24.推しの声をこれからも堪能します
「薔薇の乙女は君と恋をする」
それは学園を舞台とした乙女ゲームの世界。
ヒロインが5人の攻略対象者の誰かと恋に落ち、そして愛を育んでいく。
その中のキーアイテムは言わずもがな「ベビーローズ」。
流行病の特効薬になったり、免疫効果を高めるお茶になったり。
そして精神に作用する禁止薬物の材料だったり…。
ゲームという作られた世界では便利なアイテムをつくり出すのに必要不可欠なこのベビーローズ。
そんなベビーローズは、現実世界であるここにおいてはあの騒動以来危険植物として認定された。
ただ、特効薬や免疫効果の方に関して言えば非常に評価が高くその効果も実証済み。
その功績は称えられ王国の識者話し合いの末、王国内のベビーローズは全て王宮が管理する事が決定した。
全て無くすには惜しいベビーローズは研究施設もある王宮で管理し、正しく使っていこうということになったのだ。
うちの領地にあるベビーローズももちろん例外なく全て王宮へ献上した。
なので今、領地のベビーローズが植えられていた場所がぽっかりと空いている……、なんてことがあるはずもなく、その場所は新たな品種改良できた果物がすでに所狭しと植えられていた。
そして、今日―――――。
真っ青な雲一つない空。
響き渡るは荘厳な鐘の音。
学園の卒業式を終えたのはつい昨日のこと。
あの日の約束通り、今日は私とアレン様の結婚式だ。
真っ白なウエディングドレスを纏った私は今、王都一の教会の重厚な扉の前に立っていた。
目の前の扉を見つめる。
この先には私の最推しが……………。
いや、待って!
結婚式なんてゲーム内にもなかった。
しかも今日のアレン様の服装は騎士の正装だと言っていた。
初出し!
え、そんなの眼福以外なにものでもない!
意識を保っていられるのかしら。
鼻血とか出すのはまずいわよね。
だってドレス、真っ白だし。
一気にホラーかサスペンスだわ。
ど、どうしましょう。
ききき緊張が………。
ついにはキョロキョロと視線を彷徨わせる私。
ふと目に着いたのは隣にいるベソベソ泣くお父様。
……………スン。
よし、大丈夫だわ。
落ち着いた。
お父様、ありがとう。
それにしても…。
「お父様、泣きすぎでは……?」
隣に立つ父は30分ほど前から嗚咽を漏らしながら涙を流している。
人って自分より泣いている人がいると結構冷静になれるんだと私は思った。
「だっで……、結婚はもう少し先だと……。学園は寮だったし、一緒に暮らしたのは実質15年・・・…うっ、寂し…」
お父様のそんな言葉に不覚にもうるっときてしまった。
お父様にはとても感謝している。
もちろん、お父様だけでなくお母様も、そして愛するマリーベルやセオドアにも。
「お父様……、15年という歳月ではありますが、お父様と一緒に新しいものに挑戦してきた領地でのことずっと忘れません。私の中ですごく楽しい思い出で一生の宝物です。18年間大事に育ててくれて感謝しています……」
「う…リリベル……。これ以上泣かさないでくれる……」
ハンカチでお父様の涙を拭ったところで目の前の扉が開いた。
お父様の手を取り私は祭壇に向かう道をゆっくりと進む。
「リリベル……。これからはアレンくんと力を合わせて楽しい家庭を築くように……」
「はい。ありがとうございます、お父様」
途中でお父様は私から離れ、私は一人その場に立つ。
正面を見ると、あと数歩という距離には最推しの姿。
真正面の大きな窓から降り注ぐ光が後光のようにアレン様にかかる。
その眩さに目を細めながら私は一歩ずつ前に進む。
アレン様との距離が近づくと、目の前に手が差し出される。
ゆっくりとその手を取って、視線を上げる。
ふわーーーーーー!
すすすすすすすすすすす、素敵すぎる……………っ!!!!
控えめに言っても最高すぎる。
語彙力なくて申し訳ないほどの最高傑作が降臨している。
なに、これ。
神かな。
神々しすぎない?
髪が後ろに撫でつけられて美しい形の額と耳がその姿を現している。
真っ白なひざ丈のマントは金色の縁取りに彩られ窓からの光でキラキラと輝いている。
ぴったりとしたシャツも真っ白で清楚な中に色気を漂わせる光沢があり、それがさらにアレン様の凛々しさを引き立たせ……、ああダメだ。
自分の語彙力のなさを恨む。
もうこうなれば心のシャッター切りまくります。
余すことなく全てをこの目に心に刻み付けたい。
「リリ、綺麗だ。この世の何よりも」
この厳かな空間にアレン様の美声が響く。
耳から溶けてしまいそう…。
「アアアアアアアアレン様も、私の語彙力では語りつくせないほどに素敵すぎますっ!」
「はは、ありがとう」
推しに出会って。
推しの婚約者になって。
推しにリア恋して。
推しからも愛情をもらって。
これから先考えることはそんな推しであるアレン様の幸せ。
それが私の幸せでもあるから。
これから先も成長していくアレン様はずっとずっと素敵だろう。
大人の色気が出て、声に渋みが出てきて……。
それはおじいちゃんになってもずっと…。
うん、想像だけでも推せる。
どんなアレン様も大好きだと胸を張って言える。
その気持ちがあればなんだってできそうだ。
これから先つらいことがあってもきっと乗り越えていける。
私の気持ちは揺るがない。
そしてアレン様の気持ちも疑わない。
私はこれから先のことを考えて自然顔が緩んだ。
隣を見ると、私の視線に気づいたアレン様が柔らかく微笑む。
その顔、控えめに言って最高です。
これからもずっと隣でアレン様と共に並んで歩んでいきたい。
そう強く思わずにいられない。
異世界転生したらモブだった私は、これからも一番近くでずっと推しの声を堪能したいと思います!!
~~Fin~~
これにて、推し声(勝手に省略)は完了です。
最後までご愛読ありがとうございました。
まだまだ拙い文章ではありますが、完結できたのは読んでくださる皆様のおかげです。
とても力になります。
ありがとうございます。




