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178.

「あ、そういえばアリアと森へ遊びに行く約束しちゃったんだけど、行ってもいい? できればジュスタンも一緒にだって」



 朝食も終わりかけの頃、今思い出したと言わんばかりにジェスが聞いてきた。

 期待に満ちた眼差しに、ダメとは言えない。



「構わないが……、いつの間にそんな約束を?」



「あのねぇ、みんなで肉串を食べて、ジュスタンのクッキーのお話してる時! 上手くいけば面白いものが見られるんだって」



「面白いもの……? 何か森で使う魔導具でも試しに行きたいのかもしれないな。ああ、俺達を護衛代わりに連れて行きたいという事か。腕が鈍るのも困るしな、お前達も一緒に来るといい」



「「「「えぇっ!?」」」」



 笑顔のままの俺に怯えて、ずっと無言で食事していた部下達が驚きの声を上げた。

 第一の連中の代わりはもうしなくていいはずだから、遠出の視察でも行かない限り俺達の出番は結婚式までない。

 だったら訓練場に籠っているより、森に行って実践の勘を鈍らせないようにした方がいいだろう。



「何だ? 何か不満でもあるのか? お前達も森で魔物相手に剣を振っていた方が気分転換にもなるだろう」



「確かに訓練場だけにいるのは飽きてきたから、ちょうどいいな。オレは行くぜ!」



 真っ先に答えたのは、予想通り一番ジッとしていられないシモンだった。

 他の奴らもシモンに同意しているから、一緒に行く気になったようだ。

 これで森を探索するために、多少の単独行動が可能になったな。



「それじゃあ、いつ行くのかアリアに手紙を出して確認しておこう」



「わぁい!」



 食後に手紙を書いて、迎賓館の執事に頼んで届けてもらうと、その日の午後に返事が届いた。





「よく来てくれたわねっ! 美味しい果物が採れる場所があるんだけど、結構魔物が出るのよね。果物目当ての人間を襲ってるみたい。……で、その魔物を使って魔導具の実験をしたかったのよ。あなた達が来てくれて助かったわ」



 返事には翌日が指定してあり、魔物は小物しか出ない区域だという事で、軽装備で待ち合わせ場所に到着した。

 そして顔を合わせた瞬間向けられたのがこの言葉である。

 やはり俺達はていのいい護衛らしい。



「よくも俺の隙をついてジェスと約束してくれたな」



「ふふっ。あなたドラゴンには甘そうだったし、その子から頼まれたら嫌とは言わないでしょ?」



「…………」



 どうやら俺とジェスの関係性をしっかり見極めた上での行動だったらしい。

 後ろでアルノー達が「あの子やるね」とか言っているが、魔導師をしているという事は頭がいいはずだ。お前達も気をつけろよ。



「まぁまぁ。その代わり、先代から引き継いで研究している最新魔導具の購入権を渡すから!」



「…………いいだろう。俺達としても勘を鈍らせないために実践できる環境は願ったりだ。しかし、魔塔の者の要請であれば、護衛の兵士くらい出してもらえるんじゃないのか?」



 内心小躍りしたくなるくらい嬉しい申し出だったが、あまり喜んでは足元を見られかねないので平静を装う。



「あなた達もそうでしょうけど、王宮の兵士は貴族出身ばかりだから、平民のあたしの頼みなんて聞いてくれないもの。それに……ううん、なんでもない。さぁ、森へ向かうわよ!」



 迎賓館で用意してもらった馬車二台で森へと向かう。

 俺の予想では部下達四人と、俺はアリアとジェスの三人に分かれて乗ると思っていたのに……。



「オレ達だけ制服の色が違うだろ? エルドラシア王国に来ているこの制服の第三騎士団だと、団長と副団長以外は平民だから気を遣わなくていいぜ。団長も一見怖い……、いや、本当に怖いけど子供には優しいから安心していいはずだしな」



「なにそれ、微妙に安心できないわよ。それにあたし子供じゃないわ! もう十四歳なんだから!」



「そういやクラリス王女と同い年なんだって? 見えねぇな!」



「失礼ね!」



 なぜか俺達の馬車に同乗してきたシモンが、あっという間にアリアと仲良く(?)なっている。

 それにしても、こいつ女の子に対しても普段からこんなにデリカシーのない事言っているのか。

 ジェスは二人の会話をニコニコして聞いている。



 このままシモンにアリアの子守りを任せられるならありがたいのだが。

 しかし、そのせいで最新魔導具の購入権がシモンのものになってしまったらシャレにならないし……。



「ところで……、実験と言うのはどういう事をするんだ? 魔物を討伐する魔導具でも作っているのか?」



 万が一にでも対人戦で使えるような、兵器になる魔導具であれば警戒しなければならない。

 だが、アリアはケラケラと笑った。



「やぁね~、そんな開発中に事故が起こりそうなもの作らないわよ! 私が今研究しているのは、小型の魔物が畑を荒らさないようにするためのものなの。これは……、先代の遺した研究のひとつなんだ。理論の骨組みだけはできていたけど、使えるレベルにするには時間が足りなかったみたい」



 魔導具が入っているであろうポシェット型の魔法鞄(マジックバッグ)を、大切そうにそっと撫でるアリア。

 馬車内がしんみりとした空気になった……が。



「そういや、果物ってどんなのが採れるんだ?」



 何も考えていないシモンのひと言でその空気は壊された。

 たまには役に立つじゃないか。

コミカライズ昨日更新されております。

次回のコミカライズ更新はなんと6月!

それまでは小説の更新だけで我慢してくださいね!

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