。



『誰……!?』



「私だ。魔塔の様子がおかしいから見に来たんだが、無事か?」



『フェリクス様!?』



 バタバタと部屋の中から足音が聞こえ、勢いよくドアが開く。



「どうしてあなた達までいるの!? フェリクス様、いったい何が……?」



 俺達を見て更に驚く、物々しい恰好のアリア。恐らく魔塔主が来たのかと警戒していたのだろう。



「魔塔の様子を見に行った者からの連絡が途絶えたのだ。それと同時に魔塔は数日閉鎖されるからと、全員家に戻っていると聞いた。それでアリアが危ないのではと様子を見に来たのだが……、変わった事はないか?」

 


「はい……、急に五日間休みにするから、全員家に帰るようにと。だけど、あたしはここが家だからどこにも行けなくて……。もしかして魔塔主が来るかもと思って身を守る魔導具を準備していたんです」



 だから護身用魔導具をゴテゴテと身に着けていたのか。

 ネックレスにブレスレット、ブローチタイプにあのベルトもそうじゃないか?

 フェリクスがアリアと話している間に、総額いくらになるんだろうかと考えていたら、ズンという音と共に魔塔全体が一瞬震動した。

あと数話でエルドラシア王国編も終わり!

クライマックス突入です!

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