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176.

 声が脳裏に響いたと思ったら、背中に衝撃を感じた。

 懐かしいとさえ思うこの感触。



「ジェス!?」



『うん! もう絶対陸地にいるから行っても大丈夫だろうってオレールが教えてくれたんだ』



「そうか。ちゃんと転移できたんだな、えらいぞ。こっちにおいで」



 両手を前に出してそう言うと、パタパタと翼を動かして俺の腕の中におさまった。

 


『えへへ、ジュスタンだぁ』



 嬉しそうに胸元に頬ずりをするジェスの姿に頬が緩む。

 そして周りが静かになっている事に気付いた。



「申し訳ありません。従魔のドラゴンが転移で私に会いにきてしまいました」



『ボク来ちゃダメだった?』



 俺が謝ったせいか、心配そうに腕の中から見上げてるジェス。



「大丈夫だ。俺も会いたかったから嬉しいぞ」



「そんな顔で笑うんだ……」



 最初に口を開いたのは、噛り付いた肉から口を離したアリアだった。

 視線を向けると、まるで化け物でも見たかのように、目を最大限に開いて固まっている。

 失礼な奴だ。



「いや、そこじゃないだろう! ドラゴン!? それはドラゴンなのか!?」



「ハッ! そういえばドラゴンがこんなに可愛いなんて! 本物は初めて見た!!」



 フェリクスとアリアが騒ぎ出したが、微妙に二人の言っている事の意味合いが違う気がする。

 反応もわかりやすく、フェリクスは距離を取り、アリアは覗き込むように近付いて来た。

 ジェスはそんなアリアに驚いたのか、顔を隠すようにしてギュッと俺に抱き着く。



 しかしエルネストとクラリスはこれまでに何度かジェスを見ているからか、驚いた様子はない。

 ジェスとジャンヌが転移魔法を使える事も伝えてあったしな。



「ジェス、今はクラリス王女と婚約者であるフェリクス王太子の護衛中なんだ。背中にくっついているか? それとも人化して一緒に歩くか?」



『一緒に歩く!』



 ジェスはそう言うと、人化の呪文の鳴き声を上げた。

 腕の中で重みが増し、瞬きした次の瞬間には目の前に陽向(ひなた)と同じ顔があった。

 石畳の上に下すと、当然のように手を繋いでくる。



「「…………」」



 ドラゴンの出現、そして人化魔法を始めて見たせいか、フェリクスとアリアは無言で固まってしまった。



「ヴァンディエール騎士団長、早く食べてしまうといい。冷めてしまうぞ。それともジェスの分も買うか?」



 沈黙を破ったのはエルネスト。護衛中で騎士という立場を優先して役職名を付けて呼んでいる。

 フェリクスとアリアがあれだけ騒いでいたのにもかかわらず、しっかりと肉串を完食していた。

 あ、よく見たらクラリスも完食している。この兄妹がここまでマイペースだとは予想外だ。



「そうですね……ジェス、肉串を食べるか?」



 俺は昨日も食べているから、ジェスが欲しがるなら俺の分をあげよう。そう思って聞いたが、ジェスは首を横に振った。



「ううん。あのねぇ、持ってるならジュスタンのクッキーが食べたいな」



 照れくさそうに笑うジェスの顔を見たら、俺の手が腰の魔法鞄(マジックバッグ)へと動くのは当然だろう。

 小分けしてある包みを差し出すと、ジェスはピョイピョイと跳ねて喜んだ。



「わぁい! 久しぶりのジュスタンのクッキーだぁ!」



 クッキーを頬張るジェスを見ながら、俺も肉串に噛り付いた。

 ちょうどいい感じに冷めて食べやすい。



「ねぇ、今ジュスタンのクッキーって言わなかった? 確かあなたの名前よね? まさかそのクッキー……」



「早く食べないと冷めて肉が硬くなってしまうぞ」



「あ……っ!」



 余計な事を言おうとしたであろうアリアの言葉を遮り、忠告すると慌てて食べ出した。

 その時になってフェリクスもクラリスが肉串を食べ終わっている事に気付いて食べ始める。

 普段食べている物とは質が落ちるだろうが、外でこうした買い食いすると格別に感じるよな。

 それを物語っているかのように、フェリクスの表情が輝いた。



「もぐもぐ……ごくん。これは……素朴だが美味しいな!」



 チラチラとジェスを見ながらもクラリスに話しかけるフェリクス。

 アリアはジェスも気になるようだが、クッキーにも目が釘付けになっている。

 ジェスと部下だけで手一杯だからお前にはやらんぞ。



 きっと今も物陰でシモン辺りが羨ましそうにジェスを見ている事だろう。

 ジェスにはあまりシモンを甘やかすなと言っておかないと。

 優しいジェスは今もアリアの視線を気にしている。



「食べる?」



 肉串を食べ終わったアリアに、クッキーを一枚差し出すジェス。



「いいの!?」



「うん、ジュスタンのクッキーは美味しいんだよ。ボク大好き!」



「……んっ、んんん! 師匠が食べさせてくれたお店のクッキーと遜色ないわ! 美味しい!」



 褒めてくれるのは嬉しいが、フェリクス達まで興味を持つから今はやめような。

 さすがに子供の姿をしているジェスからもらおうとはしないが、興味があると顔に書いてある。

 俺にできるのは気付かないフリをするだけだ。



「ほぅ、ヴァンディエール騎士団長は剣の腕が立つとは聞いていたが、お菓子作りも素晴らしい腕なのだな」



「いえ、フェリクス王太子が普段召し上がっている物に比べたら、所詮は素人の域を出ません」



 フェリクスの言葉を意訳すると、興味があるから自分も食べたいと言っているのはわかる。

 だが下手に渡すと後々面倒な事になりかねない。

 何とかフェリクスの要求を躱している間に、アリアがジェスと遊ぶ約束を取り付けていたと知ったのは、翌朝になってからだった。

昨日コミカライズが更新されています!


そしてっ、本作二巻が緊急重版!

お買い上げいただいた皆様、ありがとうございます!!

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