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140.

 「あ、そうだ。ヴァンディエール騎士団長、間もなくドワーフ達と見習い達が新宿舎に引っ越して来ますが、顔見せはいかがなさいますか?」



 リュカの声に驚いてなだれ込んで来た文官の一人のオーバンが、ついでとばかりに聞いてきた。

 そういえばそうだった。

 第二騎士団で世話になっている間に第三騎士団の悪評を聞かされたりしているだろうから、俺の顔を見て子供達が泣かないといいのだが。



「とりあえず俺達三人の顔と役職は覚えてもらわないといけないだろうから、お前達も一緒に顔を見せに行くぞ」



 リュカは子供の扱いが上手いからなんとかなるだろう。

 表に出るとちょうど馬車が数台と、まだ幼さの残る見習いの子供達が十五人ほど背嚢ひとつを背負い、歩いて新宿舎前に到着したところだった。



 馬車から降りてきたのはジャンヌとドワーフ達。

 見習い達はジャンヌを見た瞬間、魅了魔法にでもかかったかのように口を開けて見ている。



「おお、主殿。今日からこちらで世話になる」



『お母さ~ん!』



 ジャンヌが俺に気付いて挨拶をすると、ジェスが旧宿舎の方から昨夜のままのドラゴン姿で飛んで来た。

 その姿を見て歓声を上げる見習い達。



「うわぁ~、ドラゴンだ!」



「うそだぁ、あんなに小さいのにドラゴンのはずないよ」



「飛んでる!!」



 騒がしいが子供らしい反応にほっこりする。

 飛んで来たジェスをジャンヌが抱きとめ、そのまま抱いてこちらに来た。



「よかったな、ジェス。これからはお母さんといつでも会えるぞ」



『うん!』



「なんだかそうしてるとジュスタンと家族みたいだな」



 ジャンヌに抱かれているジェスの頭を撫でていたら、リュカが茶化してきた。



「ほほ。そうだのう、ジェスの父親は今頃どこにいるのやら……。最後に会ったのは五十年以上前ゆえ、近くにはいないはず……」



 そう言ってジェスを抱き締めている手に少し力が入ったように見えた。

 これはなぐさめるべきなのだろうか、それとも人族とは感性が違うから五十年離れているのは普通の事なのだろうか。



「え? 五十年って、ジェスは俺達より年齢が上って事か?」



 空気を読んでないのか、それとも気遣いより好奇心の方が勝ったのか、リュカが遠慮なく聞いた。

 確かにそれだとジェスが生まれた時期の計算が合わないよな。



「いいや。ジェスが生まれたのは十年前だの……。ドラゴンは十年から百年ほど体内で卵に魔力を注ぎ続けて、環境が整った好きな時に産めるゆえ」



「へぇぇ~」



 俺もそれは初耳だ。



「おーい、荷物は全部下したぞ。それにあっちの子供達はどうするんだ?」



 ドワーフの長のバシルに言われて見習い達の方を見ると、引率してきたであろう第二の騎士が渋い顔をしていた。

 だが俺が話している相手がドラゴンという事を知っているのだろう、文句を言う事も口を挟む事もせず待っていたようだ。



「悪い。それじゃあジャンヌやドワーフ達の部屋割りは決まっているから、各自部屋に荷物を運び込んでくれ。俺達は見習い達に挨拶と案内をしてくる」



「わかった。それじゃあジェス、荷物を運ぶのを手伝ってくれるか?」



『わかった~!』



 バシルに頼まれ、ジェスは呪文を唱えて人化した。

 その様子を見ていた見習い達は再び歓声を上げた。



「ジェス、全部片付いたら迎えに行くからな」



「うん、待ってる!」



 新宿舎は玄関が二つある。

 ひとつはドワーフ達が出入りする方、もうひとつは見習い達や騎士団関係者専用だ。

 一階の厨房以外は中央が部厚い壁で仕切られていて、お互い行き来は一階を経由しないとできない造りになっている。

 ジェス達が荷物を運び始めたのを見届けて、見習い達が待っている玄関前へと移動した。



「待たせたな、ここまでの引率ご苦労。あとはこちらで引き受けるから戻って大丈夫だぞ」



「……わかりました。では子供達をよろしくお願いします。何かあれば第二騎士団まで報せてください」



「ああ。…………もし心配なら中の状況を確認していくか? 今まで世話をしていた見習い達がこれからどんなところに住むか心配なんだろう?」



 頭を下げた騎士に提案すると、弾かれたように頭を上げた。

 見習い達も心なしかホッとしているように見える。

 どうやらこの男はかなり見習い達から信頼されているようだ。



「それじゃあ名前を聞いておこうか。第三の連中は見習い達の世話をするのに不慣れだから、今後相談する事もあるだろう」



「私はエリックといいます。見習いの世話係のエリックと言えば私しかいませんので、いつでも連絡してください」



「わかった。さて……、見習いの諸君! 今から今後生活する宿舎の中を案内する。 俺は団長のジュスタン・ド・ヴァンディエールだ。こちらの二人は副団長のオレール・ド・ラルミナとリュカだ。宿舎内で何か問題があれば俺達か、あちらの旧宿舎の一階にいる文官達に相談するといい。ではついて来い!」



 俺が先頭切って宿舎に入ったが、見習い達はまるで足がすくんでいるように動かなかった。

 そしてエリックが俺について来ると、やっと見習い達も恐る恐るといった風に宿舎に入り始める。



「団長ってばジェスの扱いはあんなに上手いのに、どうして見習い達には怯えさせるような言い方をするんでしょうねぇ」



「あんなに多くの子供を相手した事がないから緊張しているんじゃないか? きっと泣かれる心配もしていたと思うぞ」



 オレールとリュカが俺の後ろでヒソヒソと話しているのが聞こえた。

 否定したいところだが、実際自分でも緊張していたと思う。

 二人の密談のお陰でついてきているエリックの表情が柔らかくなったようだから、今回だけは許してやろう。

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