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13.推しと学園、そしてヒロインの疑惑

こんにちは。

いかがお過ごしでしょうか。



そうです。

私が出会いイベントをぶち壊した張本人。

モブことリリベル・ハートウェルです。


ほんっとすみません。

オタクの風上にもおけません。




あの、出会いイベントぶち壊しからは結構経ちますが、イベントが起こらなかったためなのか、アレン様とフィリップ殿下とギルバート様のお三方とマリア様はクラスメイトの域を超えていません。

その様子を申し訳ないという思いで見ながらも、どこか心の奥底ではほっとしている自分もいるわけで……。


自分の心の狭さ、醜さを痛感しているところです。





「リリ?余裕だね」


そんな私の耳元に最推しの声。

私の腰が砕けそうになり、意識が現実に引き戻される。


現在の私は、推しと密着状態。

片手はアレン様の大きな手に乗り、アレン様のもう片方の手は腰に回されている。

とはいえ、これは決してイチャラブ的なものではなく。


今は授業。

ダンスの授業の真っ最中なのだ。



「よ、余裕なんて……」

この言葉に嘘はない。

ただちょびっと現実から意識が飛び立っていただけで……。


そう何を隠そう私はダンスがへたっぴだ。

領地にいた時から何度練習してもなかなかに上達しない。

それがダンス。

何なら体を動かすこと自体苦手ではある。

その上リズム感までないときたら、そりゃもうどれほどダンスが苦手なのか想像できますよね……。


今は男女ペアになって音楽の始まりを待っているところなのだが。

アレン様のおみ足を踏まないように色々考えていたら、いつの間にか現実逃避していたのは私です。


だって、音楽が始まるのを今か今かと待ち構えていたら緊張でどうにかなりそうだったんだもの。

ふるふる震えるとアレン様がふっと笑って耳元に囁く。


「力が入りすぎてる」

「は、はひっ……」

そうは言っても、抜けないのが緊張というもの。

そんなこんなで、ゆったりとした音楽が流れ始める。


は、初めは右?いや左?

習った動きがスコーンと頭から抜け落ち、しどろもどろで体を動かす。

壊れかけのゼンマイ仕掛けのようにカクカクとしか動けない私。


「っふ……」


手を置いている肩が震えている。

私は思わずジトっとアレン様を見る。

「い、いいんですよ。もっと笑ってくださっても…」

「ごめ……、ふふっ」

謝りながらも笑顔を隠し切れないアレン様。

正直者なアレン様ももちろん推せます。


「リリ、足を踏んでもいいから。俺に身を任せて」

耳に息がかかるほど近づくアレン様にピシリと固まった私。

推しのおみ足を踏むだなんてそんなこと!と思いはするも、耳元に聞こえる声に固まった体から時間差で力が抜けていく。


それを確認したアレン様はさらに私に密着するとふわりと私の身体を持ち上げるように抱き寄せる。


そうしたら、あら不思議~。

今までにない軽やかさでステップが踏める!

ターンも軽い!


じゃなくてっ!

これ浮いている?浮いてるよね!


そんな私の焦りをよそにアレン様の顔は楽しそうだ。

「リリ、その調子」

それはその声からもわかるほど。

楽し気に声を弾ませるアレン様。


「は、はひ…」

対する私は物理的にも精神的にもふわふわして考えるより先に体が動く。

これも全て巧みにリードしてくださるアレン様のお陰。

まあ、リードというより運ばれているという方が正しいかもしれない。



「でもこれアレン様だからできることですよね……」

「じゃあリリはずっと俺とだけ踊ればいいよ」

にっこり笑うアレン様。

そんな訳にいかないことは社交に疎い私でもわかるので、これはきっとアレン様の優しさだろう。

私が気負わないように、との心遣いだ。


ニコニコニコ。

え?冗談、だよ、ね……。

有無を言わせない笑顔をマジマジと見る。

なんだろう、アレン様の後ろに黒いものが見えるような……。


アレン様の背後を見ながらクルクル回る私の目にぱっと映ったのは険しい表情のマリア様。

可愛らしい顔なのに眉間に皺が寄っている。


この表情は初めてではない。

入学してからここまで何度も見てきた。

それは私に対してだけではなく、アナスタシア様に対しても。


アナスタシア様はともかく、私が攻略者であるアレン様の近くにいるからと思っていたんだけど…。


入学してから1月。

流石の私も違和感が拭えなくなってきている。


ヒロインってあんな感じだったっけ?


