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131.

 翌朝、朝食を済ませて執務室で溜まった書類を片付けていると、王城から使いが来た。

 使いが持って来た書類には、今日登城する時間と謁見予定が書かれている。

 ジェスは部下達と訓練場にいるため、文官達に伝言を頼んで自室で身支度を整え、オレールと共に厩舎に向かった。



「おはようエレノア。ゆっくり休めたか?」



 首筋を撫でながら声をかけると、大丈夫だと言わんばかりにブルルと鼻息で返事をする。

 王城へと向かうと、今度は控え室で人間のエレノアと神殿長の二人と顔を合わせた。

 恐らく護衛の聖騎士は別室で待機しているのだろう。



「おはようございます、オレール副団長、ジュスタン団長!」



「おはようございます、エレノア。神殿長もおはようございます」



 本来なら身分的に俺の名前を先に言うべきだぞ。

 だが、俺の存在を忘れなかっただけマシだと思うくらい、オレールの事しか見ていない。

 頼むからお前ら朝から甘い空気を撒き散らすな。俺は聖女の挨拶には会釈だけして神殿長に挨拶をする。



「おはようございます」



「おはようございます。昨日は話を聞いて色々と驚かされましたが……、どうやら全て本当のようですね」



 心なしか神殿長がやつれて見える。

 まぁ、神託だけでも大事だというのに、聖女に恋人ができたと聞かされたんだからな。

 こんなに甘い空気を出していたら、誰が見ても特別な関係だと気付くだろう。

 その時オレールが一枚の書類を胸元から出してきた。



「オレール、それは何の書類だ? 報告書はここに持って来ているぞ?」



「はい、こちらは婚約届です。本来なら婚約式をしたいところですが、今は周りに知られると何があるかわかりませんからね。せっかく神殿長が王城に来られてますし、お渡ししておこうと思いまして。……というわけで。エレノア、この書類にサインをしていただけますか?」



「オレール副団長……! はい!!」



 オレールは携帯用の筆記用具を取り出し、エレノアにサインをさせた。

 副団長職をしているから、仕事の早さや書類関係に強いのも知っていたが、色恋に関してこんなに積極的だというのは初めて知ったぞ。



 婚姻に関係する書類は神殿の管轄だ。

 この場で婚約する二人と、神官の資格を持つ者のサインが入れば婚約成立となる。そしてここには神殿長がいるわけだ。

 普通の平民であれば口約束の婚約だけで、結婚式に婚姻届けを出すのが普通だが、確約が欲しい者達はこうして婚約届を出して婚約を公的なものとする。



「神殿長、よろしいのですか?」



「ハッ! そ、そうですね……。少々展開の早さに驚きましたが、聖女様の意思はできるだけ尊重するようにと教義でも言われていますから、我々が反対する事はできません」



 ポカンとしていた神殿長に声をかけると、我に返って諦観の笑みを浮かべた。

 二人がサインした書類を差し出され、婚約届の証人の欄に神殿長の名前を書きこむ。



「おめでとうございます。これでお二人の婚約は成立ですね。この婚約届は私が責任を持ってお預かりしましょう」



「ありがとうございます、神殿長!」



「感謝します」



 ちなみにこの一連の会話は、俺達の案内係の侍従が全て聞いている。

 目を泳がせながらチラチラとこちらの様子を窺っていたので、今聞いた情報を誰に話すか考えているのだろう。

 ちょっと釘を刺しておくか。



「おい。わかっていると思うが今見聞きした事は不用意に周りに話すなよ。役目もあるだろうから、侍従長に報告する分には構わん。まぁ、婚約した事実はお前が伝える前に侍従長だけでなく、他の貴族の耳にも入るだろうがな」



 無表情のままそう告げると、控えていた侍従は顔色を変えてコクコクと頷いた。



「え? 団長、それって……」



「当然今から謁見の間で周知するに決まっている。でないと婚約した意味がないだろう? 婚約前に知られたら面倒だが、こうしてすでに神殿長のサインも入って婚約が成立したんだから、むしろ積極的に広めてもらおうじゃないか」



 ただ、その婚約がたった今決まったばかりだという事を知ったら騒ぐ連中もいそうだから、婚約時期に関してはぼかしたいところだ。

 だが婚約したという事実は今後のためにも周知しておきたい。



 これで王太子や他の貴族からアプローチされて困る聖女をオレールが心配する事もなくなるはずだ。

 そして俺達は呼ばれると、報告のため大臣達が並ぶ謁見の間へと案内されて王の前で跪く。



 いつものように陛下の隣には正妃が、そしてエルネストとディアーヌ嬢、今回は王太子候補として名前が挙がっている第二王子のランスロットもいた。



「聖女殿には此度の聖国への使者としての役目、そして第三騎士団は護衛とフラレスへの救援大儀であった。本神殿からの書状を読んだが、聖女殿は女神より神託を授かったとか」



 陛下の言葉に大臣達が騒つく。

 知識としては知っていても、実際神託を受け取った者に会うのは皆初めてだろうからな。

 静かにならない大臣達を、陛下は軽く手を挙げて落ち着かせ、再び話す。



「その神託の内容を聖女殿の口から(みな)に話してもらえるだろうか。その前に立って楽にするがよい」



「はい! 本神殿で私は神託の間というところへ女神様に転移させられて……」



 スクッと立ち上がり、朗々と聖国での出来事を話し始める聖女。

 そしてそんな聖女を微笑ましそうに見つめるオレール。

 そんな中、俺はこの場で聖女とオレールより甘い空気を醸し出している二人に己の目を疑っていた。

 騒つく大臣達そっちのけで見つめ合う二人、エルネストとディアーヌ嬢に。

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