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149.

「こんなところに入り口があったのか~、こんなの誰も見つけられねぇだろ」



 さきほどジャンヌが木の根を操った事により露出した入り口があり、シモンは声の響きを楽しむかのように真っ暗な通路に向かって話している。

 ジャンヌが率先して歩き出したが、俺は近くの木に目印として赤い布を結ぶと、内心崩落の危険を心配しながら地下へと向かった。



「タレーラン辺境伯領の東の森の遺跡に造りが似ているな。同時期に造られた物のようだ」



「言われてみれば確かに! 柱とかそっくりだぜ。また邪神の欠片があってスタンピードが起こるとかないよな?」



「安心しろ。ここには邪神の欠片じゃなく本体があるぞ」



「全然安心できねぇよ!」



 灯り魔法で視界は確保しているものの、妙に圧を感じる空気を誤魔化すようにシモンをからかってみる。

 ゆるやかなスロープと階段を繰り返し進んで行くと、広めの校庭がすっぽり入るほどの、天井や岩肌から木の根が飛び出ている大きな洞窟に出た。



「うわぁ、広ぉい! あれお城? お水の色も綺麗~」



 洞窟の奥の岩肌には神話をモチーフにしたような彫刻が施されており、古代遺跡の城か神殿のように見えてジェスが感嘆の声を上げるのも納得だ。

 青みがかった地底湖の中央には奥へと向かう通路があった。



「どうやらあれが邪神を封じている神殿のようだの。いつからあるかわからぬが、保存魔法で朽ちるのを止めておるようだ。そして……いつまで寝ておる! そなたの息子が来ておるのだぞ!」



 ジャンヌが辺りを見回して検証していたかと思ったら、いきなり地底湖(・・・)に向かって怒鳴った。

 だが地底湖はジャンヌの声量で波紋を起こしたものの、シンと静まり返っている。



「ククク……無駄じゃよ。古竜(エンシェントドラゴン)の生命力は邪神様の糧となっておるわ。まったく忌々しい、あとひと月もすれば完全に復活されるというのに邪魔者が現れるとは」



「おぬし……トレントか!?」



 いつの間にか地底湖の通路に現れていたのは、以前エルネストが謎の装飾品を渡してきたという貴族の特徴に酷似していた。

 どこにでもいそうな田舎の貴族、だがジャンヌが正体を言い当てた途端にその姿がブレる。



「腐ってもドラゴンか……。よくぞ正体を見破った。我こそは邪神様の忠実なる(しもべ)! 邪神様が封印されてからというもの、復活なさる日のために贄をささげ続けたのだ!! 邪魔するでないわ!!」



 そう叫んだ時には人ではなく、人の形にみせかけた古木がボロボロのローブを引っかけているようにしか見えなかった。

 顔の部分は(うろ)になっており、それが余計に不気味さを感じさせている。

 どうやら神官長やエルネストに接触した時は、幻影魔法を使っていたらしい。



「うえぇぇ、気持ち悪ぃ……」



 シモンの漏らした感想には完全に同意だ。

 恐がっていないかジェスが心配になって見ると、予想に反して怒りを露わにしていた。



「お父さんを返せ!!」



 そんな叫びと共に竜化の呪文が聞こえ、ジェスだけではなくジャンヌも竜化している。

 ジェスとジャンヌがトレントに向かってブレスを吐く予備動作に入った。



「シモン! 退避するぞ! いざとなったらマントに隠れろ!」



「ひぇっ、了解!」



 広い洞窟とはいえ、外と違って熱が逃げる場所はない。

 装備品に付与されている温度調節魔法が有効な温度である事を祈るばかりだ。

 ブレスで洞窟内が明るく照らされ、俺とシモンは元来た通路に飛び込んでマントに隠れた。



 地響きで洞窟内が崩落せんばかりに振動している。

 ブレスの光が収まってから、そっと様子を窺うと左右の岩肌から木の根が飛び出しており、それが消し炭になってボロボロとほとんどの水が蒸発した地底湖へと落ちていく。

 さきほどのジャンヌよりも動かしている木の根が多いのは、さすが木の魔物というところか。



「やったか!?」



 やめろシモン、それはフラグだ。

 地底湖から発生する蒸気で視界がきかないが、トレントのいた位置から声が聞こえる。



「おお、怖い怖い。ドラゴンブレスは熱くてたまらんわ。だがこの森には樹齢千年を超える丈夫な木が多くてな、特にこの周辺の木は邪神様の影響で強化されておるのよ!」



 余裕げなトレントがご親切にも状況を説明してくれた。

 なるほど。確かに地上でのジャンヌのブレスも、普通なら火が周りに燃え広がりそうなところだが焦げ付いただけで鎮火していたのはそのせいか。

 だが、従魔契約のおかげで伝わってくるジャンヌの感情に怒りや焦りはない。



『もうひと息と言ったところか』



 再びジャンヌがブレスの予備動作に入った。



「ハッ! 何度やっても無駄な事よ!!」



 トレントは鼻で笑ったが、ジャンヌには何やら確信があるようだった。

 再び放たれたブレスは、またもや木の根に阻まれてトレントには届かなかったが、今度は地底湖の水が全て蒸発した。



「ま、まさか……お前の狙いは封印の水か!?」



 地底湖が空になった途端にトレントが焦り出した。



「封印の水? ってなんだ?」



 シモンが首を捻っているが、俺も初耳だ。



『あやつに聞いた事があったのよ! 邪神が封印されている場所には全てを弱体化させる湖があるとな!』



 あやつというのはジェスの父親の事だろう。

 古竜なだけあって色々知っていたようだ。

 ジェスとジャンヌの様子から、地底湖の下にジェスの父親がいて、地底湖のせいで身動きができずにいたのかもしれない。



 しかし……、その場合、邪神の封印も弱まったりしないよな?

 一抹の不安を覚えつつジャンヌを見たが、俺の視線に気付いているはずのジャンヌは一度も俺の方を見なかった。

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