14.推しは多忙、ヒロインとアナスタシア様と
書いては消してを繰り返したため、時間がかかってしまいました…。
遅くとも1週間に1話はあげたい (´;ω;`)ウゥゥ
たとえイベントをぶち壊してしまっても、ヒロインであるマリア様が転生者(仮)であろうとも現実社会であるこの世界の日々は過ぎていくわけで―――。
早いもので学園が始まって3か月が経った。
相変わらずアレン様はフィリップ殿下の側近としてお忙しそうだ。
学園では常に一緒だし、休みの日も王宮で何か仕事をしたりすることもある。
アレン様が忙しいということは、フィリップ殿下もギルバート様も忙しいわけで。
3人とマリア様の間にこれといった進展もなく日々が過ぎている。
けれどもマリア様はそんなアレン様たちに積極的に関わっていっている。
そう言った場面を見るのはもっとつらいかもと思っていたけど、アレン様の私に対する言動には全く変わりがない。
正直に言うと、それは私にとってはすごく嬉しかった。
マリア様が誰を好きになるのかわからないけど、やっぱり私はアレン様が好きだから。
私は私のできる限りで推しを幸せにしたいと思ってしまうのだ。
ただそんなマリア様の言動だが、周りのご令嬢からはかなりの反感を買っているようで…。
殿下はこの国の王太子だ。
今のまま行けばゆくゆくは王になるお方。
高位貴族とはいえおいそれと話しかけることもできない遠い存在でもある。
私もアレン様の婚約者になっていなければ何の接点もない雲の上の存在なわけで。
そんなお方になんの気兼ねもなく突入していけるマリア様。
私の耳にもそんなマリア様に対する苦言が入ってきている。
マリア様は特例で学園に入学した男爵令嬢。
高位貴族の方たちの中には身分差を笠に着る人は一定数いる。
なので下位である男爵令嬢のくせに、とか。
高位貴族である我々を差し置いて、とか。
色んな不満が出てきている。
それ以外にも、マリア様の天真爛漫な物言いといいますか……、一歩間違えれば不敬と言われそうな言葉とか……。
学園ではギリギリオッケーな気もするが、それをお気に召さない方たちもいるわけで……。
でも、絵になるのよね。
4人でのショット。
美麗なスチルではある……。
ただ、マリア様の苦言は殿下たちへの態度だけに留まらない。
マリア様ははっきり言ってモテるのだ。
ふわっふわのベビーピンクの髪に、ウルウルとした大きな青空のような瞳。
唇はプルつやだし、つんとした小さめの鼻に薔薇色のほっぺ。
それらがバランスよく小さな顔に収まり、これぞまさしくヒロインと呼ぶにふさわしい可愛らしい姿をしているのだ。
そんなマリア様が上目遣いでお願いすれば、誰かが手を差し伸べるし。
首を傾げつつ笑いかければ、相手の顔を赤く染めさせる。
それに距離感が近いのか、やけにボディタッチも多いのだ。
私はそれを見て、前世で読んだ「モテテク100か条~これであなたも今すぐモテモテに~」という、人と関わることなんてなかったくせになんでそんなチョイスをしたんだという本を思い出した。
その本は置いておいて、何はともあれマリア様はモテる。
それがまたご令嬢がたの不興をかってしまっている。
いや、モテるのは仕方がないと思う。
ただすこーし相手が問題な場合が……。
ここにきて私たちの学年の貴族の子息たちによる婚約解消騒動が増えてきている……らしい。
これは普段よく行動を共にするアナスタシア様からの情報だ。
そのどれもが、どうもマリア様が関係しているというのだ。
学園では身分差は関係なく健やかに学ぶという決まりがあるが、やはり婚約者のいる方に対して話したり笑いかけたりはまだいいが、ボディタッチはいけない……。
まあ、婚約者によっては話しかけたり笑いかけたりしただけでも色仕掛けをしている、という人もいるだろう。
前世ではこの程度の男女の触れ合いはきっと大したことではなかったんだろう。
いや、知らんけども。
外に出たことないから詳しくもないけど……。
でもやはり転生者であっても、この世界を生きているのだから今はちゃんとこの世界に合わせて人付き合いをしていかないといけないと思う。
そう思ったから、今ここにいるわけで―――。
私の隣には完璧なマナーでティーカップに口を付けるアナスタシア様。
前にはどこか楽し気な表情をしているマリア様。
いつも睨まれていたから新鮮な表情だ。
「ついに悪役令嬢の登場ね」
と、マリア様の小さな呟き。
んん?
