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177.

「疲れた……」



 フェリクス達の護衛が終わり、迎賓館で寝支度をした後ベッドに倒れ込んだ。



「団長がそんな風になってるの珍しいな。討伐の時より疲れてねぇ?」



 ドラゴン姿のジェスと遊びながら、隣のベッドでシモンが首を傾げている。



「魔物討伐の方が何倍も楽だ……っ! 結局俺があの四人の世話係をしていたも同然だっただろう」



「ジェスも合わせて五人分だったと思うんだけど」



 俺の嘆きを聞いてアルノーが言ったが、ジェスはあの四人のように世間知らずのまま好き放題動こうとはしない。

 大した金額ではなかったものの、結局色々俺が奢る事になったしな。



「見ていてジェスの方がよっぽど手がかからんとは思わなかったか?」



「確かに街慣れしてない王族より、時々団長と出かけているジェスの方が手がかからないかぁ」



「だろう?」



 納得して頷くアルノーに満足し、ジェスに視線を向けると、足の肉球でシモンの顔を押しのけるように蹴っていた。

 その足の肉球に頬擦りしているシモンが変態のように見える。



「ジェス、そろそろ寝るからこっちに来い」



『はぁい』



「あっ」



 シモンのベッドの上から脱出したジェスは、俺のベッドへと飛んで来た。

 中毒性のあるジェスの肉球の感触が離れてしまったシモンは、わかりやすく名残惜しそうな顔だ。

 俺のベッドに乗ると、ジェスは呪文を唱えて人化した。



「あれ? ジェスは人型で寝るのか?」



「うん! ドラゴンのままだと翼が邪魔でジュスタンと並んで寝られないからね!」



 実際以前は枕元で丸まって寝ていたからな。

 シモンに答えながら、モゾモゾとシーツの中にもぐり込むジェス。



 寝転ぶと前髪を手で掻き上げ、俺を見上げている。

 これはおやすみのキスを待っている状態だ。

 だが、部下達の前でやるのか……?



 視線だけで確認すると、部下達は思い思いに会話をしたり、寝支度をしている。

 今なら気付かれないだろう。

 そう思ってジェスの隣に寝転び、額におやすみのキスをした。



「おやすみ、ジェス」



「えへへ、おやすみジュスタン」



 嬉しそうに笑って目を瞑るジェスに、思わず頬が緩む。

 そのまま横になろうとした瞬間、視線を感じて周りを見ると部下達全員が俺を見ていた。

 驚いた顔、笑いを堪えている顔、微笑ましいモノを見る顔。

 まさか見られていたとは思わず、顔が熱くなる。



「貴様ら……っ!」



 思わず跳ね起き、声を荒げてしまいそうになったが、アルノーが口の前に指を一本立ててジェスを指差した。

 確かにここで大きな声を出したら、もう寝そうなジェスを起こしてしまう。

 グッと(こら)えると、マリウスが素早い動きで灯りを消した。



「う~ん……? どうしたの……?」



「何でもない。眠っていいぞ」



「うん……すぅすぅ」



 部屋が暗かったからか、あっさりと眠りにつくジェス。

 カーテン越しに透けて見える月明りだけの部屋の中、部下達はすでにベッドの中に入っているのがわかった。

 こういう時の連携は戦闘中と同じく見事なものだ。

 やり場のない羞恥と怒りに拳を震わせながらも、隣から聞こえてくる寝息を聞きながら俺も眠りについた。



 翌朝、起きると部下達は全員部屋からいなくなっていた。

 少し前に朝食を摂りに食堂へ行くという会話は聞こえていたが、ジェスがまだ眠っていたから起こさないようにしていたのだ。

 あいつらが先に行ったのは、昨夜の事で怒られる事を恐れてだと想像がつく。



 別にあいつらが何か悪い事をしたわけではないから、怒るつもりはないのだが。

 昨夜はつい「何を見ている」くらいは言おうとしたが……。

 …………ちょっと待て。これから毎晩あいつらにおやすみのキスをするところを見られる事になるのか?

 かといって、わざわざシーツで隠してするようなものでもないし……。



 だいたい、こちらの事なんて見てなかったくせに、おやすみのキスをした瞬間だけ見ているというのはおかしいだろう!

 いや、戦闘で常に視界を広く保つための訓練はしているが、あんな寝る前の平時に実行しなくていいんだよ!

 悶々としながら着替えをしていると、ジェスが伸びをした。



「ん、んぅ~……! おはようジュスタン」



「おはようジェス。今から食堂へ行くが、一緒に行くか?」



「うん! ジュスタンの作ったパンあるよね?」



「ああ」



 食堂はすでに結構な人数がいて、ジェスの存在に気付くと視線が集まる。

 だが、普段と雰囲気が違う気がした。

 だからと言って何かあるわけでもなく、ジェスには適当な席に座っているように言うと部下達の席に向かったので、食事を取りに行く。

 ジェス達のいるテーブルに向かおうとしたら、おかわりを取りに来た顔見知りの第一の騎士が笑顔で近付いて来た。



「おはようございますヴァンディエール騎士団長。いやぁ、ヴァンディエール騎士団長が子供に対して愛情深いタイプだとは予想外でした! 結婚されたらいい父親になりそうですね」



「は……? 一体何のはな……し……って、まさか!」



「第三の者達が結構大きな声で話していたから聞こえたのですよ。あのドラゴンにおやすみのキスをしていたと」



 何の悪意もなく、素直にそう思っているというのが伝わって来るが、俺の胸中は荒れていた。

 笑顔でみんなのいるテーブルの席に座って朝の挨拶をし、笑顔のままジェスと食事を済ませる。

 それはなぜか? その方が部下達が怯えるからな!

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