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199.

 大暴れした翌日、手紙を書いた。

 もちろん国家機密に関わりそうな事は書いていないが、エルネストはもしかしたら陛下に対して書いているのかもしれない。

 エルドラシア王国を通さずジェスが手紙を届けているから、検閲される心配もないからな。



「これでよし。ジェスに預ける手紙を受け取って来るから待っていてくれ」



「わかった!」



 昨日の内にジェスとエルネストには手紙を届ける話をしておいたから、今頃書き終わっているはずだ。

 クラリスの手紙は結婚式前で忙しそうだから声をかける余裕はなかったからないが。

 ドアを開けようとしたら、ちょうどノックが部屋に響く。



『私だ。届けてもらう手紙を持って来た』



 どうやら取りに行く手間が省けたようだ。

 ドアを開けると、すぐに開くと思っていなかったせいか、驚いた顔のエルネストがいた。



「ちょうど今取りに行こうとしたところでした。今回も陛下とディアーヌ嬢の二通ですか?」



「ああ。ジェス、よろしく頼む」



「うん、任せて! ボク、今から行ってくるね。帰りは明後日かな」



 部屋の奥にいるジェスにエルネストが笑顔を向けると、ジェスは元気な返事をして俺とエルネストから手紙を受け取った。

 手紙を届けて、みんなに感謝されるのが嬉しいらしい。



「みんなによろしく伝えてくれるか? 時間があればエレノアと遊んでやってくれ。馬の方のな」



「わかった! 行ってきます!」



 ジェスが転移でいなくなったが、エルネストが立ち去ろうとしないので首を傾げる。



「他にも何かありますか?」



「いや、その……、ここではちょっと」



 キョロキョロと廊下を見回すエルネスト。

 昼食前の時間で非番の第一の騎士もいるため、聞かれてまずい話があるのかもしれない。



「部下達もいますが、それでもよければお入りください。内密な話であればエルネスト様のお部屋に行きましょうか?」



「いや、この部屋でかまわない」



 室内に入るようにエルネストを促すと、俺が言う前にマリウスがお茶の準備をしていた。さすがだな。

 テーブル席の椅子に座ると、エルネストは少し恥ずかしそうに口を開く。



「魔塔主の件でゴタゴタしているのはわかっているのだが……。魔塔の者と関わっているジュスタン団長ならわかるかもしれないと思って……、その、人が使える転移魔法の研究は魔塔でされているのだろうか」



「は?」



「いやっ、私ではないのだ! 手紙の返事を書こうと思って、前回の父上の手紙を読み返していたのだが、自分もクラリスの結婚式に出たいという愚痴と、魔塔で転移魔法が開発されていればという嘆きが書かれていて……。さすがにこの事は、普段父上と関りがある第一騎士団の者に聞かれるわけにはいかないだろう?」



「弱味を見せる事になりかねませんからね」



 平民で陛下に会う事はほぼないからいいと思っているのか、エルネストはジュスタン隊の部下達の前だというのに父親に困っている事を隠さず、大きなため息を吐いた。



「ははっ、エルネスト様も王子様だから大変だなぁ。他の貴族に弱ってるところを見せるわけにもいかないし、気に入らない貴族がいても団長みたいに威嚇できないしよ」



「フッ、お前はシモンだったか。第三騎士団の者はよくも悪くも恐れ知らずだな。だが、今の私にはそれくらいの態度がありがたい。礼儀はともかく、肩の力が抜ける場所というのはいいものだ」



 昨日まとめてしごいたせいか、何やら奇妙な連帯感を持っているように見える。



「礼儀に関しては、第三騎士団では教養もマナーも学ぶ機会はありませんからね。必要だと思うのであれば騎士団総長に進言して、訓練の中に取り込むしかありません」



「公式の場でなければ問題ない。それに……ジュスタン団長も昨日のように話しても構わない。シモンが普通に話しているのに、団長が敬語というのもおかしな話だろう?」



「まぁ……確かに。それじゃあエルネストもジュスタンと呼べばいい。どうせその内お互い団長になるわけだしな」



 前もこんなやり取りをしたのは気のせいか?

 今回のエルネストの立場がクラリスの兄という、王族としての立場を強調しているから面倒なんだ。

 いっそ早くディアーヌと結婚して家臣に下れば、こんな気を遣う必要もないのに。



「ふふっ、何だか団長とエルネスト様の間に、友情が生まれてるように見えるのは僕だけかな?」



「もしかして、リュカ副団長以外の初めてのお友達なんじゃねぇ?」



 俺達のやり取りと見ていたアルノーが、ニコニコ……いや、ニマニマと笑いながらシモン達と小声で話している。

 だが、森の中で魔物の足音を聞き逃さない俺の耳にはしっかりと聞こえたぞ。

 余計な事を言うなと口を開きかけた瞬間、珍しく慌てたようなメイドの足音が聞こえてきた。

 すぐにドアがノックされる。



『失礼します、ヴァンディエール様。王太子様が……、フェリクス王太子様がいらっしゃいました』



「わかった、すぐに行く」



 そう答えると同時に、ドアが開いた。



「移動する必要はない。ここで話をさせてもらう。お前は下がれ」



「はい、失礼いたします」



 フェリクスの命令で、メイドはすぐにドアを閉めて立ち去った。

 かなり深刻な顔をしているが、一体何があったのだろう。



「どうぞお座りください。いったいどうされたのですか?」



「エルネスト殿もいたのならちょうどいい。魔塔の内部を調査させていた手の者が消えた。しかも現在魔導師は魔塔をしばらく閉鎖するからと、家に帰されているらしい。帰る家のないアリア以外……な。何かあったのは確実だ。今から魔塔へ同行してもらえないだろうか」



「それは待ってほしい」



 そう答えたのは俺ではなく、エルネストだった。

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