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118.

「うぅ……痛ぇ……」



「治癒師の魔力が尽きたんだ、しばらくは我慢していろ。冒険者に重傷者が多かったようだからな」



 フラレスの町に帰還した俺達は、教会に併設されている治療院に怪我人を運び込んだ。

 騎士団ではある程度の怪我人が出たものの、幸い命や騎士生命にかかわるほどの重傷者はいなかった。



 だが冒険者側はそう上手くいかず、二人の死者と三人の四肢欠損者、最優先で治癒魔法を使って何とか命を繋ぎとめている者が五人。

 そのため治癒ポーションで応急処置程度に治しているものの、ベッドから出られずにいる者が数名いる。



 その中にベッドでうつ伏せになって唸っているシモンもいた。

 森の切れ目が見えた時、娼館に行くんだと浮かれて走り出したところに猪が尻に突進してきたのだ。



 魔物でもなんでもない普通の猪、むしろ魔物の餌になる存在だからこそ気にしてなかったのだろう。

 尻に打撲と大きな内出血という怪我では、外からのポーションでは効き目がない。

 飲むか切り傷をつけてポーションをかければ内出血は治るが、打撲にはあまり効果がないのだ。



 森の中で音を立てないために鎧を装備していなかったからこそ起きた悲劇だが、正直その場を目撃した全員が笑った。

 どうやらその猪は他の魔物から逃げている最中だったようでそのまま走り去り、動けなくなったシモンが逃げた猪に向かって子供のような悪態をつくからコントにしか見えなかったせいだ。



「花街の娼達がオレを待っているというのに……っ」



「シモンうるさいぞ! ここにいる全員が同じ気持ちなんだから静かにしてろ!」



 エリオット隊のアメデオも怪我で同じ部屋にいて、シモンより年上の二十四歳のため先輩という立場で叱りつけている。

 アメデオは足を怪我し、出血はポーションで止まっているものの、骨折が治りきらず治癒魔法待ちだ。



「あ~あ~、団長はいいよなぁ、どうせアランとこれから花街に行くんだろ~?」



「…………本気で言っているのか? その間ジェスに何と言って留守番をさせろと?」



 全く行きたくないといえば嘘になる。色々あったから気が昂っているのもあるが、だからといってジェスより優先したいとは思わない。

 シモンを睨みつけたが、なぜか嬉しそうな顔をしている。



「なぁんだ、団長もお預けだったらきっとアイツらも行きづらいよな、オレだけ我慢しているんじゃないならいいや」



 安心したように呟くと、シモンは枕に顔をうずめた。

 どうやらジュスタン隊の仲間達が楽しんでいるのに、自分だけ我慢しているのが不満だったようだ。



「……もう少ししたらマリウスが夕食を届けに来るだろうから、明日治癒師の魔力が回復するまで大人しくしているんだぞ」



「へぇ~い」



 もうとっくに花街に繰り出したアルノーとガスパールの事は言わず、患者部屋を出た。

 第三騎士団が野営している広場へ戻ろうと廊下を歩いていると、出口に近い部屋から言い争う声が聞こえてくる。



『どうにかならないのか!? あのままじゃあ、あいつら冒険者として生きていけねぇ!』



『噛みちぎられた腕や足があれば、運がよければ治せましたが……聖女様でもない限り欠損した四肢の再生は無理です』



『クソッ! 聖女がここに来るなんて奇跡あるわけねぇし、伝説のエリクサーでもなけりゃあいつらはこのまま……』



 どうやらアランと治癒師が話しているようだ。

 三度のノックの後、ドア越しに声をかけるとアランがドアを開けた。



「兄貴……!」



「話が聞こえてきたんだが、聖女ならここには無理でも聖国への分岐点のサラモナになら来るぞ。まぁ……、単独で行動していないからそれなりの浄財は必要になるだろうがな」



「本当ですかっ!?」



 真っ先に喰い付いたのはアランではなく、室内にいた治癒師だった。

 聖女といえば、治癒師の最高峰の立場だから崇拝に近い憧れの存在なのだろう。



「ああ、実際今聖女は聖国にいるが、サラモナまで俺達も護衛を兼ねて同行していたからな。当然帰りも通るわけだ。身体に負担がかからないよう、ゆっくり移動すればなんとかいけるんじゃないか? 聖国には数日滞在するだろうし、問題無く間に合うだろう」



「では私も同行して患者の身体が耐えられるように、様子を見ながら治癒魔法を施します!」



 キラキラとした目で協力を申し出る治癒師。

 その顔にはハッキリと聖女様にひと目会いたい、と書かれていた。



「それはありがてぇが、問題は浄財が……」



「三人分であればギルドと交渉すればいいんじゃないか? 今回の討伐作戦でかなり素材が手に入ったはずだ、その中から今回の全員分の治療代を差し引いた分を山分けにすればギルドも何も言わんだろう。その事に文句を言う冒険者がいれば、次に自分が欠損した時に同じ事を言われてもいいんだな、とでも言ってやれ。魔物が強くなった分、合同討伐は増えるだろうからな」



「確かに……、次に自分が怪我した時の事を考えれば同じやり方をしてもらえるとなったら安心できるか……」



「毎回怪我する奴は敬遠されて合同討伐に誘われなくなるから気をつけろ、と言うのも忘れるなよ。ああ、今回の治癒に関しては聖女とは知らない仲じゃないし、口添えくらいはできるぞ」



「…………へへっ、やっぱり兄貴は頼りになるな」



 弟からの尊敬の眼差しのためにお兄ちゃんは頑張っちゃうんだよ、そんな言葉の代わりにワシワシと頭を撫でて治療院を出た。

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