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5.推しと婚約

昨夜しっかりとこの世界であるゲームの内容を整理したものの、肝心のベビーローズからできる特効薬のことはわからずじまい。


そりゃそうだよね。

ゲーム進行にはなんら関わりのない話で、アレン様の過去の話にちょっと出てきたくらいのものなのだ。


ちょっとでもとっかかりがあればいいのだが、今のところそれもない。

ヒントも何もないので、とりあえずこの問題は領地に帰ってベビーローズで色々やってみるしかないと開き直り、私は今日の王都見学を楽しむことにした。






右も左も可愛らしいお店が立ち並ぶ道をお母様と一緒に歩く。

人がたくさん行き交い、活気ある王都は見るもの全てが新鮮だ。

こういうお店が領地にあればなあ、なんて妄想も膨らむ膨らむ。


お洒落なカフェでスイーツを堪能しながら窓から行き交う人々を眺める。

誰もがみんな楽しそうに談笑しながら道を歩いている。


そんな様子を眺めていると、どうしても考えてしまうのが流行病のことだ。

こんな楽しそうな人たちを病は容赦なく襲う。

それはきっと私だって例外ではない。


私の前世は病室で過ごすだけだった。

学校生活も、外での遊びも、こうしてスイーツを堪能することもなく一生を終えた。

だからこそ今世では目いっぱい楽しみたいと思っている。

学んだり遊んだり色んな経験をしたい。

それがゲームの進行上必要だとしても、私はやっぱり何もしないでいることなんてできない。


領地に帰ったら早速ベビーローズでの特効薬作りに着手しよう。

とにかく考えうることを片っ端から挑戦していくのだ。

私は決意新たに拳を握る。


そんな私を目の前のお母様が不思議な顔をして見ながら、イチゴのタルトを頬張っていた。







◇ ◇ ◇








領地に戻り早速お父様とベビーローズからの抽出作業の相談を、と思っていたのに。

領地に着いた私たちを待っていたのは悲壮な顔をしたお父様。


「リリベルッ!!」

馬車から降りるや否や私は拉致監禁かというほどの素早さでお父様の執務室へ連れ込まれた。



「あの、お父様……ただいま戻りました」

今言う事か?という疑問は置いておいて、とりあえず挨拶大事。

そんな私に複雑そうな顔をした後、コホンと一つ咳払いをするお父様。


「あ、ああ、おかえり」



「ジェイムズ?一体何があったの?娘連れ去り事件が起きたのかと思ったわ」

後からお母様も執務室に入り、のほほんと声をかける。


「あ、ああフローラもおかえり」

「ええ。ただいま」

少し落ち着きを取り戻したお父様はお母様とハグをしながら挨拶を交わす。





ソファに座り、お茶を淹れてもらったところでお父様が一枚の封書を懐から出した。

宛名はお父様の名前。

差出人は……。


「あら、スペンサー公爵様から?」

お母様の言葉にドキリと胸が高鳴る。

アレン様の……。


一瞬で私の意識は一昨日のお茶会へと飛んでいく。


レアなアレン様の笑顔。

アレン様の素敵ボイス。

ああ、尊い……。


そこでハタと現実に戻ると、目の前から視線を感じた。

お父様だ。

それはもう、じとっという目で見ている。

居心地の悪さを感じつつ姿勢を正すと、お父様が重い口を開いた。


「リリベル、お前はスペンサー公爵家のご子息であるアレン様とは面識があるのかい?」

「アアアアレン様と……?」

「アがやけに多いな……」

突然のアレン様の話で若干声が上擦ってしまった。

落ち着かせるため、湯気の立つカップを持ち口を付ける。

香り豊かなお茶をコクリと喉に流すとそっとソーサーに戻す。


「王宮のお茶会でお会いしました。迷っているところを案内して頂きました」

淑女として落ち着きを取り戻した私は澄ました顔で答える。


「それで?」

「それで、とは?」

お父様の目が血走っています。

はっきり言って怖いです。


「ジェイムズ?本当にどうしたの?」

訳が分からないというように横に座るお母様が首をかしげる。

確かにこのお父様の態度がよくわからない。

どこか焦ったようで、それでいて怒ってもいるようで。



「婚約」


お父様が言った一言に私はお母様とお互い見つめる。

お父様が忌々し気に目の前の封筒を睨んでいる。


「これ、婚約の申出書なんだけどっ!」

「へ?」

今度は涙目だ。

お父様が情緒不安です。



「リリベルっ!なにがどうなってアレン様に見初められちゃったの?リリベルはずっとうちで一緒に領地を盛り立てて行くって言っていたのに……」

ついには立ち上がり、私の肩を掴むお父様。


肩を揺さぶられながら私はパニック中。


婚約…………?

あれ?どういうこと?

婚約って私とアレン様がっ?



「そんな馬鹿な!!」


私は令嬢らしからぬ大声で叫び頭を抱える。

ゲームでは、アレン様に婚約者なんていなかった。


お父様のセリフもらいますが、何がどうなってこうなった?

隣で楽し気に「あら」と言うお母様は置いておいて、私は悲痛な面持ちのお父様と顔を見合わす。


「な、何かの間違いでは……?」

一縷の望みをかけて聞いてみるも、もうお父様ったらうっかりさん、なんてことにはならなくて…。


「正真正銘、公爵家当主からの申出書だ……」



公爵家当主からの正式な申出に伯爵であるうちが否と言えるはずもない。

私はこの申出書が来た時をもってアレン様の婚約者に確定したともいえるのだ。


おかしい……。

ホントになんでこうなった??



学園で授業を受けるアレン様。

昼食を摂るアレン様。

お茶を召し上がるアレン様。

などなどを端の方でちょこっとそのお声と共に堪能しようと思っていただけなのに。


ゲームの内容を無視して特効薬を作ろうと思ったことは横に置いとくとして、こんなのゲーム内容にないんですけどーーーー!


でもこれってもしかしなくても、私ってモブなんかじゃなく………。


「当て馬………?」


私はひやりとした汗が背中を伝うのを感じた。


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当て馬じゃなくて、流行り病で死んじゃう設定では?
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