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132.

(ことわり)を外れた者……か……。ヴァンディエールは何故(なにゆえ)そのように己が言われるのか心当たりはあるのか?」



 聖女の説明が終わると陛下が聞いてきたが、当然バカ正直に前世を思い出したからです。などとは言えない。

 ここはサラモナで皆が予測した事を話しておくか。



「これはあくまで予測ですが……この神託を聞いた時に副団長のラルミナが、タレーラン辺境伯領で私が命を落とす運命だったのではないかと言っていました。実際不覚にも魔物討伐中に意識を失う攻撃を受けた事もありましたし、気付くのが遅れていたらスタンピードで我々第三騎士団が壊滅状態になっていても不思議ではありませんから」



「なるほど。確かにスタンピードを発生直後に止められた事は奇跡同然だからな。本来ならば過去のスタンピードと同様にタレーラン辺境伯領が壊滅していても不思議ではない。その場にいた第三騎士団もな」



 大臣達も騒ついているものの、今の説明でどうやら納得してくれたようだ。



「ふむ……だが邪神討伐後に国外に行くと言っていたが、そうなると騎士団長職を辞するつもりか?」



「それは……」



「いけませんッ!」



 俺の方が聞きたいと思っていたら、俺が返事するより先にエルネストが待ったをかけた。

 ディアーヌ嬢と見つめ合うのに忙しそうだと思ったが、どうやらこちらの話もしっかり聞いていたようだ。



「どうしたエルネスト」



「申し上げます。ヴァンディエール騎士団長がこのラフィオス王国で最強の騎士である事は全国民が知っていると言っても過言ではありません。他国にもその名は知られている事でしょう。そんなヴァンディエール騎士団長が我が国の騎士でなくなった状態で他国を訪れた場合、その国で召し抱えられる可能性もあるのではないですか? この国の内情を知り尽くし、この国でヴァンディエール騎士団長に勝てる者がいないというのに、それは無謀だと思うのは私だけですか? しかもドラゴン達と従魔契約しているのですよ?」



「ううむ……、確かにそうだな。だが世界の異変を確認するために我が国の騎士団長が各国を訪問するとなると名目が必要となるが、その事も考えているか?」



「はい。それでしたら私が見聞を広げるために、各国を回る旅の護衛とすれば問題ないかと!」



 一点の曇りもない眼差しで答えるエルネストに、陛下を始め大臣達も何とも言えない顔をした。

 それはそうだろう、ちょっと前まで俺を断罪しようと画策していたヤツが、俺を護衛にして旅に出るというのだ。

 ディアーヌ嬢も複雑そうな顔をしているぞ。しかしそんなディアーヌ嬢にエルネストはふわりと微笑みかけた。



「それまでにディアーヌと挙式して、新婚旅行を兼ねようと思うんだ」



「まぁ、エルネスト様……!」


 一瞬そういえばこの世界にも新婚旅行という概念があったんだったな、などと現実逃避しそうになってしまった。

 盛り上がっているところを悪いが、新婚の二人を俺に護衛しろと?

 しかも行くとしたらジェスとジャンヌも一緒なんだぞ?

 今でも甘い空気撒き散らしているというのに、結婚してからだと絶対ジェスの教育に悪いだろ。



「陛下、どちらにしても邪神討伐を成功させないとどうにもならない事ですので、まずはそちらに集中すべきかと……」



 邪神討伐までになんとしてでも、新婚旅行の護衛は阻止しなければ。

 しかも神託では国々(・・)らしいから、数ヵ国に行く事になるだろう、それをあの二人と一緒だなんて、やっていられるか!

 幸い、俺の進言を聞いて陛下は頷いてくれた。



「うむ。確かに邪神討伐が終わらねばどうにもならぬ事だ。ヴァンディエールが国外に出る事に関しては全て片付いてからでも遅くはなかろう」



「御意」



 よし、ひとまず問題を先送りにする事に成功した。

 小説よりも戦力がある今、邪神討伐が失敗するとは思わないが確実に生き残れるとは限らないからな。

 本当は本来死んでいるオレールは討伐に参加させたくないのが本音だ。



 これまでの感じから物語の強制力的なものはなさそうだから、そのせいで死ぬような事はないと思うが。

 ただ、聖女が討伐に参加する以上、絶対にオレールも行くと言うはず。

 浮ついたり、討伐が終わったら結婚するとか口に出さないように言っておくか。



 この国の基準からしたら立派な結婚適齢期ではあるものの、聖女はまだ若いから急がなくてもいいだろう。

 そうすれば結婚する頃にはオレールも貴族扱いの騎士爵ではなく、子供に継がせられる爵位になっているはずだ。

 そんな事を考えながらも謁見の間を退出した。



「ヴァンディエール騎士団長」



 退出後にそのまま宿舎に戻ろうとしたら、ニコニコと微笑む神殿長に声をかけられる。



「はい、なんでしょう」



「邪神討伐後の事になりますが……、聖女様はラルミナ副団長と結婚してこの国に留まる事が決定していますよね?」



「そうですね」



「やだ、神殿長! まだ気が早いですってぇ~!」



 満更でもなさそうどころか、嬉しそうに照れている聖女。



「これでも私は幼少期に色々な物語を読んできました。そして大抵勇者を国に縛り付けるには結婚という手段が取られているんですよ。…………好意を持っている方がいるなら今の内に想いを告げる事をおすすめします。余計な事を言いましたかね? ふふふ、さぁ、神殿に帰りましょうか聖女様」



「はぁい! それじゃあジュスタン団長、お疲れ様でした!」



 神殿長が言いたい事がわかってしまった。

 笑顔で立ち去る二人を見送りながら、エルネストを(おとし)めるために青春時代を浪費していた(ジュスタン)が好感を持つような貴族令嬢がいたか記憶を探るのだった。

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