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171.

アリア視点です。

「来月にはフェリクス王太子の結婚相手が来られる。我々魔塔の者が接触する事はそうないだろうが、今後友好国となるラフィオス王国の方々に失礼のないように」



 以前から噂されていたフェリクス様(王太子)の結婚相手がとうとうやって来るらしい。

 フェリクス様とは学年は違ったけど、学院で多少会話するくらいには顔見知りだ。

 ほとんど貴族ばかりの学院内で、魔塔主の弟子という『優秀な平民』枠で入学したあたしはできるだけ目立たないように過ごしていたけれど、魔法や魔導具に関する授業ではどうしても目立ってしまう。



 そうなると当然その事を気に入らない貴族が圧力をかけてくるわけだけれど、フェリクス様は時々助けてくれた。

 身分が違いすぎて恋心なんて生まれなかったけど、優しい人だからお相手もいい人だといいな。

 そしてラフィオス王国の一行が来た時、お相手をひと目見ようと魔塔主が参加するという歓迎の宴に隠蔽魔法を使って潜入した。



 お相手のクラリス王女は私と同い年らしい。

 とっても綺麗で可愛くて、よく笑う素敵な女の子だった。

 一緒に来ていた兄王子とも似ていて、並ぶととても綺麗な絵のようだ。

 安心したらお腹が空いちゃって、こっそり宴のごちそうをつまんだけど、王宮の食べ物は最高級品ばかりでずるい。



 私は毎日学院の勉強だけじゃなく、魔塔の研究で頑張っているというのに、魔塔では美味しい物は滅多に出ない。

 魔塔の研究は私のためでもあるからいいんだけどさ。

 三年前に亡くなった師匠でもある先代は、六歳の時に魔力暴走で弟と両親に怪我をさせて捨てられた私を引き取ってくれた恩人。



 師匠が私に遺してくれたのは、魔力暴走を抑えるこの腕輪型魔導具と古い三角帽子。

 あとは魔物を操作して人を襲わなくさせる研究。

 師匠がいなければ魔力暴走を起こすようなあたしは、とっくにその辺で野垂れ死にしていただろう。

 だから恩返しのためにも師匠の遺した研究を完成させるんだ。



 元副魔塔主である現魔塔主のフレデリク様も、あたしの研究を後押ししてくれている。

 時々雑用を頼んでくるけど、先々代の王様の庶子だとかいう割には偉そうじゃないから嫌いじゃない。

 師匠や私に差し入れくれたりしてたしね。

 歓迎の宴の翌日、魔塔主に頼まれて魔導書を取りに行った。



 渡されたお金は魔導書ピッタリで、銅貨一枚のおつりもないのはどうかと思う。

 こういう時は帰りに買い食いするのが楽しいというのに。

 師匠だったら少しは多めに渡してくれていたのになぁ。



 だというのに、帰り道でとてもいい匂いをさせている屋台があった。

 お肉の焼ける匂いって暴力的なまでに美味しそうだよね。

 でも今のあたしはお金を持っていない。魔塔のローブは着ているから、普段魔導具にお世話になっている国民なら肉串の一本くらいくれるよね!



 そう自分に言い聞かせて屋台に突撃した。実際時々もらえるし。

 だけど屋台の店主はのらりくらりと言い訳して、一向にくれる気配はない。

 そんな時、あたしと同じローブを着た魔塔のカールが現れた。

 味方が増えたから、これはいけると思ったのに、逆にあたしを止めるなんて。



 今更引けないから、もう一度店主に向かって要求しようとしたら、真後ろからお説教が降りかかった。

 振り返ると、どこかで見た気がする綺麗な顔をしているけど、ちょっと怖そうなお兄さん。

 カールが言うにはフェリクス様の結婚相手の国の騎士団長らしい。



 悔しいけど、言い負かされて睨みつけていたら、屋台の肉串を買ってくれた。

 食べたかったんだろう? なんて言ったのに、最初は串から手を離してくれなくて文句を言ったら、お礼を言わせようとしてきたのよね。



 言うまで離してくれなさそうだったから、仕方なく一応お礼を言ったら意外にも笑顔をが返ってきた。

 ちょっと調子が狂うじゃない。

 しかも帰りの馬車に同乗させてくれたし、もしかしていい人なのかな。

 馬車の中ではどこを見ているかわからないまま考え込み始めて空気が重い。



「ヴァンディエール様、どうかなさいましたか?」



 カールが声をかけると我に返ったようだった。



「ああ、すまない。少々考え事をしてた。こちらに伝わっているかわからないが、神託で誰かを助けなければならないらしいのだが……、それがどこの誰かわからなくてな」



「それは……、助けたくても助けられませんねぇ。神託はあいまいだと聞きますが、せめて何か手がかりがないと……」



「本当に。場所と名前をハッキリ教えてくれるのなら苦労はないのだが」



 そういえば噂で聞いた事がある。

 邪神討伐した内の一人が神託を受けて国外に出るとか。この人だったのか。

 今私が抱えている困り事も何とかしてくれないかな。



「どうした? 馬車の中で串を咥えたままだと危ないぞ」



 食べ終わった肉串の串を咥えたままでいたら、取り上げられて彼の魔法鞄(マジックバッグ)に串を放り込んだ。

 あ、あの魔法鞄も先代が若い頃に開発したっていう旧式のやつじゃないかな。

 最新の魔導具を餌にしたら協力してくれるかも。



「ねぇ……、もし私が困っていたら助けてくれる?」



「何を言っているんだアリア! ヴァンディエール様に迷惑をかけないように!」



 カールが慌てて止めてきたけど、騎士団長はちょっと驚いたみたいだったけど怒ったりしなかった。



「そうだな、目の前で困っていたら助けなくはないぞ? 困っているんじゃなくて、ただのわがままを言っているだけなら放置するけどな」



「ふふっ、わかった。その時はよろしくね」



 物言いとか、ちょっとだけ師匠に似ているこの人と深く関わるとは、この時の私は思ってもみなかった。

本日コミカライズ更新日です。

今回は四コマですよ!

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