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2.推しと出会う前

私が前世の記憶を思い出してから6年経った。


読書で培った知識でお父様の力になれないかと領地で色々とやってきた。

さすがに全てが全て上手くいくことはなかった。

机上の空論ということも多々あったが、それでもお父様は私の出す案を否定することなくみんなで意見を出し合いながらよりよい領地経営をしていってくれた。



前世の私はずっと病院だったから人と関わることが楽しかった。

駆け回ったり、料理を作ったり、前世でできなかったこと全部が楽しかった。


だからこの6年はあっという間。

あまりにも楽しく過ごしたこの6年、読書での知識に全振りしていたからすっかりゲームのことは頭の片隅においやってしまっていた。

すでにこの世界は私の知らない世界だと割り切ってこの6年やってきたから。



だから我が国の王太子殿下の名前を聞いた時もなんとなく聞いた覚えあるなー、なんてぼやっとしてしまっても仕方がないのだ。







そんな私は今お母様と馬車に揺られている。

領地から馬車に揺られること半日の場所にある王都に向かっているのだ。

その馬車の中で告げられた王太子殿下の名前。

先月12歳の誕生日を迎えた殿下との顔合わせとして、伯爵以上の爵位を持つ12歳前後のご令嬢のお茶会が王妃様の名のもと開催されるのだ。


要するに殿下の婚約者探しなのだが、この時の私は領地のことで頭がいっぱいでそんなこと考えることもなかった。




糖度の高いフルーツの作り方や長期保存ができる食料の作り方など、お母様の話を耳で流しながら次はどんなことをしようかと物思いに耽っていた。


読み漁った本の知識でも領地で使えそうなものは片っ端から試していった。

本来研究者気質のお父様も私の言葉に耳を傾けて一緒になって研究してきた。


今ではどこの産地にも負けない甘いフルーツができたと自負しているし、野菜だって大きな実ができるように工夫してきた。

なんなら掛け合わせて新しい野菜を作る研究だって進んでいるのだ。


目を輝かせながら読んでいた本の知識を、こうして実践できるのがもう楽しくて楽しくて。


ついつい次は何をしようかなんて考えてしまうのだ。






休憩を挟みつつ馬車に揺られその日のお昼過ぎに王都に着いた。

馬車から降りた私は口をあんぐりと開けて王都の街並みを見渡す。


領地のような野原が広がる地面じゃなく綺麗な石畳が敷き詰められている。

煉瓦造りの家が立ち並び、整備された木々や花がそれらを彩っている。

たくさんの人々が行き交い、テラスのあるお洒落なカフェや、カラフルな雑貨が立ち並ぶお店など活気溢れる街並みだ。


「リリベル、こっちよ」

お母様に手を引かれてはっと我に返る。

伯爵家令嬢たるものいくら物珍しいからといって口を開けてキョロキョロしてしまうなどあってはならない。


でも……、み、見たい!


前世でも病室から出たことがないのだ。

何を見るも聞くも新鮮で。

表面は冷静を装いつつチラチラ盗み見くらいは許されるわよね。



「お母様、ここはまるで別世界のようです」

「ふふ、そうね。リリベルは領地から出るのは初めてですものね」

「今日はこのまま伯父様のところに行くのですね?」


王都ではお母様の兄であるレナード伯爵家に宿泊させてもらうことになっている。

王宮で武官をされているので王都に家を構えているのだ。


「ええ、そうよ。明日はお茶会だから、明後日なら王都観光できるわ」

お母様の言葉に目が輝く。私のその様子を見てお母様も楽しそうに笑う。







次の日、私は伯父様の家のメイドさんたちにピカピカに磨かれ、準備してきたドレスを着て姿見の前に立つ。

私にとっては初と言ってもいいほどの綺麗なドレス。

コルセットもぎゅうぎゅうに絞められて苦しい。


なんせ領地では常に汚れてもよさそうな簡素なワンピースなどを着て過ごしているのだ。

一度、農作業をするために農業の人たちに紛れてつなぎを着たら、お父様に泣かれながら止められた。

あれが一番動きやすいのだけど、さすがに泣かれるほど嫌がられてはやめるしかなかった。



「おお、リリベル素敵じゃないか。そうしているとフローラの幼いころに似ている」

目を細めてうんうんと頷く人はこの家のご当主。

お母様の兄であるハリソン・レナード伯爵様だ。

先ほど言ったフローラとはお母様のこと。

私はお母様と同じ淡い紫の髪は気に入っている。


前世に写真で見た見事な藤棚。

その藤の花と似た色なのだ。

瞳はお父様に似て黄味を帯びたグレー。

お父様より色素が薄いため少し冷たい印象にも見えるが、前世黒髪黒目だったからこの色も新鮮で気に入っている。


お母様は娘の私から見てもとても可愛らしい。

たれ目で大きなグリーンの目をしているお母様は30過ぎても20代にしか見えない。

どちらかというと妹のマリーベルの方がお母様似だと思うが、それでもお母様に似ていると言われると素直に嬉しい。



「うん。リリベル可愛いわ。ジェイムスも見たかったことでしょうね」

お母様がそう言って顔を綻ばせる。


お父様は領地で仕事があるので王都には来ていない。マリーベルと3年前に生まれた弟セオドアと共にお留守番組だ。






「それではハリソン伯父様、行ってまいります」


「ああ、楽しんでおいで」

お母様と並んで伯父様に見送られながら馬車に乗り込む。

向かうは王宮だ。


ガラガラと石畳上を馬車で移動すること30分。大きな石でできた橋を渡り、王宮の中へと入ったところで馬車が止まる。



「わあ…」

思わず声が出た。

そのあまりの大きさに。

その荘厳さに。

前世で見た世界のお城写真集のヨーロッパの壮大なお城そのものがそこにあった。


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