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20.推しのためにできること

虹の雫。


それはゲーム内にあった好感度アップアイテム。

ベビーローズが咲き誇る場所をくまなく探すと一定の確率で見つけることができる虹色の薔薇。

それはピンク色のベビーローズの中でごくわずかな確率で咲くという七色の花弁をもつ薔薇。

その薔薇から作られるのが虹の雫だ。

ゲーム内ではただの好感度を上げる公式アイテム。

だが、この世界に当てはめて考えると、それはただの禁止薬物だ。




歴史で習った今からはるか昔に存在した魔女。

この国には魔法というものはない。

魔女というのはその知識で薬を創り出す存在。

それは多岐にわたり、中には精神に作用するものまで。

自白剤など今でも使われているものもあるが、危険だと判断されたものは全て法において禁止されている。

その最たるものが愛の妙薬などという、いわゆる惚れ薬や媚薬といったものだ。


ゲームにある好感度が上げられる虹の雫。

これはまさしくそんな違法薬物に指定される。




「フィリップ殿下。王宮には禁止薬物に詳しい方はいらっしゃいますか?」

私は虹の雫の原料は知っているが、作ったことがないから製造過程はわからない。

なんせその虹色の薔薇を3本集めると虹の雫が出来るという知識しか持ち合わせていない。

だから、私にできるのはせいぜい虹の薔薇を探すことだけ。

あとは薬物に詳しい人がいれば調べて貰えるかもしれないという期待を込めて、私はフィリップ殿下にそう尋ねる。


「薬学に特化した専門の研究施設が王宮にある。そこには禁止薬物に詳しい者もいる。ただ、その研究者たちでもアレンに使われたと考えられる薬物はまだ特定はできていないのだが」


特定まで至っていなくても、詳しく研究している人がいるのなら。

その薬物の原料とされるものがあれば、研究して解毒剤とか中和剤みたいなのができるかもしれない。



精神に作用されるものがなぜ禁止されているか。

それは人の心を弄ぶという道徳的観点からと、使い続ければその人の精神を壊してしまうという大きな後遺症が残るからだ。

マリア様がアレン様に対してどれほどの虹の雫を使ったかはわからない。

だからこそこれは一刻を争う事態。

私の知識を出し惜しみしている場合ではない。


「フィリップ殿下。もし私がその精神に関わる薬の原料となるものに心当たりがあったらそれを調べてもらうことはできますか?」

私の言葉に何か感じるものがあったのかもしれない。

フィリップ殿下が私を観察するようにじっと見つめてきた。


「詳しくは話せないし、それだという確証もありません。それが見つかる可能性も限りなく低いです。ですが……」

アレン様は私の知識が王族に注目されたり利用されたりすることを心配していた。

だけども今はそんなことを言っている場合ではない。

私だって王宮の研究施設を利用させてもらうのだ。

もし虹の雫のことが研究されて、アレン様が元に戻るのであれば私は喜んでその知識を王宮へ差し出す。


「いつでも王宮に来てくれ。話は通しておく」

私の決心がフィリップ殿下に届いたのか、フィリップ殿下が力強く頷いてくれた。

「ありがとうございます」


「リリベル様」

隣を見るとアナスタシア様が心配げな表情で私を見ていた。


「アナスタシア様、ありがとうございました。私、アナスタシア様と友達で良かった!またゆっくりとお茶しましょう」

私は心からの言葉をアナスタシア様へとかけ、二人に向かってカーテシーをして部屋を出た。

向かうは我が領地だ。







◇ ◇ ◇







領地に着いてすぐ私は両親への挨拶もそこそこに庭へと出た。

奥に入りベビーローズを植えている場所まで。

さらに増え、今では結構なベビーローズ園となっている。

私は腕まくりをしてその中へ入っている。

探すのはただ一つ、虹色の薔薇。

とにかく1本でも探し出して、王宮のちゃんとした機関で調べてもらえれば何かわかるかもしれないのだ。

私にできるのはそんなことくらいだ。

一縷の望みをかけて私はベビーローズの中へ分け入っていく。





「だめ、だ………。見つからない…………」


どれくらい探したか。

気づけば辺りは薄暗い。

密集した場所もかなり探したから、ドレスは泥だらけで腕には棘でやられた擦り傷もできている。

ここのベビーローズ園は広いとはいっても、一介の伯爵家の庭の一角に過ぎない。

ゲームに出てくるマリア様の領地のベビーローズは、領地いっぱいにベビーローズが生えているのだ。

その広さは比較するまでもない。

その広さでもなかなか見つからないとされている虹色の薔薇なのだ。

ここで見つかる可能性は低い。

それでも、私は探すしかなかった。

それしかもう私にできることがないのだから。

それでも、この暗くなりつつある時間に虹色の薔薇を探すのはもう無理だろう。

私は明日もう一度探そうと、ベビーローズ園から出た。

その瞬間二つの塊が私に向かって飛び込んできた。





「姉さま、元気ない?」

「姉さま、私のおやつあげる」


二つの塊は弟のセオドアと妹のマリーベルだ。

二人とも心配そうな顔で私を見上げてきた。


「う、ありがとう。セオドア、マリーベル」

なんっていい子たち。

私が一心不乱に探している間もずっと心配そうに見ていたのは気づいていた。

たっぷりと遊んであげたかったのだが、どうしても虹色の薔薇を探したくてそのままにしていたのに、こんな風に心配してくれるなんて優しすぎる子たちだわ。

私はいい子に育った姉弟を見て涙ぐむ。



「姉さま、これあげる」

「ん?」

涙を拭いてセオドアを見上げると、セオドアは手に握った物を差し出してきた。

私はそれを見て、顎が外れるんじゃないかというほど口が開いた。




「え………、どうして、これ………」


大事そうにセオドアが握っているのは。

一本の薔薇。

それも七色がグラデーションのようになっている。



それはまさしく虹色の薔薇だった。



「マリー姉さまと、かくれんぼしていて見つけたの」

「これすごいでしょ、姉さま。もっと見つけたくて探したけどこの一本しか見つからなかったの。でもとても綺麗でしょ」

セオドアとマリーベルが興奮気味に語る。


「僕の宝物。でも姉さまにあげる」

そう言ってにっこり笑うセオドアを私は思いっきり抱きしめた。


「セオドア……。ありがとう。私ね、これ探してたの……。嬉しい。セオドアの宝物だけど、もらってもいいの?」

「うん。姉さま元気でる?」

「うん!セオドア、今日はゆっくりできないけど、次に帰った時はたくさん遊びましょう!もちろんマリーベルも!」

私はもう片方でマリーベルも抱きしめた。


「わあ!」

「うん!」

「二人とも大好きっ!」


私はお日様の匂いのする二人を抱きしめながら、これでアレン様の心を救うことができますように、と願った。


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