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135.

ラストのリュカ視点

 翌朝、宿屋の一階が騒がしくて目が覚めた。

 この時間に出たら夕方までに王都に到着しそうだ。

 朝食後にそのまま出られるように身支度を整えて部屋を出た。



「あっ、あの人だぞ」



 聞き覚えのある声が階段の下から聞こえて覗き込むと、昨日の門番が俺を指差している。

 五人ほどの人を引き連れているが、俺には全く見覚えのない人達で首を傾げた。



「あなたがあの盗賊を殺してくれたんですね!」



 階段を下りた途端に、恰幅のいいオッサンにガシッと手を握られてしまった。

 どうせならオッサンの後ろにいるお姉さんに握られたい。



「あんた達は誰だ?」



「私達はあの盗賊に襲われた者の家族です。二週間前に仕入れに行った息子が襲われて……うぅっ」



「お父さん……。弟の仇を討っていただきありがとうございました。これであの子も浮かばれます」



 泣き出したオッサンの肩を優しく撫でるお姉さん。

 どうやら家族が俺が殺した盗賊に殺されたようだ。

 俺の事も殺そうと斬りかかってきたもんな。



「少しでもあなた方の心が晴れたのなら幸いです。俺は騎士としてすべき事をしただけですから」



 これまでの癖で品行方正な騎士らしい言葉が口からスラスラと出て来る。

 この手の口上は中隊長になった時に嫌ってほど叩き込まれたんだよな。

 住民への対応ひとつでヴァンディエール侯爵家の印象が違ってくるからという理由で。



「なんて立派な……! 報奨金も襲われた子供のために使われたとか。どうかこれを……、私共の気持ちです」



 差し出されたのは明らかに金の入った袋。しかも重そうにしているから金貨の可能性が高い。

 きっと襲われたのは大きな商会の息子だったのだろう。

 ジュスタンだったら金をもらうより、最大限の恩を売れと言いそうだ。



「先ほども言いましたが、俺はすべき事をしただけですので。お気持ちだけ受けとらせていただきます。これは被害にあった方が困っているようなら手助けするために使ってください。またはいつか俺が困っていたら手を差し伸べて助けてください」



「なんと謙虚な……! わかりました。そうさせていただきます」



 まるで詐欺師のように耳あたりのいい言葉がスラスラ口から出る。お礼を言いに来た人達も感動しているようだ。

 ジュスタンは自分がやり過ぎた時に俺にわざと止めさせたりして、周りへの対応役というか、俺の顔に免じて許してもらえるように外面(そとづら)をよくするように言っていたからな。



 少々もったいない気もするが、最終的にこうした方がいい思いするのは経験則で知っている。

 損して得取れってやつか。



「リュカさん、昨日言っていた子供も高位神官の治癒を受けて、無事に回復しましたよ! まだ完全回復していないせいで来れない事を残念がっていました。両親は涙を流してお礼を伝えてほしいと」



「治癒魔法は大きな怪我ほど体力を奪うから仕方ない。時間が経っていたようだし、後遺症がなければいいな」



 商人達の感謝が一段落すると、門番をしていた男が報告してくれてホッと胸を撫で下ろす。



「お客さん! そろそろ食べないと朝食の時間が終わっちまうよ!」



「ああ、今行く」



「おお、朝食前に失礼しました。王都へ行かれるとか。どうか道中お気を付けて」



「ありがとう」



 宿屋の女将のお陰で解放された俺は、昨夜に続いて美味い朝食を腹いっぱいになるまで胃に納めた。

 食後に宿の裏手にある馬の預かり所へ行くと、相棒のキアラもしっかり飼い葉を食べて満足そうだ。



「おはようキアラ、今日中にジュスタンに会えるように頑張ってくれよ」



 鼻面を撫でると、ブルルと鼻息で返事をした。

 これは任せろと言っている時の鼻息だな。張り切ってくれるのはいいが、雫が顔に飛んで来たぞ。

 冷たい井戸水で顔を洗い、改めて出発した。



 道中いくつかの出来事はあったものの、陽が傾きかける頃には王都の市壁が見えて、自然と笑みが浮かぶ。

 市壁越しにも王城が見え、ジュスタンの話ではあの近くに第三騎士団の宿舎があるはず。

 もうすぐ会えるかと思うとキアラを急かしたくなるが、疲れさせてしまっては逆に遅くなってしまう。



 途中で休憩を挟み、東の空の青が濃くなってきた頃、王都の門に到着した。

 確か騎士は貴族用の門から入れたはず。

 平民用の門の前の長い列から逸れ、高価そうな馬車が入って行った門へと向かう。



「身分証を」



 門番の騎士に言われて身分証を渡すと、騎士は裏書きを見て瞠目(どうもく)した。

 えーと、確か門番をしているのは第二騎士団だったな。相変わらずだろうから、ジュスタンの印象が悪くてヴァンディエール侯爵家の印象も悪いとか?



「うん……問題ないな。どうぞ」



 予想に反して何事もなく身分証を返され、ジュスタンから聞いていた通りに進んで行く。

 少々王都の都会っぷりに驚いて、不自然なくらいキョロキョロしていたのは仕方ないよな。

 夕食の時間なせいか、美味そうな匂いが辺りの食堂から流れて来る。



 いっそ近くの店に寄ろうかとも考えたが、昨日宿の食堂で聞いたあの言葉を思い出して思いとどまった。

 そう、あの美味い料理の登録者がジュスタンだと!

 きっと第三騎士団の宿舎でも美味い食事ができるはず!!



「さ、キアラもあと少しでエレノアに再会できるぞ! この道を真っ直ぐ行って、突き当りを右に行けばすぐに第三騎士団だったはず! ちょっと遠いけど、真っ暗になる前には到着するだろ」



 数ヶ月ぶりの再会に向けて、賑やかな街並みをキアラと通り抜けた。


次回からジュスタン視点に戻ります

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