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181.

 シモンを先頭に魔導具が示した針熊と思われる魔物の元へと向かう。

 部下だけの時、普段のまとめ役はアルノーだが、戦闘の時は自然とシモンがリーダーシップを見せる。

 もう少し戦闘以外で思慮深さを見せてくれたら、間違いなく隊長として指名できるのだが。



 ハンドサインで歩みを止め、少し離れたところにいる角兎を囮にするためにマリウスに指示を出す。

 そっとマリウスが回り込み、石礫(いしつぶて)を角兎に投げつけると、驚いた角兎が針熊の方へと走り出した。

 角兎がちょっとした草叢の中を通り抜ける音と気配に、針熊は瞬時に警戒態勢になり、角兎が姿を見せた瞬間針を撃ち出して角兎に対して警戒態勢をとる。



 その間に針熊を囲むように移動していたアルノーとガスパールに対し、シモンはハンドサインで攻撃の合図を送った。

 無言で飛び出す三人。

 三方向からの敵に針熊は慌てて背を向け、シモン……つまりは俺達の方へと針を飛ばした。



「ひょぇっ」



「きゃあぁぁ!」



 妙な声を出してギリギリで飛んで来た針を避けるシモン。

 シモンが避けた針は、当然後方にいる俺達の方へと飛んで来る。

 先に角兎を攻撃したおかげか、飛んで来た針の数は五本程度だった。

 難なく剣で弾くと、そのまま斬りかかろうとしていた三人を止める。



「おい! 殺すなよ! もう針は回収できるだろう!」



「「「あっ」」」



 実際角兎に対して針を撃ち出した時点で任務は完了していたのだ。

 しかし、普段魔物を見たら討伐するのが当然というのが身体に染み付いているせいで、無意識に討伐する気になっていたのだろう。



 攻撃を避けられた針熊は、三人が動きを止めた瞬間に走り去った。

 それを見届け、俺が弾いた針を回収する。

 バーベキュー用の金串のような長さと太さだが、重さは随分と軽い。



「おーい、アリア、角兎も一緒に回収するか?」



「するっ! 角も素材として使えるから! 肉も解体して食べるわ」



 シモンの言葉に、悲鳴を上げて腰を抜かしたようにへたり込んでいたアリアが立ち上がる。



「わかった」



 角兎の耳を掴んで持ち上げると、シモンは刺さった針を無造作に引き抜き始めた。

 十本ほどの針を抜き取ると、血塗れの針と角兎をアリアに差し出す。



「ほら」



「あ……、え~と……。ちょっと待ってね」



 血が滴ったまま渡されると思ってなかったのか、アリアはオロオロとしながら魔法鞄を開けた。



「ちょっと待てシモン。『清浄(クリーン)』……ほら、これなら平気だろう」



「ありがと……」



 俺が清浄魔法をかけると、(したた)っていた血も消え、アリアはホッとした表情で角兎と針を受け取った。

 しかし、この針は武器として使えそうだ。



「この針を一本もらっていいか?」



「ええ。一本くらいなら構わないわ。だけど根本の方は返しがついているから気を付けてね」



「わかった」



 確かによく見てみると、針の先端の反対側にはギザギザとした返しがついていた。

 これがあるから貫通せずにダメージを与えられるようになっているのか。



「これ魔力入ってるね」



 俺が針を見ていたら、ジェスが手元を覗き込んで言った。



「さすがドラゴンね。そうよ、成長するごとに針に込められる魔力が増えて強くなるのが針熊の特徴なのよ。だから魔力を溜め込む性質を利用して魔力回路を……」



「ちょっと待ったぁ!」



 説明の勢いがついてきたところでシモンが止めた。



「なによ?」



「それ以上説明されても、どうせオレ達には理解できねぇから」



「「「「一緒にするな!(しないで)(しないでください)」」」」



 同時に言ったが、ガスパールの目が少し泳いでいるのを俺は見逃さなかった。

 だがまぁ、そこを指摘するほど俺も鬼じゃない。

 そのままぶすくれたシモンの手をジェスが引っ張って、王家の森を後にした。

 森を出ると、すでに待機していた馬車に乗って王都へと向かうため、シモンが俺達の馬車に乗り込む。



「それでどうしてお前はまたこっちに乗っているんだ」



「ジェスと手ぇ繋いでここまで来たんだからこっちに乗らないと! な~?」



「ね~! ジュスタン……ダメ?」



 俺の隣に座ったジェスが上目遣いで聞いてきた。



「安心しろ、もう乗っているんだから追い出したりはしない」



「よかったねぇ、シモン」



「ジェスのおかげだな~! オレだけだったら絶対追い出されてるぜ」



 アリアとシモンは平民だからか、馬車に乗る時は当然のように進行方向の座席を俺に空けてくれている。

 俺としては一応女性のアリアに譲りたいところだが、そうなると俺とシモンが並んで座る事になるので気付かなかったフリをしてそのままだ。

 大柄な男二人が並んで座っているのを見る方も暑苦しいだろうしな。


 

 王都に到着した時には昼時という事もあって、食堂やカフェがにぎわっていた。

 とあるカフェの近くでアリアが急に窓に張り付く。



「あっ! 魔塔主からコーヒー豆のお使い頼まれていたんだった! 御者さん、コーヒー店の前で止まって!」



「コーヒー!? コーヒーがあるのか!?」



「あら、コーヒーをよく知っていたわね。四年くらい前から高原の民族が広げた飲み物なんだけど、ラフィオス王国にもあったのね」



「いや、知識として知っていただけだ」



 まさかこっちの世界でもコーヒーが飲めるなんて思わなかった。

 もの凄く好きというわけではないが、たまに飲んでいたから懐かしく感じる。



「最初に魔塔主が飲み始めていたんだけど、師匠……先代魔塔主も気に入っちゃって、おかげでコーヒーを淹れるの上手になったんだから!」



 わかりやすいドヤ顔で俺を見てきた。



「そうか……、今度店に飲みに来よう」



 きっとアリアが淹れたコーヒーが飲みたいと言わせたかったのだろうが、今度はどんな対価を求められるかわからないからな。

 そう思って躱すと、アリアは無言で乱暴に馬車のドアを閉めてコーヒー店へと向かった。

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