私は二度見してしまったが、マリア様は何食わぬ顔でアナスタシア様の方を見ていた。
対するアナスタシア様は聞こえていなかったのか、何の感情も読み取れない。
本日、午後の授業も終わったところでご令嬢たちからの不満を聞いたアナスタシア様がマリア様をお茶に誘ったのだ。
私もこの場に一緒にいるのは、高位貴族であるアナスタシア様が男爵令嬢であるマリア様に何か苦言を呈することで、命令になったりしないようにとのことだ。
あくまでここは他のご令嬢たちの意見をマリア様に理解してもらうという話し合いの場なのだ。
「ダントス様、学園生活は楽しんでおられますか?」
「はい!あ、マリアでいいですよ」
「いえ、ダントス様で……」
ああっ!マリア様!マリア様からそのような提案はマナー違反ですっ。
ハラハラしながら様子を見る私だけど、当のアナスタシア様は流石というか、全く動じた様子もない。
「マッケンロー侯爵子息様、ベリー侯爵子息様、ロレーヌ伯爵子息様、ベンブルック伯爵子息様……。このお名前を知っておられますね?」
アナスタシア様の言葉にマリア様は目をぱちぱちさせた。
「マッケン……?ベリー……、ロレ………」
ぶつぶつと呟きながら腕を組むマリア様。
マリア様ー!いけませんよーっ!
そのような態度はアナスタシア様に対して失礼だし、それよりも淑女がすることではないです!!
「ま、マリア様……」
こそっと小さめの声で呼ぶも、未だにマリア様はぶつぶつと言っている。
「もしかして、カールとかエドワードとかのことかしら?」
ああ、と思い出したのように手を叩いてアナスタシア様を見るマリア様。
「家名はなかなか覚えられなくて」
てへっとばかりに舌を出す。
それもダメなやつぅ……。
しかも呼び捨て……。
親族とかかなり親密でないと呼び捨てまでしない。
流石のアナスタシア様もピクリと頬が動いたのを私は見逃さなかった。
「その方たちの婚約者であるご令嬢から抗議がきています。どの方も突然、婚約解消もしくは破棄を言い渡されたと」
「そうなんですねー」
マリア様!完全なる他人事だっ!
「ダントス様、学園内はたしかに身分差なく学べる場ではありますが、淑女としての最低限の礼節は弁えるべきだと思います。婚約者がいる方に対しては節度を持って行動するべきかと」
「うーん。でも私特に何もしてないですよ。話したりはしたけど、婚約を解消してほしいとかそんなこと思ったこともないし。狙うならもっと大物……っと……んんっ!」
へへ、とばかり笑っているが、完璧に狙うのはそれ以上の方だと言っている。
「殿下とも交流があるようですね」
「はい!それはもう!フィリップ様もアレン様もギルバート様とも仲良くしたくてっ」
「3人も既に婚約者がいます。それ以外にも、先ほども言ったように節度を持って交流を深めることをお勧めします。すでに私では抑えきれなくなってきておりますので」
アナスタシア様の不穏な言葉に私はついアナスタシア様を見る。
私の視線に気づいたアナスタシア様は困ったように笑うだけだが、きっと今言った以上の苦情がきているのだと思った。
マリア様はモテる!ってことを言っている場合ではないのかもしれない。
婚約解消なら双方納得の上ともとれるが、破棄ともなると賠償問題もでてくる。
事態はもっと深刻かもしれない。
「ま、マリア様っ!あの!私も!節度を持って接したほうがよろしいかと!」
このままではマリア様だって責任を問われる事態になる。
私はそう思って発言したんだけど。
「ひどいです……。二人してよってたかって………」
マリア様が俯いて声を震わせた。
え!こんな急に??
