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163.

 エルドラシア王国への出発当日、王都西門の外にある海に繋がる大河から出航するため、岸辺には多くの見送りの人達が駆けつけていた。

 第三王女の輿入れとあって、王族と第一騎士団も勢揃いしている。



「ジュスタン、連絡できる時は必ず手紙を書いてくれよ? やっぱり男爵になったとはいえ、成り上がりの俺だと団長代理でも気に入らない貴族が多いからさ、戻って来るのがわかったらすぐ教えてくれ」



 邪神討伐の時にしっかり副団長として活躍していたリュカは、オレールと共に叙爵されたものの、元々貴族家系でない事が他の貴族は気に入らないようだ。

 俺がいなくなる事で、副団長になって間もないリュカが団長代理になったのだ。



「リュカなら実力でそんな奴ら黙らせられるだろ? 手紙程度ならジェスもジャンヌも持って転移できると言っていたから、定期的に書くと約束しよう」



「絶対だぞ!」


 

 本来ならオレールの方が相応しいところだが、今のオレールは聖女優先になっているからな。

 見送りには聖女も聖騎士団と一緒に来ていた。個人的には俺の見送りのつもりらしいが、公的には王女の幸せを祈っての見送りとなっている。



「団長、もう船に乗り込むみたいだぜ。しっかし大きい船だよなぁ、ちょっとした村くらい入るんじゃねぇ?」



「それは言い過ぎじゃない? 貴族のお屋敷よりは大きいけどさ」



「シモン、アルノー、すぐに乗り込むから第一騎士団の後方へ並ぶから無駄口はそこまでだ。それじゃあできるだけジェスにはこちらにいてもらうから、何かあれば手紙を託してくれ。頼んだぞ、ジェス」



「うん! でも寂しくなったらいつでも念話で呼んでね! ボクも……、寂しくなったらそっちに行くね?」



 元気よく返事した次の瞬間には、甘えるような上目遣いで宣言した。

 交易はしているものの、友好国と言うにはまだよそよそしい関係の国のため、警戒させないためにもドラゴンであるジェスとジャンヌはラフィオス王国にいてもらう事になったのだ。



 連絡係として行き来する件についてはエルドラシア王国側も了承しているので、もしかしたらドラゴンを見てみたいという者も多いのかもしれない。

 下働きの者は先に乗り込んでいるので、最初に大臣達が乗り込んでしばらくしてからクラリス王女が近衛騎士や侍女達と乗り込み、次いでエルネストを先頭に第一騎士団が乗り込んで行く。



「それじゃあみんな、元気でな。アナベラ、後の事はよろしく頼む」



「はい、お気を付けていってらっしゃいませ」



「ジェスは会いたくなったら我慢しなくていいからいつでも来い」



 最後に頭を撫でると嬉しそうに笑った。

 第一騎士団が全員乗り終わる前に、俺達もその後方について馬と共に乗船する。

 今回の輿入れの後、俺はそのまま他の国へと移動する可能性が高い。そのため途中で馬を置いて山越えをする可能性もあるため、エレノアはラフィオス王国に置いて行く事にした。



 俺達のように馬を連れた騎士は、船内にある厩舎へと馬を繋ぎに移動する。

 馬を繋いだらすぐに甲板へ出て、見送りに来ている者達へ手を振って出航した。



「しばらくはこの国ともお別れですねぇ。けど、エルドラシア王国って魔導具を輸出している魔法の本場だから、最新の魔導具があるでしょうし、かなり楽しみです」



 珍しくマリウスが興奮している、やはり商家出身だけあって輸入品に関しても詳しいようだ。

 実のところ、俺も行き先が魔導具の聖地と呼ばれていると知って内心喜んだ一人だったりする。

 大臣の中には奥方から周囲に自慢できるように、最新の魔導具を買ってくるように言われたと愚痴を言っていた者もいた。



「魔法の本場? それって平民も魔法使える人が多いとか?」



 アルノーが首を傾げた。



「いや、エルドラシア王国には魔塔というものが存在していて、そこで魔法や魔導具の研究がされているらしい。魔塔の予算を出しているのは王家らしく、最新の魔導具はまず王城で、次いで貴族に、そして型落ち品が商人経由で平民にも広まっているそうだ」



「へぇ~、団長詳しいな!」



「シモン、初めて行く国の特徴や情勢を調べておくのは基本だぞ? アルノーも。どうせガスパールも調べていないだろう、お前らマリウスを見習え」



「「「は~い」」」



 あまり反省していなさそうに返事する三人。

 討伐任務の時は自分の目で現場を見て判断するクセがついているせいか、あまり下調べをする気はないようだ。



「いいですか? 僕達が魔導具を手に入れようとすると、商人同士が時間をかけて契約をして、船で運んで来るんです。つまりはエルドラシア王国の王城で使っている最新版からしたら、僕達が使っている魔導具は三、四世代型落ち品なんですよ。ひとつでも新型を買ってラフィオス王国に帰って貴族にでも売れば……」



 マリウスの説明を聞いた三人はゴクリと生唾を飲む。



「だが今回の輿入れで国単位での流通になるだろうから、これまでよりは新型が早く手に入るようになるだろうな」



「ちぇ、だったら大してもうからねぇな。珍しい土産物でも探して花街の(おんな)達にモテようっと」



 あっさりと興味を無くしたシモンは、遠ざかる王都へ視線を向けた。

 実際は輿入れ後に両国の関係が安定して初めてスムーズな流通になるだろうから、今回新型を買っていけばかなりの儲けになるだろう。



 しかし、特にシモンが大金を手にしたらバカな使い方しかしないだろうから、あえて勘違いさせておいた。

 恐らく状況を理解しているであろうマリウスも同じ意見なのか、訂正する気はないようだ。

 魔導具を買って貴族に売り込むなら、持ち込まれる数が少ない方が希少性が上がって高く売れるもんな。

 俺はマリウスが浮かべる黒い笑みを見なかった事にした。

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます!

本日よりXにて本作の宣伝動画(子供が作ってくれた)を投稿してますので、ぜひ一度観てやってください!

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