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15.推しとドレス

次の学園お休みの日。

私は約束通り王都のスペンサー公爵家に招かれた。



「お久しぶりです。オリヴィア様」


エントランスでよく知る顔を見て私はドレスの裾を掴んで膝を折る。

アレン様のお母様であるオリヴィア様だ。

オリヴィア様はアレン様と似た髪色と瞳をしている。顔のつくりも似ていらっしゃるので、それはもう目を見張る美人さんだ。

身体が弱いと聞いていたが、私から見るオリヴィア様は健康そのものだ。

それもこれもローズヒップティーのお陰だと、スペンサー家からはかなり感謝されもした。


初めはそんなローズヒップティーのお礼から始まったスペンサー家との交流だが、それからオリヴィア様とはお茶したりご飯をごちそうになったり。

何度もお招きを受けている間に、オリヴィア様からはお名前を呼ぶ権利を頂けた。


そう有難いことに、オリヴィア様だけでなくお父様であられる公爵様にもよくして頂いている。

公爵様は忙しい方なのでそれほど顔を合わせてはいないけれど、強面ではあるもののその実とてもやさしくて誠実で愛妻家なお方だ。

騎士団長をしているだけあって体が大きく、初めましてのときはその圧に驚いたけど。

でもやはり親子なだけあって、どことなくアレン様とも似ていたりしたのでそんな圧もすぐに気にならなくなった。



「リリベルちゃん、久しぶりね。全くアレンがなかなか連れてきてくれないから」

オリヴィア様はにっこりと笑って、そして片手を顎に当てて困ったようにアレン様を見る。


「リリベルは俺の婚約者です。休みの日はゆっくり二人で過ごしたいので」

アレン様はそう言いながら、私の肩を抱いて体を密着させる。


はうっ!


もう本当にアレン様の言動は心臓に悪い。

体温上昇しまくりだ。


「全く、アレンもスペンサー家の男ね」

オリヴィア様の呆れたような声。

だがその表情はとても柔らかい。


以前スペンサー家のお茶に招かれたときにオリヴィア様に言われたことがある。

スペンサー家の男は総じて愛が重い、と。

気を付けてね、嫌なことがあったらすぐに私に言ってねと言われたが、アレン様のすることに私が嫌だと思う事なんてなく。


その時は私は大丈夫だという気持ちを込めて、推しへの愛を語ってしまった。

それはもう存分に。

かなり驚いたようにあんぐりと口を開けて私の話を聞いていたオリヴィア様。

美人だからそんな顔も麗しかった。

結局私は真っ赤になったアレン様に口を塞がれるまで語った過去がある。

それからというもの、オリヴィア様からは楽しくて面白いリリベルとして大変可愛がってもらっている。



「さあ!今日はうちの料理人に張り切ってもらっちゃった。行きましょう」

「はい」

オリヴィア様が先に歩き出し、私はアレン様に手を引かれながら食堂へ向かった。









美味しいお料理に舌鼓を打ちながらの楽しいランチの後は、庭のガゼボでお茶を頂く。

スペンサー公爵家のお庭もかなり広い。

オリヴィア様の趣味がわかる落ち着いた雰囲気のお庭だ。



「これ、リリベルちゃんの領地の果物をたくさん取り寄せて作らせたのよ」

「わあ。嬉しいです!ありがとうございます」

目の前のカラフルなスイーツたちに、私の目も輝く。

うちの果物はどこに出しても恥ずかしくない出来ですから!

と、どこか親ばかのような心境で果物自慢をしたくなってしまう。

お父様や領地の農作業をしてくれる人たちがどれほど頑張っていたかを見てきたから。


それにそんな自慢の果物をこれほど美味しそうなスイーツにしてくれるなんてっ!

すごく色んな種類のスイーツがあるのだ。

アレン様の家の料理人はすごい!

そういえば、王都にお店を出した人もいたんだっけ。


「どれも美味しそうです!」

さっきランチを食べたばかりなのに、どれから食べようか迷うほどどのスイーツも魅力的だ。

もう、顔の筋肉が緩む緩む。


「やだ、可愛いっ」

きっとへらへら笑ってしまっていたであろう私を、ぎゅむっと隣に座るオリヴィア様が抱きしめる。

わあ、いい匂い~……。

しかも柔らかいし……。


「母上、リリベルとくっつきすぎです」

と変態じみた感想を思い浮かべたところで、べりっとアレン様によって引き離される。


「あら、独占欲の強い男は嫌われるわよ」

「いえ!アレン様を嫌うなんてあり得ませんっ!!」

「まあ!熱烈ね」

私が拳を握りしめて熱弁すると、オリヴィア様は手を叩いて喜んでいた。


「そうそうそれでね、お茶の後に会ってほしい人がいるのよ」

「お客様ですか?」

オリヴィア様の言葉に、ミニサイズのロールケーキを口に入れた直後だった私は急いで咀嚼して飲み込んだ。


「ええ。いいかしら?」

どことなく楽し気なオリヴィア様を不思議に思いつつ、隣にいるアレン様を見るとそちらも楽し気に私を見ていた。

「はい」

もちろん私にそれ以外の返事があるわけでもなく、頷きつつそう答えた。







◇ ◇ ◇







「マダム・ポーリーよ」

お屋敷に戻り、一室に入った私は一人の女性を紹介された。

グレーヘアを頭の上でお団子にしたその方は皺のある目元を緩めて軽くお辞儀をした。

「は、初めまして。ハートウェル伯爵家のリリベルと申します」

「ふふ、初めまして。ポーリーよ」

そう言って優し気なブルーの瞳を楽しそうに細めた。


マダム・ポーリー……。

ドレスに疎い私でもその名は知っている。

王妃様御用達のドレスショップの店長だ。

予約が取れないことでも有名なあの……。

さすが公爵家……。



「では、早速だけれど採寸からさせてもらいましょうか!」

マダム・ポーリーの言葉に私は横にいるアレン様とオリヴィア様を交互に見る。

わたしの視線を受けてにっこりと笑うアレン様。

素敵です……。

ではなくてっ!