私、泣かした!?
「私はただみんなと仲良く……っ。うっうっ……」
「ま、マリア様……」
私はポケットのハンカチを取り出しながら、マリア様に渡そうと立ち上がった。
「リリベル?」
そこに聞こえるは推しの声。
ハンカチを手に持ったまま振り返ると、そこにはアレン様にフィリップ殿下、ギルバート様がいた。
「あ………」
レン様、と続くはずだった私の言葉はそれ以上の大きな声にかき消された。
「フィリップ様ああっ!」
ガタンと大きな音を立てて椅子をひっくり返しながら、目の前にいたマリア様が立ち上がった。
「フィリップ様~~、この方たちがいじめてくるんですーー」
マリア様が一目散にフィリップ殿下へ走り寄っていく。
ああ!マリア様、それはいくらなんでもダメですよーー!
相手はこの国の王太子殿下です。
だけどもそこは流石王太子殿下。
その前にギルバート様とアレン様が立ちはだかる。
私は止めようと中途半端に上げられた手をそろりと下ろす。
だよね。
私が出るまでもないよね。
だけどもマリア様、そんなことを気にした風でもなく今度はギルバート様とアレン様に上目遣いで距離を縮める。
「ギルバート様ぁ、アレン様ぁ、怖かったですう~」
ヒロインの甘えた声!
これはぐっとくる声だ!
そのままお二人に手を伸ばすも、なぜかアレン様には届かず左手をすかっすかっとしている。
対する右手はギルバート様の腕に触れていたため、マリア様は何事もなかったかのように左手もギルバート様に添えた。
一部始終を見ていたフィリップ殿下は呆れたような目をアレン様に向けてから視線をこちらへ向けてきた。
「フィリップ殿下、ご機嫌麗しく……」
私は慌てて礼を取る。
「よい。学園内だ。……して、これはどのような状態だ?」
フィリップ殿下が見るのは倒れた椅子に、零れた紅茶。
「少し学園内の風紀について語っていたところです」
流石のアナスタシア様は淡々と答える。
「なるほど」
今ので何がわかったのかはわからないが、殿下は片眉を上げてそう答えたあと、ギルバート様によって距離を取らされたマリア様を見る。
「ダントス男爵令嬢、ちょうど話があるのだ。少し時間いいだろうか」
「はいっ!喜んでぇ!」
おお、マリア様の満面の笑みが眩しい。
先ほどまで泣いていたのが嘘のようだ。
え…泣いていた、よね……?
「シア、少しダントス嬢を借りるよ」
「ええ」
こそっとアナスタシア様に耳打ちしたフィリップ殿下。
アナスタシア様の真横でマリア様を見ていた私には聞こえてしまった。
殿下ってば、アナスタシア様のことをシア呼び!
やっぱりお二人、ゲームのときと違って仲良しだ!
なんだか自分のことのように嬉しくてニマニマ笑ってしまう。
そんな私の視線を受けてアナスタシア様の顔がうっすら赤くなる。
か、かわいいかよ!
美人の照れ顔、威力半端ねぇ!
「……ベル?…リリベル?」
「はうっ!」
突然の耳元素敵ヴォイス!
「アアアアアレン様」
熱くなった耳を手で押さえながらアレン様を見るとにっこりとほほ笑まれた。
「今度の休みにうちの邸に来る予定、大丈夫?」
「もももちろんですっ!」
そうなのだ。
次のお休みに私はスペンサー公爵家へお招きされている。
アレン様の父上である公爵様やお兄様は仕事で不在なのだが、お母様であるオリヴィア様とアレン様とでランチを頂くのだ。
学園では常にフィリップ殿下の側近として忙しそうにしているのに、お休みができれば常に私のために使ってくれている。
ゆっくりと休まれては、と進言しても「リリベルといることが最大の癒しだ」と言われてしまっては何も言えなくなった。
「じゃあ、また」
アレン様はするりとわたしの頬を撫でると先に歩き出しているフィリップ殿下の元へと走っていた。
ぼうっとしてしまった私を今度はアナスタシア様がニマニマと見ていた……。




