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11.推しとの学園生活の始まり

王都へ行って数日後、ローズヒップティーの作り方を伝授したお父様と共に私は領地へと戻った。


それから数か月経つが、ゲーム中にあった流行病が王都で蔓延したという話は聞くこともなかった。

ただ、病に罹る者は一定数いたため、ついこの間出来上がったという特効薬が少し騒がれただけ。



だがその特効薬よりも、病を未然に防ぐことができたローズヒップティーの方が有名になったことを私が知るのはもう少し後のこと。





「うーん………」


私は今王都で購入したライラックの花がイラストされている便箋を前に唸っていた。

アナスタシア様への手紙を書き終え封をしたところだ。


ちなみにアナスタシア様へのお手紙は毎回花の絵柄を選んでいる。

今回はライラック。

今の季節である春の花だし、花言葉は「友情」だったはず。


こちらの世界には花言葉という概念はないが、花の名前は基本的に前世と同じだ。

日本ほどの温度差はないがちゃんと四季だってある。


四季折々の花が咲くので、季節に合わせた花の便箋を使うことにしたのだ。

アナスタシア様はお花が好きだから。



それはさておき、なぜ私が便箋を前に唸っているかというと。

毎度うっかりが過ぎて嫌になるが、あの綺麗で完璧なご令嬢であるアナスタシア様がフィリップ殿下ルートの悪役令嬢であることを思い出したからだ。


私はあのゲームを買ってから1度は全員分のルートはクリアしている。

だからフィリップ殿下ルートもやっている。


そこでのアナスタシア様とフィリップ殿下は親同士が決めた婚約者というだけ。

そこに気持ちはなく貴族同士の冷めた繋がり。

ただ王妃になることに全てを懸けているアナスタシア様が、その座を脅かそうとするヒロインを疎むのだ。


あの手この手でヒロインに嫌がらせをして、ついには犯罪紛いのことまでしでかしてしまう。

そして最終的に殿下によって断罪されてしまうのだ。



でも、私の知っているアナスタシア様はそんなことするはずがない、と断言できる。

この世界に貴族として産まれて思うけど、あの人ほど王妃に相応しい人はいないと思う。


教養、立ち居振る舞い、マナー、美貌。

どれをとっても最上、いや極上だ。

その上可愛らしさや公正さだって持っている。


それに、王都にいるときに思ったけどフィリップ殿下は結構アナスタシア様を大事にされているように見えた。


まあ、王族だし腹の底では何を考えているかわからないけど。

それでも二人の雰囲気はとても柔らかかった。




私はついこの間届いたばかりの手紙を広げる。


すごく綺麗な文字が並んだそこには、お花の交配を始めたことが書かれてある。

挑戦することが楽しそうで、失敗しても挫けない強さがあって。

近況として書かれてあるフィリップ殿下に対しても愛情を感じられる。

それにちょっとしたアレン様情報も欠かさないところが優しくもある。


アレン様は最近フィリップ殿下の直属の近衛騎士となり正式な側近となった。

前より忙しくなったけど、暇を見つけてはいつも会ってくださる。


毎回甘い言葉に甘い笑顔で私を悶絶させている。

婚約してもうすぐ1年なのに全く慣れる気がしない。


誰だろう美人は3日で飽きるとか言った人。

あれは絶対嘘だ。

飽きるなどあり得ない。

日ごと美しくなっているのではないだろうか。

どんどん素敵になっていくアレン様に私は翻弄されっぱなしだ。



アナスタシア様の手紙の最後にも、アレン様と会った際にも最近言われることがある。


2年後の学園が楽しみだ、と。


前世で学校にも通えなかった私からしたら、それはもちろん楽しみだ。

たくさんの同年代に囲まれて勉学に励み、競い、そして生活を共にする。


想像するだけでそれは心が逸る……のだが。

私にとってそこはアレン様との別れを意味する場でもあるかもしれなくて。

それを思うと既に寂しさを感じてしまう自分もいる。



いや!ダメダメ!

暗くなるのなしっ!


楽しい思い出たくさん作ると決めたのだ。

今は奇跡の時間だ!

私はそう自分に言い聞かせる。



それに―――。

もしかしたらアナスタシア様も当て馬になるかもしれないのだ。

私は気高くも優しい友人を思うと、そちらもつらい。


でも!

私の知っているアナスタシア様は誰かをいじめたりしない。

犯罪なんてするわけない。

もし、よく聞くゲームの強制力とやらが働くなら、私がその足にタックルしてでも止める!

やればできるっ!


私はそう自分を奮い立たせた。

運命の学園生活が始まるまで、あと2年―――。







◇ ◇ ◇







なんてこと思っていたけど………。



「時が経つのって早い…」


私は今王都に向かう馬車の中。

数日後に入学式を迎える学園の寮へ入るため、着替えなどと共に馬車に揺られている。


早いもので私も15歳となり、ゲーム開始となる学園へ入学する年になった。

この2年、アナスタシア様はもちろんアレン様とも思い出を作ってきた。

うん、大丈夫。

何があっても推しの幸せのためだもの。

大好きなアレン様が選ばれたことに私は従うだけだ。

そう心の準備をしたところで、馬車が止まった。



「リリベル!」


馬車のドアが開くと、そこにいたのはアレン様。

「ア、アレン様……」

私に向かって手を差し出してにっこり笑う。


わあ!

今日もいい日になりそうです。

どんなに落ち込むことがあってもこの笑顔にはいつも元気をもらえる。

ありがとうございます。

と心の中で拝み私はアレン様の手を取った。


この2年の間にアレン様はかなり背が伸び、顔も精悍になっていた。

ゲームでよく見たご尊顔そのもの。


馬車を降りた瞬間、私はぐいっと手を引かれアレン様の胸にダイブする。

というより抱き込まれている。

「アアアアアレン、さま……?」

脳がパニックを起こす。

「やっとこの日がきた。リリベルとずっと近くにいられる」


熱い吐息とともに脳に直接響く美声に足に力が入りません……。

15歳のアレン様は何とも言えない色気を帯びて、いろいろとやばいのだ。

王都を歩けば誰もが振り向くイケメン具合。

ご令嬢方にも人気が高いアレン様なので、私へのご令嬢方の圧がすごいのだ。

まあ、そんなもの推しのご尊顔を間近に見られて声を耳元で聞けるってだけで吹っ飛ぶくらいだけど。





「今日は入寮だろう?俺は女子寮には入れないから手続きが終わったらどこかへ行こう」


私から体を離してそう言うアレン様の顔はキラッキラの笑顔。

はあ、眼福。


この笑顔を守るためならばどんなことでも致します!

全ては推しの幸せのために!

私は「はい」と返事をしながら心の中で片手を振り上げて気合を入れる。





ついにやってくるのだ。

ゲーム開始でもある、王立ローズ学園の入学式が。





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