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187.

ジュスタン視点に戻ります


「ただいま~」



 ジェスが手紙を持って転移した二日後、昼食を食べて部屋のソファでくつろいでいたら返事の束を持って帰って来た。



「おかえり、ジェス。お使いお疲れ様」



 頭を撫でると嬉しそうに笑う。

 先日重い話を聞いたばかりなので癒される……。



「お~? 戻って来たか! 母ちゃんにしっかり甘えてきたか~?」



「ボクもう十歳だから甘えないもん! シモンのバカ!」



 この慌てよう、恐らく多少なりとも甘えてきたのだろう。



「シモン、余計な事言わないの! ジェスはちゃんとお使いしてきたんだから、ねぇ?」



「うん! ちゃんとお返事もらってきたよ!」



「ありがとう」



 アルノーの言葉で、誇らしげに手紙の束を俺に差し出した。

 中には随分と分厚いものもある。

 宛名を見ると、クラリスに向けた陛下からの手紙。思ったより親バカのようだ。

 先に俺宛ての手紙に目を通してから届けに行こう。



 マリウスがペーパーナイフを差し出してくれたので、最初にアナベラからの手紙を開封する。

 いきなり屋敷の管理を丸投げしてしまったし、何か困った事があるなら解決しないといけないからであって他意はない。



 内容は王都の皆は変わりなく過ごしている、屋敷の使用人もみんな親切で働き者だから安心してほしい、エルネスト様がいなくてディアーヌ様が寂しそうだ、と書いてある。

 そして最後の方に控えめな字で本音らしき事が書かれていた。エルネスト様は結婚式の後帰って来るけれど、ジュスタン様は帰って来ないのはわかっているので、時々はこうして手紙をくださると嬉しいです、と。



 不覚にもときめいた。

 これまで(ジュスタン)が付き合ったり遊んだ女性達は、遊び慣れている割り切った関係ばかりだったせいか、こういう控えめな女性に免疫がないからかもしれない。



 部下の前でデレるわけにもいかず、平静を装いジャンヌからの返信を開封する。

 便箋と封筒ではなく、ジャンヌの物だけ紙を丸めて麻紐で縛ってあるからすぐにわかった。

 そして読み進めて言葉を失う。



「団長、どうしたの?」



 手紙を開いたまま固まった俺に、首を傾げながら聞くアルノー。



「ジャンヌからの返信なんだが……、黒が言うには俺がこの国の後に行こうとしているルートだと、エルフに遭遇する可能性があるとか……」



「エルフ!? 俺も結婚式終わってから団長に付いて行くぜ!」



「ちょっとシモン、勝手に決められるわけないでしょ!」



「だってよ、実在するかわからなかったエルフに会えるかもしれないんだぜ!? エルフっていやぁ美形ってのがお決まりだしよ!」



 興奮しているシモンは行く気満々だ。



「だが、性格がとんでもなく高慢らしいぞ」



「いいじゃねぇか! 高慢な女が時たま見せる弱い姿がたまんねぇんだよなぁ」



 恐らくシモンが言っているのは娼婦の事だろう。

 俺は手紙をテーブルに置き、そっとジェスの耳を両手で塞ぐ。



「あ~あ、シモンってばしっかり手のひらで転がされてるよねぇ。そんなの彼女達の常套手段じゃないか。だから上手くいかないんだよ」



「なんだと!?」



「まぁ待て。案外人の裏を考えるのに疲れて、シモンのような裏表のないバカの方が安心するというタイプもいるだろう。だから悲観する事はないぞ」



「だよな! さすが団長!」



 バカと言ったのはいいのか。事実だから諦めているのか?

 アルノーのからかいにシモンがムキになり、なぜかこちらにも飛び火する中、部屋のドアがノックされたがマリウスが立ち上がったので任せる。



「団長も(おんな)の裏を考え過ぎて疲れちゃってたりするの?」



「俺が手を出したのは割り切った関係の女だけだ」



「あれ? だったらタレーラン辺境伯令嬢はなんだったんだ? もしかして本気だったとか?」



「あ~、でも婚約者のシャレット伯爵令嬢とはちょ~っとタイプが違うんじゃない? これはもしかして将来修羅場の予感……!?」



 シモンとアルノーがにニヤニヤとしながら絡んできた、ガスパールは飛び火を恐れてか口をつぐんでいる。



「ディアーヌ嬢に言い寄ってたのはエルネストに対する嫌がらせのためだけだ!」



「だ、団長……」



 ついムキになって反論してしまった。

 さっきアナベラからの手紙を読んだせいか、少しでも誤解される芽は摘んでおかないとと思ったせいだ。

 だが、それが大きな失敗だったと気付くのはマリウスの声でドアの方に視線を向けた時だ。



「邪魔してすまないが……、結婚式当日の警備について伝えておこうと……思って……」



 そこにいたのは笑顔を作ろうとして失敗しているエルネストだった。

 あ、ヤバい。こらえようとして涙目になっている。

 俺はジェスの耳から手を離すと、エルネストとクラリス宛ての手紙を掴んで早足でドアに向かった。



 明らかに面白くなるぞという顔をしている部下達をひと睨みし、乱暴にドアを閉める。

 廊下でエルネストと二人きりになり、うつむいてしまったエルネストに言い訳を始めた。



「あ~……、さっき言った言葉は……その、改心する前の事で……。今はそんな事思ってもないから……。あ、そうそう! ジェスが手紙の返事を届けてくれたんだ。これはエルネストの分で、こっちがクラリス王女の分」



 そう言って手渡した手紙は、明らかにクラリスの方が重みがあるという、今のエルネストの落ち込みに拍車をかけるものだった。

 力なく連絡事項を話し、立ち去る背中には何とも言えない哀愁が漂い、さすがにちょっと心が痛んだ。


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