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7.推しとの婚約生活

アレン様と婚約をして数か月。

私はお父様や研究気質な方たちとベビーローズのローズヒップティーを作ることに成功していた。

これもひとえにみんなのお陰。

私は齧り知った情報を伝えただけなのに、それを形にしてしまえる領地の農家の方や植物に詳しい方たちは優秀だ。

知らない間に農作物の研究施設までできているが、私は入ったことはない。

あくまで情報提供のみ。



そしてアレン様と私はというと。

定期的にお会いしている。

アレン様が領地に来てくれることもあるが、私が王都に行くときもある。

だが、なにせ王都と領地には馬車で半日かかる距離の問題がある。

婚約者とはいえお互い未成年(この世界では16歳が成人)なので、保護者同伴以外の外泊は良しとされない。

なので会える時間はごくわずか。


それでもアレン様は時間を見つけて領地まできてくれるのだ。

わたしとしてもゲームの時よりも甘いアレン様と接することはこれ以上ないご褒美なので、一緒にいる時間を少しでも確保するため朝早くから馬車で王都に通っている。


自分の気持ちに気づいて、学園のことを思うと沈んでしまうこともあるけど。

私は開き直った。

入学までの3年の間、たくさん思い出をつくるのだ。

思えばこんな奇跡ない。

推しと婚約ができて、近くで推しの声を聴けるのだ。

12歳から15歳までの成長だって傍で見られる。


ゲームでは確かに声から好きになった。

だけどもそれだけじゃない。

顔ももちろん大好きだ。

けどやっぱりつらい過去があっても挫けずに努力を続けてきたとこや、どんなに表情が動かなくても根本がすごく優しいところ。

そういうところに惹かれたし尊敬すらしている。

現実に存在しているアレン様も当たり前かもしれないが同じく努力家で優しい。


だからアレン様がヒロインのことを好きになったから婚約を辞めたいって言われるまでは隣に立ちたいって思った。

本当にそうなったらきっと泣くし、つらいと思う。

でもアレン様が私を必要としてくださる間だけでも私が笑わせたいし幸せだと思ってもらいたい。

アレン様の婚約者になれたあの日から、私はその日が来るまでは楽しく過ごそうと心に決めたのだ。






そして今日も今日とて王都のカフェでお茶をしていると、嬉しそうにほほ笑みながら私にフォークを差し出してくる。

今が旬のフルーツがてんこ盛りのタルトがそのフォークには刺さっている。


「リリベル、口を開けて?」

相変わらずアレン様の声に逆らえない私は顔を真っ赤にしながら口を開ける。


ぱくりと噛み締めるとじゅわっと果汁が口いっぱいに広がる。

香りが高く甘みが強い。


「これは…!」

あまりの美味しさに私は先ほどの羞恥を忘れ口に手をあてながら咀嚼する。


「ここのお店、リリベルの領地のフルーツが使われているんだ」

やっぱり!とばかりにアレン様を見ると変わらず私を見て笑っている。

うちのフルーツの味には自信を持っている。

だが、それに合わせるかのように甘みをおさえたカスタードクリームとサクサクの生地がフルーツの美味しさを倍増させている。


「すごく美味しいです!」

「このお店、元はうちのデザートを担当していた料理人が出した店なんだ。うちも出資している。リリベルの領地の果物を取り寄せるようになって、その果物のとりこになったらしい。相当研究してこのタルトを作ったんだ」

「う、嬉しいです」


うちの果物を美味しいと思ってくれて、それをさらに美味しく料理してくれるなんて嬉しい以外言葉が出ない。

思わずにやけながら目の前に差し出されるタルトを頬張ると、にこにこ顔のアレン様と目が合った。

相変わらず麗しい笑顔…………、じゃなくてっ!

あまりにもスマートに口の前にタルトが出てくるものだから普通に食べていたが、私はずっとあーんをされ続けていた。

その事実にかあっと顔に熱が集中する。


アレン様ってばまだ12歳だというのに、なんてスマートなあーんを……。

この年齢は前世では中学1年だ。

まだまだおこちゃまではないだろうか?

学校とか行ったことないから知らんけど。

日本の中学生は異性にあーんなどしない。

たぶん……。


なんて恐ろしい子っ!






「もう、こんな時間か……」

タルトを食べ終えゆっくりとお茶を飲んでいるとアレン様が時計を見ながら愁いを帯びた声で呟く。


「リリベルと過ごすと時が経つのが早い。だが学園に入れば毎日リリベルと会える。あと2年半だが、それを楽しみに毎日過ごしている」

学園……。

その言葉にチクリと胸を刺す痛みを感じるも、それを奥底に隠し私は笑みを浮かべる。


「私もこうしてアレン様とお会いするのはすごく楽しいです」

私は言いながら忘れないようにバッグから包み紙をアレン様に渡す。


「アレン様、こちらを」

「これは?」

「うちのベビーローズで作ったローズヒップティーです。免疫力向上の効能があるので、ちょっとした風邪などにも効きます。何もない時でも飲んでいただくと風邪予防にもなります」

1月ほど前に出来上がったローズヒップティー。

私や家族はもちろん領民たちにも飲んでもらったから味は保証できる。

それに飲み始めてまだ1月だが領民たちからも風邪にかかりにくくなったと好評を得ているのだ。


「ありがとう。母が少し風邪気味なので飲んでもらおうかな」

「それはぜひ!効果は領民たちも証明してくれているので絶大ですよ」


アレン様のお母様はお身体が弱いのか、よく風邪をひくとおっしゃっていた。

特効薬はまだできていないが、とりあえずローズヒップティーで免疫力を高めることも効果があるのでは、と思いアレン様に渡すことにしたのだ。

これでアレン様のお母様やお兄様が流行病に負けずにいてくれたならば。


うちにあるベビーローズでは数に限りがある。

特効薬がいまだどういうものがわからない以上、その作成は手詰まりになってしまった。

だから出来上がったのはこのローズヒップティーだけ。

だけども少しでも流行病に対抗できる免疫があれば、かかる時期をずらせるかもしれない。

そうなればダントス領で作られる特効薬にも間に合うかも。


そんな期待を持ってローズヒップティーをできるだけ生産することにした。

だからどうか―――。





どうか、この優しい人から家族を奪わないでほしい。



アレンくんは幼少期から両親の仲睦まじい姿を見て育っています。

なので、好きな人に対する行動はパパさん譲り。

12歳という年齢でも自然な甘々仕様となっております。

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