159.
明けましておめでとうございます!
本年もお兄ちゃん達をよろしくお願いいたします。
結局一週間後に改めて王城で邪神討伐を祝う宴が開かれる事になった。
実質宴の準備期間なのだが、その間に討伐に向かった騎士団員は休養を許された。
許されただけなので、交代で見習いの相手もしなければならない。
俺はというと、その間にアナベラの実家であるシャレット伯爵家と父であるヴァンディエール侯爵に手紙を送り、先にシャレット伯爵家に挨拶へ行ってから後に両家の顔合わせという予定が待っている。
突然の申し込みで手紙を叩き返されるのではと懸念していたが、驚くほど好意的な返事が来た。
「うわぁ~! 団長どうしたの!? めちゃくちゃ気合入ってる恰好してる! しかも花束なんて持って、まるで結婚の挨拶にでも行くみたいじゃない? なんてね~、あははは」
「まぁ、そんなようなものだ」
休養日四日目、初日に挨拶に行きたいと手紙を出したのだが、先にアナベラが知らせてくれていたのか、まさかの当日に返事が来て決定したのだ。
エントランスでアルノーに見つかり、聞かれた事に答える。実際は結婚ではなく婚約の挨拶だからな。
「え……? はは、ちょっと僕の耳がどうかしちゃったかな~? 団長が結婚するように聞こえたんだけど」
なぜか自嘲の笑みを浮かべながら小指で耳をほじるアルノー。そんな事は部屋でやれ。
「婚約の挨拶だ」
「へぁっ!? だ、団長が婚約ぅぅ~!?」
どうせいつかバレるからと教えたら、吹き抜けになっている一階からとても大きな声で復唱したアルノーをウメボシの刑に処し、手配した馬車でシャレット伯爵家へと向かった。
すぐに集まって来て相手は誰だと騒ぐ部下達の相手をしていては、約束の時間に遅れるからな。
普段こういう役回りはシモンだと思っていたが、どうやらそれだけアルノーも驚いたようだ。
シャレット伯爵家に到着すると、玄関の前でアナベラが待っていた。
本当に婚約するわけじゃないが……いや、するんだが、ご両親に挨拶というのはかなり緊張するな。
馬車を降りるとホッとしたようなアナベラと、家令と思われる老齢の男が俺を出迎えた。
「お待ちしておりました、……ジュスタン様」
どうやらまだ俺を名前で呼ぶ事には慣れないようだ。数日ではさすがに慣れるのは無理か。
「出迎えありがとう。ご両親に挨拶する前に、これを君に」
女性だと両手で抱えないと持てないくらいの花束を渡すと、アナベラは嬉しそうにはにかんだ。
「ありがとうございます……。では両親の元へご案内しますね」
「ではそちらの花束はじいがお預かりして、お嬢様のお部屋に飾っておきましょう」
「それじゃあお願い」
どうやらアナベラは家令の事をじいと呼んでいるらしい、きっと小さい頃から世話になっているのだろう。
でしゃばる事もなく、必要な時だけ仕事をする姿勢に、シャレット伯爵家の事が伝わってくるようだ。
アナベラに案内されたのはよくある貴族の屋敷の造りからして応接室だろう、アナベラがノックをして声をかけた。
「お父様、お母様、ヴァ……ジュスタン様をお連れしました」
『お通ししなさい』
中から落ち着いた男性の声が聞こえた。アナベラの父親だろう。
今の俺はアナベラの父親と同じ伯爵という爵位を持っているからか、物言いもていねいだ。
こっそりと深呼吸してドアを開けるアナベラの後について応接室に入る。
アナベラの両親は立ち上がって俺達を迎えてくれた。
「ようこそヴァンディエール伯爵」
「シャレット伯爵、伯爵夫人、今日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます」
「どうぞお座りになって」
「失礼します」
表面上のお約束のやり取りをしてから、伯爵夫人にすすめられるままソファに座った。
緊張しているのがアナベラにバレているのか、笑いを堪えている気がする。
しばらく当たり障りのない世間話をしてから、覚悟を決めて口を開く。
「シャレット伯爵、私はアナベラ嬢との結婚を考えております。神託の事もあり、すぐに結婚というわけいには参りませんが……。アナベラ嬢が幸せに過ごせるように努力しますので、どうか私たちの婚約をお許しいただけますよう、お願いします」
そこまで一気に言い切って座ったまま頭を下げた。
「……アナベラは私どもにとって大切な一人娘です。どうか幸せにしてやってください」
「はい」
思ったよりあっさりと認められたな。そう思って返事と同時に顔を上げると、シャレット伯爵は涙ぐんで夫人に背中を撫でられていた。
しかし……、思っていた以上に心が痛む。
だが、アナベラが幸せになれるように努力するという言葉に嘘はない。
ちらりと隣のアナベラの様子を窺うと、目に涙を浮かべていた。
もしかして今更両親に対して罪悪感を抱いてしまったとか!?
まさかこのまま本当の事を話したりしないよな!?
「アナベラ……」
気持はわかるが、はやまったマネはしないでくれ。そう伝えたくて隣にあった手を握った。
するとアナベラは驚いたように俺を見て、少し恥ずかしそうにはにかんだ。
どうやら大丈夫なようだ。内心ホッと胸を撫で下ろす。
しかしアフターケアは必要だろう、この後少し話した方がいいかもしれない。
「うふふ、これ以上わたくし達がいても野暮というものですわ、あなた。アナベラ、このままここでお話しする? それとも庭を散策しながらの方がいいかしら? 四阿にお茶を準備させておきましょうか」
伯爵夫人の提案により、俺達は庭の散策に出る事になった。
おかげで俺は自分の鈍さを再確認させられるとは、この時は思っていなかった。
前作自由賢者のコミカライズ連載が少年エースplus、ニコニコ漫画で始まりました!
素晴らしい毛並みを描く方なので、ぜひご一読ください( *´艸`)