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110/215

110.

 王都を出発して約ひと月、前兆はあった。

 とある町に到着し、第三騎士団はいつものように食材はある程度購入して町の外で野営と同じように昼食を作っていた。

 理由は町で食べるより自分達で作った方が美味しいからだ。



 そこへ聖女が町から飛び出し、俺達のところへ泣きそうな顔で走ってきたのである。

 馬車に乗っているだけで運動していないのに、更に痩せたようだ。

 その後をアクセルや高位神官が慌てて追いかけてきた。



「聖女様! どうなされたのですか!?」



 俺達がいる手前で立ち止まった聖女に対し、使者としてやってきた高位神官が問うた。

 それは俺も知りたい、なんとなく予想はつくが。



「私は何度も言いましたよね!? 私にお手伝いさせてくださいって! もう限界です! ジュスタン団長! 私もここで食事させてください!!」



 そういえば何度か食事作りを申し出たが、聖女様にそんな事はさせられないと断られていると言っていたな。

 退屈な移動時間とマズイ食事にとうとう限界がきたらしい。

 この高位神官……確かフェルナンという名前だったか、そんな風に睨まれても俺も困るんだが。

 


「フェルナン神官、聖女様はとても食事にうるさ……こだわりを持っていらっしゃるので市井の味付けでは満足できないのです。ご自身で作った方が美味しいゆえ、出される料理が口に合わないのでしょう。ここまで我慢されていたからか、こんなにお痩せになってしまわれて……」



 これでもかというくらい聖女に対して憐みの目を向けた。

 第三騎士団の奴らはオレール以外は俺の丁寧な話し方を聞いた事がないせいか、もの凄く視線が突き刺さっている。



 フェルナンも聖女が痩せている事には気付いていたのだろう、動揺して目が泳ぎ出した。

 大神殿で聖女が伝えた味付けの料理も食べているからな、数日しか食べてないとはいえ聖女が求めるレベルは知っているはずだ。



「ジュスタン! どうしたの~? あっ、エレノアだ! エレノアも一緒にご飯食べるの!?」



 様子がおかしい事に気付いたのだろう、ジェスがこちらにやってきた。

 聖女は天の助けと言わんばかりに顔を輝かせた。



「ジェスちゃん! 私も一緒に食べたいの、いいかなぁ?」



「うん! 一緒に食べよう! いいよね? ジュスタン」



 キラキラとした笑顔で見上げるジェスと、懇願するような顔で見上げる聖女。



「はぁ……、フェルナン神官、聖女様をこちらの昼食に招待する事をお許しください」



 俺の言葉に便乗するようにフェルナン神官に対し、祈るように手を組み目で訴える聖女。



「わかり……ました……。ではアクセル団長、ここで聖女様の護衛をお願いします」



「はい、お任せください」



 キリッと返事をしているが、内心自分もこっちで食事ができると思って喜んでいる事だろう。

 聖国の奴らはそのまま町へと戻って行った。



「ジェスちゃんありがと~!!」



 フェルナン達の姿が見えなくなると、聖女はジェスに抱き着いた。

 気持ちはわからなくもない、俺も以前の味付けでひと月過ごせと言われたら耐えられるか怪しいからな。

 部下達も同じ気持ちなのか、聖女とアクセルに同情の視線を向けている。



「まぁいい、二人分くらい誤差だろう。もう出来るから適当に座れる場所で待ってろ」



「はい!」



「二人分……? 私もいただいていいのだろうか」



 アクセルが遠慮がちに聞いてきた。



「これだけの騎士がいるのに護衛が必要か? 突っ立って食事風景を眺めているだけなのもつらいだろう。それに大神殿も聖女のレシピが浸透していると聞いているぞ、大神殿の聖騎士達も道中の食事がつらいと言っているんじゃないか? 聖女の護衛の役得だとでも思えばいい」



「……ッ。ありがたく……いただこう」



 ニヤリと笑うと、アクセルは言葉に詰まっていた。

 やはり聖騎士達から文句が出ているようだ。

 かと言って道中で使う分をこの町で買えば、買い占め状態になるため難しいだろう。



「食事が済んだら聖女にレシピを教えてもらいながらアクセル団長が書いて、それを食堂の店主に見せるんだな。王都で広まり始めているレシピだから、時間をかけてでも作ってほしいと言えば作るだろう。何枚も書きたくなければその都度レシピは回収すれば問題ない」



 神殿関係者全員分でも、一食分のハーブであれば小さな町や村でも賄えるはずだ。

 これから何度もこうやって突撃されるのも困るからな。



「身体が温まる昼食ができましたよ。どうぞ、エレノア様、アクセル団長、熱いのでお気を付けて」



「「ありがとうございます」」



 木製のスープ皿に渡し箸のようにパンを載せたものを二人に渡すオレール、さすがの気遣いだ。

 洗い物が少なくなるように食堂では使っているトレイはないので、これが外で食事をする時の基本的なスタイルになる。



「エレノア、一緒に食べよ~!」



「どれ、妾も共に食すとしよう」



「ジェスちゃん! ジェスちゃんのお母さん!」



「妾の事はジャンヌと呼ぶがよい。聖国へも同行するゆえ、仲良くしようではないか」



「はい! ジャンヌさん!」



 どうやらジャンヌと聖女は仲良くやれそうだ。

 ジェスが操られた時に手助けした存在として感謝しているようだし、聖国行きも安心して見送れそうだな。



「あれ? ジェスちゃん達はスープ飲まないの? それにそのパン……私達のと違う?」



「えへへ、これはねぇ、ジュスタンがボクとお母さんのために作ってくれた柔らかいパンなんだよ」



 実は聖国の使者団が滞在していた一週間で、料理長にレシピを伝えて天然酵母作りを丸投げし、本来食事を必要としないジェスとジャンヌの分だけ俺がパンを作って持って来たのだ。

 食堂で食事をする時に、ジェスが食べずに見ているだけだと食べづらいという意見がチラホラ出ていたからな。



 というわけで、二人が一緒に食事ができるように準備した物のため、羨ましそうに見ている聖女に分けるパンはない。

 まぁ、すぐに騎士団の料理をじっくり味わい、「幸せ……」と呟いていたから大丈夫だろう。

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