「あ、あの…、アレン様…採寸とは……?」

私は訳が分からなくなって縋るようにアレン様を見た。


「1月の成人の儀のドレスを贈らせて欲しい」


成人の儀。

それはその年に成人を迎えた貴族の令息令嬢が集まる舞踏会。

私やアレン様も今年16歳になる。

だから1月の成人の儀には参加する決まりだ。

けれども、ドレス…。


「え…!」

私は驚きの声をあげる。

成人の儀は白を基調としたドレスを着ることになっている。

もちろん婚約者から贈られることもあるだろうが、私はてっきり両親が用意してくれると思っていたのだ。

少し前にそんな話をしたこともあるのだ。

だけども……。


「ハートウェル伯爵家にはもう伝えてあるんだ」

さすがアレン様。

根回しはすでにしてあるとのこと。

驚きで声が出ない私にいたずらが成功したような笑みを湛える。

アレン様のその笑顔、控えめに言って最高です!

ではなくてっ!


「ど、ドレスですか?」

ドレスなんて高価なもの。

しかも王都で知らぬものはいないとまでされるマダム・ポーリー直々のドレスだ。

お、恐れ多い……。

汚したり、破いたりしないようにしないと…。


けれどもアレン様は私のそんな心配などどこ吹く風だ。

「うん。俺に任せてもらっていい?」

少し身をかがめながら私の耳元でそう囁く。

もう絶対わざとだ…。

「は、はひ……」

そう言う風にされると、こんな返事しかできないのわかってやってるんだ……。


「楽しみにしてて」

ぱちっとウインクをするアレン様。

もう素敵だからなんでも許してしまうけども…。



あれよあれよと採寸される私。

その後はカタログを見ながら形を決めていくのだけど……。



「今の流行はやはりデコルテを見せるこのタイプね。リリベルちゃんは華奢だからマーメイドラインも綺麗に出そうね」

「ですが、これは肌を見せすぎでは?」

「あら、リリベルちゃんは綺麗な肌をしているのだから、これくらいの露出はあってもいいでしょう」

「いえ!他の男の目に触れさせることになるので、ここはもう少し控えめに」

「まあ、ではこのバックが開いたデザインは?リリベルちゃんは背中のラインも綺麗なのよね」

「なぜ母上がそんなこと知っているのですか」

「ふふふ」



ドレスに疎い私は置いてけぼりで、アレン様とオリヴィア様がああでもないこうでもないとドレスの形についての話が白熱している。

どんどん話が違う方向にいっている気がしないでもないけど……。


その横ではマダム・ポーリーが楽しそうに話を聞きながら紙にペンを走らせている。

すごい勢いでデザイン画ができるのを私は感心しながら見ていた。

それはもう魔法のようで。


「リリベル?リリベルはどういうのがいいかある?」

「そうね。リリベルちゃんの意見も聞きたいわ」

アレン様とオリヴィア様が期待を込めた目で見ている。

でも、私にドレスのなんたるかなんてわからない。

着るものには動きやすさを求めるような女だ。

だが、デザインのことは全くと言っていいほどこだわりはないが、成人の儀ではつけようと思っていたアクセサリーはあった。


「あ、あの、でしたら。去年の誕生日にアレン様から頂いたトパーズのネックレスを着けていきたいので、それに合うようなネックラインのものがいいです」


婚約してからというもの、アレン様からは誕生日の贈り物としていつもいつもいいものを頂いている。

去年はアレン様が側近になってお給料をもらうようになったからと言って、私の誕生石であるトパーズのネックレスをプレゼントしてくれたのだ。

それはとても大きくて、色が濃く希少なトパーズだと私でもわかる代物だった。

こんな高価なもの、と恐れ多かったのだが、私はそれを一目見てすごく気に入ってしまった。

その深く濃いイエローが、アレン様の瞳を思い出させるから。


そう、それは蜂蜜色をしたアレン様の瞳にとてもよく似ていたのだ。


「アクセサリーも一緒に贈ろうと思っていたんだけど……」

「いえっ!私、あれがとても気に入っているのです。アレン様の瞳と同じ色だから……」

「リリ……」

かなり恥ずかしいことを言ってしまったかもしれない。

そう思いはしたけど、アレン様は感極まったような顔で私の頬に触れる。

その目に甘さを含ませて。

ドキドキと鳴る心音がうるさいから、アレン様にも聞こえてしまうかもしれない。


それにしてもこのご尊顔はいつまででも見ていられる。

肌がきめ細かい。

瞳はどんな宝石よりも輝いている。

形のいい眉に、通った鼻筋…………。




「あらあら」

「まあ、ほほほ」


オリヴィア様とマダム・ポーリーの声に私は我に返る。


はっとしてそちらを見ると。

ふたりからの生ぬるい視線をたっぷりと受けた…。


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