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188.

「あ~あ、やっちまったな」



「可哀想に」



「泣きそうな顔してましたね」



「タイミング悪過ぎだろ」



 部屋に戻ると部下達が好き勝手に言っていた。



「誰のせいだろうな?」



「「「「…………」」」」



 俺のひと言で全員が黙った。約二名は自分達が話題を振ったせいだという自覚はあるようで、目を逸らしている。

 ガスパールとマリウスの視線はシモンとアルノーに向いているから、これは自分達じゃないという無言の主張だろう。



「まぁいい。過ぎた事は仕方ない。結婚式の警備について…………あれ?」



 そういえば俺が手紙を渡しただけで、結局エルネストは何も警備について何も話さず行ってしまったような。



「どうしたの? 団長」



 途中で話が止まったせいか、アルノーが首を傾げている。

 この事を言ってしまうと、エルネストについてまた色々言い出すのは簡単に予想がつく。

 とりあえずここは誤魔化して聞きに行くか。



「確認が足りない事があるからちょっと行ってくる」



「えっ!? さっきへこませたばかりのエルネスト様に今から会うの!? さすが団長!」



「ぐっ」



 アルノーの言葉に思わず声が漏れた。

 俺だってさすがに今会うのは気まずいに決まっているだろう!

 だが、わざわざ責任者であるエルネストが自ら来たのだから、重要な内容のはずなんだ。

 それを言わずに行ってしまったのだから仕方ないじゃないか!



 だからと言って、エルネストが言わずに立ち去った事を言えば、また俺のせいだと騒ぎ出すだろう。

 やはりここは確認事項がまだあると言っておくのが正解だな、うん。



「とにかく! 行ってくるから騒がず待っていろよ! すぐに戻って来るからジェスも待っていてくれ」



「うん、わかった!」



 素直に頷くジェス。

 部下達もジェスくらい素直だったらどれだけよかったか。

 ジェスと自分達への態度が違いすぎると騒ぐ部下達の声は聞こえないフリをして部屋を出た。



 部屋を出たはいいが、エルネストを訪ねるのはとても気が重い。

 仕事の話なんだから、さっきの事はなかったように振舞うのが正解か?

 それとも何かフォローすべきか……。

 そんな事を考えながら、王族であるエルネストが使っている一番豪華な部屋に到着してしまった。



 騎士団の執務室として使っている部屋に向かうべきか迷ったが、さっき手紙を渡したから恐らく私室で手紙を読んでいるだろう。

 目を瞑り、深呼吸をしてからドアをノックする。



「エルネスト様、ヴァンディエールです」



『…………入れ』



 少し間があったが、気にしたら負けだ。



「失礼します」



 迎賓館のエルネストの部屋に入ったのは初めてだが、想像通り俺達の使っている部屋とは比べ物にならないくらい豪華だった。

 まずベッドは天蓋付き、遮音と遮光のためか厚い布のカーテンが付いている。

 ベッドの他にもくつろげる長椅子と、お茶を飲むための丸テーブルに肘掛付き椅子が四脚、窓際には小さめの執務机まであった。



 エルネストはその執務机でさっき渡した手紙を読んでいたらしい。

 部屋に来たのはいいが、話すべき内容を話さず立ち去ったと指摘するのはかなり気まずいな。

 だが、それを言わなければ来た意味がなくなるので覚悟を決める。



「先ほど手紙を渡してしまったせいで、結婚式当日の警備についてのお話をまだ聞いてなかったので参りました」



「…………あ」



 その事実に今気付いたのだろう。

 面白いくらいにエルネストの顔が赤く染まった。

 一応俺が話を聞く前に手紙を渡してしまったから、というていでフォローしたので、エルネストがどうとでも誤魔化せるようにしたつもりだ。



「やはり近衛でない我々第三の者は待機でしょうか?」



 制服の色も違うしな。

 俺達が結婚式の会場で警備していたら、制服の違いで違和感を覚える者も多いだろう。

 部下達はクラリスの花嫁姿を見たいと言うかもしれないが、解放された中庭でテラスから国民にお披露目するだろうから、その時に見ようと思えば見れるはずだ。



「いや、輸出入に関係している商人と繋がりのある、一部の貴族が参列するために来るのだが、受け付けでその者達の確認後、平民に開放される中庭や他の警備に回ってほしい。何もないと思うが、何かあった時の事を考えると各所に我々側の人員を配置しておきたいからな」



 その表情は先ほどまでのエルネストではなく、王族として、そして騎士団の責任者としての顔つきに変わっていた。

 確かに万が一にでも騒動が起こった時、必ず情報が錯綜する。

 俺達がバラけて配置されていたら、直接見聞きした情報が手に入るからいい判断だと思う。



「はい」



「これは当日使用される場所のみが記されている王宮の図面だ。配置される場所と指示を書き込んであるから目を通しておいてくれ」



 本当だったら、さっきコレを俺に渡すはずだったのだろう。

 などという事は顔に出さずに書類を受け取った。



「ああそうだ、クラリスからの伝言を忘れていた。魔塔の……アリアという者が怪我をして学院を休んでいるらしい。様子を見に行きたいが、抜け出せそうにないから代わりにお見舞いに行って様子を見て来てほしいそうだ」



「承知しました。では失礼します」



 どうやらエルネストはさっきの事をもう気にしていないようで、ホッと胸を撫で下ろす。

 頭を下げて部屋を出ると、アリアのお見舞いに行くのにジェスと部下達に声をかけるべく、みんなが待つ部屋へと向かった。

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