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158.

「アナベラ、まずは落ちついて説明しないとヴァンディエール騎士団長が困惑しているわ」



「あ……っ、も、申し訳ございません!」



 俺が固まってしまったせいか、ディアーヌ嬢がアナベラ嬢を窘めると慌てて頭を下げた。



「ああいや、恐らく俺が陛下から早く結婚か婚約をするようにと言われていたから、相手がいない事を気遣ってくれたのだろうとはわかっている」



「「…………」」



 俺の予想を伝えると、ディアーヌ嬢とアナベラ嬢は顔を見合わせて黙ってしまった。



「コホン。私から説明しよう。私達が邪神討伐に行っている間にそれはもう利権としがらみと派閥が絡み合ったヴァンディエール騎士団長争奪戦と言える結婚相手の申し込みがヴァンディエール侯爵家に来ていたそうだ」



 咳払いしたエルネストからのまさかの情報。



「そ、それは初耳ですね……」



「それで一生独身のままディアーヌに仕える気だったアナベラが、時間稼ぎのために名前だけの婚約者になると申し出てくれたわけだ。私としてはそのまま結婚してもいいと思うがな」



「あのっ、あくまで面倒に巻き込まれないための方便として……もちろんヴァンディエール騎士団長がご結婚したいお相手がいらっしゃるとか、婚約破棄したい時はいつ言っていただいても大丈夫ですので。以前ディアーヌ様を暴漢からお助けいただいたお礼だと思ってください」



 少し早口にアナベラ嬢から告げられた内容に納得した。

 もうすぐ国外に出るとわかっている伯爵の夫人の座、身分違いの恋をしている令嬢達からしたら火遊びするには都合がいいし、親からしたら家の乗っ取りも可能なのではと狙われているのだろう。



「ああ、そういう事か……。逆にもしアナベラ嬢が結婚したい相手ができた時は遠慮せずに言ってくれるというなら、ありがたくその申し出を受けたいと思う」



「!! それでは……!」



「ああ、アナベラ嬢の御両親を騙す事になるのは申し訳ないが、その代わり恥をかかせない対応を約束しよう」



 恐らくアナベラ嬢自身も両親から結婚話を出されているのだろう。

 俺という婚約者がいれば、その間だけでもうるさく言われる事もないからお互い助かるというわけだ。



「そうなればアナベラは通いになるのか。おそらく今回の邪神討伐の褒美に屋敷が与えられるはず、もちろん国外に出るヴァンディエールの拠点はここだと知らしめるためにな。ヴァンディエールが国外に出た時、屋敷の主人がいなくなるのは困るだろうし、そうなると婚約者のアナベラが適任になるだろう」



「その場合は屋敷の管理をできる者もつけていただきたいですね。できるだけアナベラ嬢の負担にならないように」



「後日呼び出されるだろうから、その時にでも要望を話しておくんだな。とりあえずアナベラとの婚約を父上に報告していいだろうか? それだけで父上の心の荷が多少軽くなるというものだ」



 もしかして俺に自分の娘との結婚を推してほしいとか、そんな要望も陛下に届いているのかもしれない。

 実際貴族の結婚ともなれば、王家の許可が必要だからな。



「アナベラ嬢がよければ」



 コクリと頷くと、アナベラ嬢もコクコクと頷いた。



「ふふ、おめでとうアナベラ。ではお帰りになるヴァンディエール騎士団長をお見送りしてくれるかしら? あなたが戻って来るまでエルネスト様がいてくれるから、エントランスまで……ね」



 ディアーヌ嬢がアナベラ嬢にいたずらっぽくウインクを飛ばした。

 照れくさそうに微笑む姿を見ながら、婚約者としてすべき事を頭の中に並べる。

 お互いの家に挨拶だろ、婚約が本当だという証明のために、一度は一緒に夜会に出るだろうからドレスとアクセサリーを贈って、そういえばお互いの呼び方も変えた方がいいのか。



「ではエントランスまでお見送りしますね」



「ああ、色々話す事もあるからな。では、ディアーヌ嬢、エルネスト様、失礼します」



「ご苦労だった」



「ごゆっくり」



 ディアーヌ嬢の部屋を出て、隣のアナベラ嬢に視線を落とすと俯いたままでこちらを見ようとしない。



「アナベラ嬢」



「ひゃいっ」



 緊張しているのだろうか、思い切り返事を噛んでいる。

 そして面白いくらいに顔が赤く染まってしまった。



「ククッ、なぜそんなに緊張しているんだ。婚約者というのなら、もっと気楽に接してくれ。呼び方もヴァンディエールではなくジュスタンと。俺もアナベラと呼ばせてもらう」



「は、はい……ジュスタン様……」



 どこぞの聖女とは違い、名前で呼んでいいと言ってもちゃんと敬称をつけてくれている。

 王族の居住区からエントランスまではそれなりの距離がある、今はあくまでディアーヌ嬢の侍女として見送りのためエスコートはしないものの、今後の事を話しながら歩く。



 その結果、明日からもらえるであろう休養日の間にアナベラも休みを取り、アナベラの家に挨拶に行く事になった。

 同じ伯爵家という地位ではあるが果たしてアナベラの両親は俺の事をどう思っているのだろうか。

 そして婚約が決まったと報告したら、第三騎士団の連中がどんな反応をするのか、今から考えるだけで頭が痛い。

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