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174.

「アリアではないか」



 どうやらフェリクスはアリアを知っているらしい。



「あら、フェリクス様、お知り合いですの?」



「ああ。学年は違うが、今も同じ学院に通っている魔塔の者だ。落ち着いたらクラリスにも通ってもらう事になるから、この者を覚えておくといい。先代魔塔主の弟子で魔法に精通しているから頼りになるぞ」



「まぁ! それは凄いですわね! アリアと言いましたね、わたくしはラフィオス王国第三王女のクラリスです。よろしくお願いしますわ」



「あ……わ……、こ、こちらこそ……」



 慌てて立ち上がってカーテシーをした。かなり動揺しているが、アリアの敬語はシモンと同レベルなのか?

 フェリクスに覚えられていなかったら、完全に不審者の挙動しているから牢屋行きだったぞ。

 そういえば俺が他国からの客だと知っても敬語を使っていなかったな。



「ところで……どうしてアリアは庭園にいたのだ?」



「あっ、その、この人……いえ、こちらの騎士団長さんと昨日知り合いまして……。図書館に行く途中に見かけて、どうしてここにいるのかと思って様子を窺っていました……」



 俯きながらそう告げたあと、アリアが恨みがましい目で俺を睨み上げてきたが、俺は職務を全うしただけだから逆恨みされても困る。

 俺は視線を合わせないように……もとい、フェリクスの判断を待って正面を見た。



「そうなのか? ヴァンディエール殿」



「はい。宴の席で魔塔主であるフレデリク様が魔導具店への案内役の紹介を約束してくださいまして、その帰りに偶然アリア嬢とも知り合ったのです」



 アリア「嬢」と言ったせいか、俺が貴族らしい振る舞いをしているせいか、アリアが目を見開いて俺を見ている。

 皇族の前だぞ。礼儀正しくするのは当たり前だろうが。



「素敵な偶然ですわね! アリアさん、よろしければわたくしとも仲良くしてくださるかしら?」



「へぁ……っ!? よ、よろこんで!」



 お前はどこの居酒屋の店員だ。

 微笑みかけられてアリアはわかりやすく動揺している。

 クラリスは俺の部下達とも普通に話していたからな。平民とか関係なく対応できる器の大きい王女だ。



「うふふ。これで女の子のお友達が一人できましたわ! せっかくですから一緒にお茶をいかが? もちろん時間が大丈夫でしたら……ですが」



「大丈夫です!」



 クラリスが椅子から立ち上がり、アリアの手を両手で包むと、アリアは帽子が脱げそうなくらい何度も頭を縦に振った。

 妙に嬉しそうに興奮しているが、もしかして学院で女友達がいないのか?

 フェリクスもそんな二人を微笑ましそうに眺めている。



 クラリスの人柄のおかげか、話している内にアリアの緊張も解れてきたらしく、段々と饒舌になっていた。

 思ったより敬語もちゃんと使えているが、それじゃあ昨日の態度は何だったんだ。

 呼び方はすでに「王女様」ではなく「クラリス様」と「アリア」に変わっている。

 しかも最初は魔塔や学院の話だったのに、途中からさりげなく俺の第一印象へと変わっていった。



 部下達も興味津々の様子を隠そうともしていない。

 だが、全部話すとなるとアリアが屋台で我儘を言った事もバレるぞ。

 そう思っていたが、アリアはそのくだりを完全にすっ飛ばした。



「魔塔主のお使いの帰りに魔塔のカールという魔導師と一緒に騎士団長が通りかかって、肉串を買ってくれたのはいいけど、お礼を言うまで串から手を離してくれなくて。意地悪なんだか親切なんだかわからない人だと思いました」



「あ~、団長が言ってたのはその肉串屋かぁ」



 アリアの言葉にシモンがポソッと呟いた。

 護衛中に私語はやめろ!



「あら、ヴァンディエール騎士団長がアリアの事をあなた達に話したのかしら?」



「いやぁ、そっちのお嬢さんの事は聞いてないんですが、美味しい肉串を奢ってくれるって約束はしてます!」



 耳ざとくクラリスがシモンの呟きを拾い、問いかけた。

 満面の笑みで答えるシモン。

 ちょっと待て。案内してやる約束はしたが、奢るとはひと言も言ってないぞ!?

 いや、別に肉串くらい奢っても構わないが……。



「それは楽しそうねぇ」



「そうだな」



「………………」



 クラリスとフェリクスが俺を笑顔のままジッと見てくる。

 誘わないぞ? 間違っても誘わないからな?



「も~、団長鈍いなぁ。一緒に行きたいって事だろ~?」



 よーし、シモンは今夜みっちり剣の訓練をしてやろう。



「シモン、不敬だぞ。申し訳ありません王太子、クラリス王女」



「いや、シモンの言う通りだから問題ない。クラリスも行きたいだろう?」



「ええ。その通りですわ。まだ王都内の視察をしていませんし。アリアも行きたいでしょう?」



「はい! あそこの肉串はとても美味しいんですよ!」



 アリアまで期待した目で俺を見てきた。

 お前また奢ってもらう気満々だろう。

 これ以上抵抗しても無駄な事を悟り、内心ガックリと項垂れる。



「わかりました……。では王太子側の近衛と、こちらもエルネスト様に侍従と予定の確認をしてもらいます」



 行くとなったらお忍びだよな。

 お忍びという事は人数は少数、当然その分負担は大きくなるわけで……。

 話がまとまったところでお茶会は終わり、その後はクラリスの部屋での護衛で夜まで過ごした。



 翌朝、訓練場で倒れたまま放置されたシモンが、第一の騎士により発見される事になる。

本日本作の2巻発売日です!

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