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175.

 本来なら護衛役は第一騎士団になっているはずの四日後、俺はフェリクス、クラリス、そしてエルネストと共に王宮の馬車乗り場に来ていた。

 ちなみに前日に護衛のための下見としてシモン達は連れて行ったので、すでに肉串は食べている。

 というわけで置いて来た。



 いわば昨日連れて来たのは黙らせるための餌みたいなものだ。

 ただの討伐ならいいが、街中の護衛にシモンとガスパールは色んな意味で危険すぎる。

 昨日もジロジロと見てきた住人と喧嘩しそうになったり、裏道に入ろうとしたり大変だったしな。

 お忍びという事で、今回同行している護衛は俺とエルネストのみ。



 当然フェリクスとクラリスから見えない位置には、事前に第一とフェリクスの近衛が各所に配置されている。

 兄であるエルネストとお忍びで歩く事などなかったらしく、クラリスはとても嬉しそうだ。

 そして……。



「お前も本当に来たのか……」



「何よ! クラリス様に誘われたんだから当然でしょ!」



 何かあった時に俺とエルネストはフェリクスとクラリスを優先的に守るんだから、自分が一番危険だという事をわかっているんだろうか。

 いや、この能天気な顔を見る限りそんな事は考えていないな。

 恐らく学院内で安全に過ごしているところばかり見てきたから、外での王位継承権一位の危険さを知らないのだろう。



 そんな危険よりある意味大変な事があるのを、アリアは気付いてなさそうだ。

 待ち合わせの場所にアリアがいる事に気付き、クラリスが笑顔を見せる。



「アリア、来てくれたのね! さぁ、馬車に乗って行きましょう。わたくしとても楽しみにしていたのよ」



「あたしも楽しみでした!」



 クラリスと挨拶を交わすと、アリアは俺に向かって勝ち誇ったような笑みを見せた。

 俺は無反応のままエルネストと準備された馬に乗り、婚約者同士の二人は手を取り合い馬車に乗り込んで行く。

 その時になってアリアは気付いたようだ。そんな二人と一緒に自分が馬車に乗るという事実を。



 馬車の左右を守るように、俺とエルネストで馬車を挟んだ形で移動を始める。

 窓から進行方向を向いて座っている婚約者の二人と、その向かいで頑張って笑顔を張り付けているアリアが見えた。

 そういえばオレールと聖女はちゃんとやっているだろうか。



 一度アナベラにも手紙を書こう。

 ジェスとジャンヌもどうしているかな。

 忙しいと思って遠慮しているのかもしれないが、そろそろ会いに来てくれてもいいのに。

 一人で広々とベッドを使うのもいいが、小さな寝息が聞こえる心地よさというのもあるのだ。



 そんな事を考えている内に肉串の屋台がある通りに到着した。

 さすがに屋台の目の前まで馬車で乗り付けるわけにもいかず、少し離れた場所で降りた。

 アリアはいつもの制服にローブ姿だが、フェリクスとクラリスは下位貴族のようないつもより簡素な恰好をしている。



 俺とエルネストが騎士の恰好だから、見る人が見たら下位貴族でない事はバレバレな気もするが。

 むしろ、このエルドラシア王国で他国の騎士を連れていたらクラリス王女だとバレているのでは……。

 そういう意味ではアリアがいる事で、何の集団なのか惑わせているのかもしれない。



「あの屋台がそうです」



 アリアが肉串の屋台を指差してフェリクスに説明した。



「ほぅ、確かにいい匂いがしているな。では私が注文をしてみよう。……コホン、店主、五本所望する」



「え……っと……?」



 どうやら俺とエルネストの分も買うようだ。

 しかし、店主は聞き慣れない言葉遣いに戸惑っている。

 俺はフェリクスの後方から、店主に向かって手を開き、五本だと示した。



「あっ、ハイ、まいど! 一本銅貨三枚です!」



 改めて状況を理解した店主は愛想笑いを浮かべて、焼きたての肉串を五本差し出した。



「…………このまま?」



「はい?」



 どうやらフェリクスも屋台は初めてなのか、どう受け取って良いのか戸惑っているようだ。

 その時、アリアが代わりに受け取り、店主とフェリクスの双方がホッと安堵の表情を浮かべた。

 しかし、次の瞬間店主の顔が氷つく。



 なぜならフェリクスが取り出したお金が金貨だったからだ。

 銅貨は日本円にして百円、銀貨で一万円、金貨で百万円なのだから店主の反応は当然だろう。

 フェリクスの隣ではアリアも金貨から目を離せなくなっている。

 仕方ない。



「フェリクス様、金貨では店主がお釣りを準備できないと思います。せめて銀貨……できれば大銅貨と銅貨で支払った方がよいかと」



 さすがに街中で王太子とは呼べずに、名前で呼ばせてもらった。

 しかしフェリクスは困った顔で金貨を取り出した袋に視線を落とす。



「だが……、ここには金貨しか入っておらぬのだ」



 そういえば王族とその周りにいる貴族であれば、買い物がしたければ商人が屋敷に来るのが普通で、細かいお金を持ち歩く習慣なんてないからな。

 恐らく侍従ですら銅貨を持たせるなんて考えはなかったのだろう。

 その証拠にエルネスト(王族)とクラリス(王族)も一緒になって困った顔をしている。



「では、ここは私が出しておきます」



「だがしかし……」



「友好国の王族に貸しを作る機会なんて滅多にありませんからね。何かあった時は助けてください」



「わかった、感謝する」



 微笑みかけると、フェリクスは戸惑いながらも金貨を袋に戻した。

 俺が支払いを済ませると、アリアが全員に肉串を配っていく。

 だが、俺とエルネストが二人共一緒に食べていたら護衛にならない。

 とりあえず先にエルネストが食べ終わるのを待とうと思った時、不意に脳裏に声が響いた。



『ジュスタ~ン! 会いたくて来ちゃった~!』

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