努力家で明るく快活。

そして健気で素直。


上辺だけの貴族とのやり取りに疲れている高位貴族たちに癒しを提供する。

そんなほんわかしたヒロインなのだ。


なのに。

あんな険しい表情。

それに端々に感じるのは、この世界を知っているかのような態度。

入学式すぐ後に私とすれ違う時にちらっと聞こえたのは「モブ」という言葉だった。

あれ、絶対私のことだよね。


いや、自覚はあります。

そうです、私はモブです。

しかもイベントをぶち壊したモブ。


でも、モブなんて言葉はこの世界にはない。

となると考えられるのは、ヒロインであるマリア様も転生者……。


それにもしヒロインも転生者だとしたらそんなモブに腹立てるよね…。

イベントぶち壊しなんてオタクとしてやってはいけないことだ。

このゲームをリスペクトしているなら尚更。


まあ、本来の過去の話すらぶち壊している私が言う事でもないけど。

本当にイベントを壊すつもりはなかったんです。

アレン様のことはこれ以上なく大好きになってしまったから、ちょっぴりほっとしてしまった自分もいるけど。

でも、アレン様の幸せがヒロインと共にあるなら私は潔く身を引きますから………。


だって、やっぱり推しの幸せは自分の最大の幸せでもあるから…。

私は繋がれた手に自然と力を込めてしまった。

するとアレン様はさらにぎゅぎゅっと私の手を握り返してくれた。







◇◇◇







マリア様、転生者疑惑はテストの結果発表の時もあった。


ヒロインは努力家なので、男爵家では大した教育を受けていないにも関わらず勉強が楽しいとばかりに学校での勉学に励み、成績は常に上位なのだ。

幼いころから英才教育を受けてきたフィリップ殿下、天才と名高いギルバート様、そして騎士としてだけでなく頭もよいアレン様が上位に名を連ねる中、堂々とその中に割って入るのがヒロインなのだ。


だけども―――。

私は一期の試験結果が張り出された紙の前に佇む。

1位がフィリップ殿下。

2位が同じ点数でギルバート様とアナスタシア様。

そして4位にこれまた同点でアレン様と………。


「リリベル。点数まで同じとは、気が合うな」

隣で同じように試験結果を見たアレン様が私に微笑まれる。


そう。

なぜか私が4位。

身体を動かすのは苦手だが、勉強は元々好きなのだ。

新たなことを学ぶのは楽しいし、算術といったものは前世で暇つぶしに読んでいた算数や数学と同じだから知識はあるのだ。

だから筆記のテストでは結構手ごたえを感じてはいた。

それがこう結果として出ると驚きと共に嬉しささえある。


だが今の問題はヒロインだ。

ヒロインであるマリア様はというと………。



名が入っていない……だと?

30位までの名が載っている長い紙をもう一度上から順に確認する。

やっぱり、名が……ない。



その時に聞こえたマリア様のぶつぶつと呟く声。

「なにこれ!ヒロイン補正とかないの?マジサイテー……」


おっふ!


これはもう確定?

ヒロイン補正!


私もあると思ってたヒロイン補正。

なんならゲームの強制力とかもあると思ってましたあ!


でも今のところマリア様と甘い雰囲気を持つ攻略者がいない。

まあ、マリア様の幼馴染であるオリバー様だけは学園外の話だからわからないけど。



それにしても、もう一人の攻略者である王弟であるフレデリック様に至ってはそのお姿すら見ていない。

実は臨時教師として登場するはずだったフレデリック様だが、その経緯は元々の教師が流行病で亡くなってしまうからなのだ。

だが今、流行病は早くに収束しすっかりなりを潜めている。


なので本来亡くなるはずだった教師はピンピンしていて授業をしている。

そういったこともあり、フレデリック様をこの目にすることはないのだ。



これも、私の所為だったり……する、のかな………。




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