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173.

「そうして討伐が完了して戻る途中に、普通の猪に突進されて尻に痣を作って動けなくなっていましたね」



「あはははは! 本当にシモンという者は愉快だな! ぜひとも会って話してみたいものだ!」



「うふふ、本当に。今のお話はわたくしも初めて聞きましたわ。次はシモンとガスパールも一緒にいらして?」



「ははは……。では責任者であるエルネスト様と相談いたします。ですが、シモンとガスパールは言葉遣いが平民のそれですので、お二方に対して失礼をしてしまう恐れがあるとご了承ください」



 面白い話をと、フェリクスとクラリスの両殿下に求められ、アランのいたフラレスでの討伐の時のシモンの事など思い出して話した。

 その時一緒にいたアルノーとマリウスはその光景を思い出したのか、肩を震わせながら笑いをこらえている。

 離れた場所で護衛しようと思っていたのに、結局三人共すぐ近くに(はべ)る事になってしまったのは想定外だ。



 できるならシモンとガスパールを二人の前に出したくはない。

 きっとエルネストが反対してくれるだろうと期待して、答えを先延ばしにした……が。



「二人がそう希望しているのなら構わないだろう。では、シモンとガスパールも護衛の人員に組み込ませてもらうぞ。早速明日行ってもらおうか。一日寝込んでいたから、調子を戻すために訓練をしてから護衛に戻りたいという希望者が多くてな。あと一日協力してもらうぞ」



 その日の警護が終わり、ダメだという言葉を聞きにエルネストの元を訪ねたら思わぬ答えが返って来た。



「……シモンとガスパールを向かわせる時は、必ず私も同行するように組んでください。アルノーとマリウスはともかく、あの二人は本当に何をしでかすかわかりませんので」



「ははっ、心配ならば私がヴァンディエールの代わりに同行しようか?」



「やめてくれ!! あいつらの首が飛ぶ! ……っと、失礼しました」



 思わず素で叫んでいた。

 あいつらの場合は本当にポロッと不敬罪になりそうな事を口にしそうで怖い。

 こちらの焦りとは裏腹に、エルネストは肩を揺らして笑っている。



「冗談だったのですか……?」



 ジトリとした目を向けると、なぜか嬉しそうな笑みを浮かべているエルネスト。



「いや、久しぶりに以前のような口調に戻ったと思ってな」



「過去の無礼な振る舞いについては反省しております……」



「もう騎士団員という立場なのだから公式の場以外は構わないと言っているのに。私は副団長でヴァンディエールは団長なのだから、やっぱり私も敬語を使おうか?」



「やめてください」



 思わず真顔で答えてしまった。

 そんな事をされたら第一のやつらから何を言われるか、わからないからな。



「だったら普通に話してくれ」



 笑顔だが、一歩も引く気はないのが伝わってくる。



「わかりまし」



「ん?」



「…………わかった」



 そんなやり取りがあった翌日、結局俺とシモンとガスパールの三人が護衛に向かう事になった。

 


「いいかお前達。できるだけ口数は少なく、話す時はできるだけ敬語を使うんだぞ」



「も~、わかってるって団長! 何回同じ事言うんだよ」



「そんなに俺達が信用できねぇっての!?」



「そうだ」



「「酷い!!」」



 どこに信用できる要素があるというんだ。あったら教えてくれ。

 声を揃えて文句を言う二人を無視して、指示されている王宮の庭園へと向かった。

 夜間の警護をしていた第一の騎士達は、俺の後ろの二人を二度見した。

 そうだろうな。合同訓練なんかでこいつらの言葉遣いを知っているはずだから。



「待っていたぞ。初めての二人は自己紹介をしてくれるか?」



 面白がっている顔のフェリクスがシモンとガスパールに声をかけた。

 普通は護衛に名前なんか聞かないのに、完全に楽しんでいるな。



「シモンと言います!」



 申します、だろ!



「俺はガスパールです」



 私は、だろ!

 表情はなんとか取り繕ってはいるが、胃に穴が空きそうだ!

 幸いフェリクスとクラリスは笑顔のままだから問題はないだろう。

 怪しい敬語を使いながらも二人は会話を続けている。大きな失態をやらかす前に二人から引き離したい。



 怪しい人物でも現れたらどさくさに紛れて移動できるんだが。

 ん? あそこに見えるのはもしかして……。

 今日は庭園でフェリクスとクラリスがお茶会をしているから、ここに立ち入る者はいないはずなのに、見覚えのある帽子が花の陰からチラチラと見えているのだ。



「少々失礼します」



 返事を待たずに走り出し、花壇一列分を身体強化を使って飛び越えた。

 そこにいたのは予想通り魔塔のアリアで、花の陰からフェリクス達を覗き見している態勢だ。



「あ……。よ、よく気付いたわね」



 顔を引きつらせながらしゃがんだまま俺を見上げているアリア。

 俺は無言でアリアを俵担ぎすると、フェリクスとクラリスのいる四阿(あずまや)に連行した。



「は、放してよッ! どこ触ってんのよ変態! しかも女の子をこんな運び方……!」



「暴れるな、落とすぞ。今ここは立ち入り禁止になっているはずなのに、いたお前が悪い」



「それは……っ! きゃっ」



 何か言おうとしたが、四阿に到着したので芝生の上に下した。



「フェリクス王太子、この者が花の陰からこちらを窺っていたので捕獲しました。魔塔の者ですので問題はないと思いますが」



 シモンとガスパールから両殿下の意識を逸らす役目をしてくれたのだから、一応悪い扱いがされないようにフォローはするからと、心の中で謝罪と感謝をした。

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