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196.

「お、団長おかえり。王太子……じゃなくて、エルネスト様は何て?」



 部屋に戻ると、真っ先にシモンが聞いてきた。



「とりあえず結婚式までにフェリクス王太子に会えるように動いてくれるらしい。だが……」



「だが? 何か問題でもあるの?」



 言葉を濁した俺に、アルノーは首を傾げる。



「完全に国家機密に関わる問題ばかりで、俺達が介入していいのか今更ながら複雑な状況だな、と。それに調査するにしても、結婚式までに解決するには時間がなさすぎるんじゃないかと思ってな」



「確かに思い切りエルドラシア王国の中枢に関わる事だもんねぇ。情報が漏れた場合、捜査妨害がないとも限らないか」



「アルノー、それだけじゃありませんよ。大きな収益を叩き出している魔塔のトップ、しかも王族であれば今の王様を裏切って味方する貴族がいても不思議じゃありませんからね。ヘタに首を突っ込んだら命を狙われてもおかしくありません」



「けどよ、オレ達なら命を狙われたところで返り討ちにできるから問題ねぇだろ」



 深刻な表情でアルノーに告げるマリウスとは対照的に、シモンはあっさりと言い切った。

 そんなシモンにマリウスはキッと鋭い視線を向ける。



「何を言っているんですか! 刺客は魔物みたいに殺気を放ちながら来てくれないんですよ!? 腕のいい刺客ほど殺気を感じさせずに標的を殺すんですからね! 精鋭と認識されている自分達に、二流三流の刺客を送ってくるバカはいないはずです。この国を出るまでずっと気を張ってるなんて無理なんですから、上手く立ち回るに越した事はありません」



「マリウスの言う通りだな。気取られないよう証拠を集めて、一気にカタをつけるのが正解だろう。フェリクス王太子に会えるまでの間もお前達は情報収集するつもりだろうが、姿のわからないコーヒーの生産者や魔塔主に気付かれないように細心の注意を払え」



「「「「はい」」」」



 いつもこのくらい素直だったら楽なんだがな。



「お話終わった?」



「ああ。待たせたな、ジェス」



 もう寝る気なのか、ジェスは夜着姿になってベッドの上で待っていた。

 ワンピース姿のジェスは可愛いが、部下達のワンピース姿は可愛くないのであまり視界に入れたくない。

 ちなみに俺はこうして同室になる事を知っていたので、ラフィオス王国を出る前に上下セパレートのパジャマを特注してある。



 最初に移動の船で見つかった時はシモンはズルいと大騒ぎし、アルノーとガスパールは帰ったら同じ物を作ると言い、マリウスは家族に言って商売にしようといていたので、すでに俺が懇意にしている服屋が登録しているはずと言ったらガックリと肩を落としていた。



 自分が儲かるわけでもないのに、実家のための情報収集に余念がないのは、きっと商売人のDNAが騒ぐのだろう。

 清浄魔法を使ってからパジャマに着替えていると、部下達が俺の後ろに並んでいた。



「何だ? 今日は水浴びをしに行かないのか?」



 エルドラシア王国では風呂に入る習慣がなく、基本的に水浴びか魔導具で清浄魔法をかける。

 例外はこの迎賓館の国賓のための部屋に一応ついているくらいだ。

 さっきエルネストの部屋で見たが、いわゆる猫足バスタブのような浴槽で、足を伸ばして入れるタイプではない。



「団長はもう寝るだけでしょ? 今夜はもう魔力を使わないだろうから清浄魔法をお願いしたいな~と思って」



「そうそう、ジェスだって俺達がいなくなったら寂しいよなぁ?」



 ニコニコとおねだりするアルノーに便乗して、シモンがジェスを味方につけようとした。



「水浴びしにいくだけでしょ? 別に寂しくないよ?」



「そな……、ジェス……!」



 予想と違う返事だったせいか、ガーンという効果音が聞こえてきそうな顔をするシモン。



「だけど清浄魔法をかけてほしいなら、ボクがかけてあげようか?」



「えっ!? ジェスって清浄魔法使えたっけ!?」



「えへへ、あのねぇ、山の巣にいる間にお父さんが魔法を色々教えてくれたんだ! 『清浄(クリーン)』」



「おぉ~! すげぇじゃねぇか! サッパリしたぜ、ありがとうな、ジェス」



 どうやら四人同時に清浄魔法をかけたらしく、全員が首元を触ったりして驚いている。



「さすがドラゴンだねぇ。ジャンヌも魔法を使えるだろうけど、ジェスのお父さんの方が魔法が得意なのかな?」



「うん! お父さんは人族が忘れちゃった魔法もたくさん知ってるって! 難しい魔法が多いから、もう少し大きくなったらもっと教えてもらう約束してるんだ」



古代魔法(ロストマジック)……」



 アルノーとジェスの会話を聞いて、マリウスが呆然と呟いた。

 古代魔法なんて触ったら崩れそうな古い本にしか書かれていない魔法だからな。

 実際小説(『滅救』)の中では言葉だけチラッと出て来ただけで、実際作中に魔法が出て来る事はなかった。



「実際転移魔法も古代魔法だからな。さすが古竜なだけはある」



「ボクのお父さん凄いでしょ! ボクも大きくなったらお父さんみたいな凄いドラゴンになるんだ! そうしたら……あっ」



 そこまで言ってジェスは両手で口を塞いだ。

 恐らく話すなと言われた事を言いそうになったのだろう。



「どうしたジェス? 言えよ」



「ううん、これは言っちゃダメって言われてるから」



 両手で塞いでいるせいで、くぐもった声で答えるジェス。



「黙ってりゃわかんねぇって!」



「やめろシモン。ジェスは父親との約束を破りたくないんだから、無理強いするんじゃない」



「ちぇ~、わかったよ」



 不満そうにしながらも引き下がったシモンに、ジェスは安堵の表情で口から手を離すと俺に抱き着いた。



「ジュスタン大好き!」



「俺も大好きだぞ」



 反射的に答えて抱き締め返し、部下達が固まっている事に気付いたのは三秒後だった。

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