[神と荒野における腐肉達のダンス] 五つの詩
1
【捻じくれた子供達】
私の装飾は、艶やかな黒い蠅と白い蛆。
ガス壊疽と、自由になった蛋白質。
捻じれた子供達・・
あるいは破壊された表皮を通る霊。
おお、ハビエル。
かつて斜陽の午後、
アヨコテ豆の花の鮮やかな色を
私達が讃えた様に、
世界のありのままの姿を見つめ、
その美しさを陰りの無い眼で眺めて・・・
2
【嚢胞性壊死の奏でる音楽】
私達の氏族がかつて仕留めそこなった
黒い茂みに住む獣が
私達の心臓を毎夜齧ってゆく・・
それか、何処かの
腐肉を捨てる荒野と繋がっている
我々の内部からの崩壊と腐敗・・
誤った歪なリガンドを受容し、
絞殺される肉の喘鳴や、
上行大動脈に生まれた
笑みの無い幼児
の命を狂わす音・・
病的な嚢胞の奏でる歌は、
一本弦をコル・レーニョで奏でる
死者の笑う
黒い口腔内から響き渡るのだ。
その嚢胞性壊死の奏でる音楽は
最も自然に荒野に流れ、
夜の荒れ狂う海面の様に
救いはなく美しい。
腐肉は最も自然に
無数の蛆達に貪り喰われ、
土壌に帰っていったが、
愛だけが!!
愛だけがそれに対抗し、
その過度な愛着は
水死体の顔を爪で搔き毟り、
肉を剥がし、
死の素顔を露わにし、
歪なものにしてしまった。
愛とは愛着であり、
愛着とは執着であり、
それ故に命達は地上で苦しむのだ。
キリスト教徒は神に問う。
「主よ、なぜ私の愛する者を
奪われるですか?」
神は答える。
「私の知る愛を知る為に・・
そして、無や不変が知らぬものを
知った故に・・」
応じて、
フランク・スターリングの法則から
永遠に解放された
荒野の鹿の死骸も
語りだし、答える。
「幸福とは不幸によって
もたらされる故に」
やがて人は、
己の心臓を毎夜齧る獣の顔が
天使と同じである事に気付く。
やがて人は、
いつかの朝に海岸で見た砂地の貝、
会わなくなった友の顔、
二度と会えぬ愛する者への執着を
夜の荒波の中に放り込み、
自らも身を投げる。
悲しみを交えながらも、
永遠の望郷に駆られながら、
愛を失い、
愛に帰還するのだ。
3
【愛という湿度に依存する故に乾いて死ぬ】
蔓脚類達の
命を打ちのめす北海の
冷徹な岩礁に打ち上げられた
数匹の月魚の骸が、
[何処にも行けない肉]として
世界に展示されている。
[外科医の肉]と呼ばれる
巨大な陽性菌達は、
「冷気・・」と言いながら
死んでいくのだ。
ああ、貧しい労働者よ!!
船乗よ!!
何処にも行けない者達は、
ただ命を削り、
心臓を切り裂く荒波の中に船を出す。
限定された環境で肥大した肉は、
優しい[血漿の粘度]に支配され、
決して世界を知る事はない。
イルマオス!!(おお、友よ!!)
お前は知っているのだろうか?
我々の魂の歌を?
本当は誰もがわかっている事だ!!
革命など、
切断され、塞き止めるものも無く
流れ出ていく摘出された心臓の
心拍出量を計る様に無駄な事だと。
それでも、何処へも行けぬ
悲しい陽性菌は、
その[錯体の粘性]の中で足掻く。
情熱など無い。
信仰は乾いたままだ。
愛という湿度に依存する故に
乾いて死ぬ。
知性よ!!
お前は何もかもわかっていない。
組合員達は
何もかも知っていながら出かけていく。
本質は同じだ!!
月魚の臓物に捕らえられ、
血管から滲み出る間質液に支配され、
肺循環する血を感じ、
命を永らえておきながら!!
労働者達は生きる為に
今日も自身の心臓を突き刺すのだ。
4
【我々は、爪や、髪や、悍ましい糞便や、死んだ犬を
全て荒野に投げ捨て、振り返らない】
健全なる死とは、
常に荒野で営まれている。
だから、ここより壁の内側は
歪に死を隠蔽した
高慢な患者達の無菌病室だ。
我々は、
爪や、髪や、
[悍ましい糞便]や、
死んだ犬を
全て荒野に投げ捨て、振り返らない。
それは禁忌故に。
ああ、忌まわしい穢れを左肩越しに放り、
我々は今日も
あの墓地を見ないように暮らす。
それでも早朝、
狭心症の胸の痛みを抱え、
打ち上げられた鷗の死骸を見た時、
私はハッキリと何者かの顔を見る。
そいつは人生であり、死であり、
笑みの無い己の顔をしていた。
打ちひしがれたキリストの磔刑像が
死や、曝気槽の汚泥や、
病や、喜びや、
痛みの混合物となった
錯体の十字架を背負いながら
私に語りかける。
「おおい!!そこのお前!!
痛みを見ないフリをするな!!
それこそがお前の家だ!!
孤独に化膿した醜い傷を抱え、
誰にも知られずに蟹と銃身を埋葬する。
座り心地の悪い玉座は
お前の肋骨を徹底的に痛めつける。
だが、それこそが!!
それこそがお前の私物なのだ!!」
ああ!!そして私は
舌下錠を口に入れ、
寒さに凍えながら、
無数の崩御された
蛤達の殻を踏みつけ
一人で帰路につく!!
誰にも知られない様に。
そう・・
あの時・・
あの時、私は自分の顔を見た!!
ああ!!それは死の顔をしていた。
それは健全な[痛み]の顔をしていた。
血を流さぬ命などない。
切り裂かれぬ命など無いのだ!!
打ちひしがれた
キリストの磔刑像の下で、
私は自分の顔を見た!!
そいつは・・
他人行儀で友の葬儀に立ち会い、
振り返りもしなかった
黒い荒野の墓地の顔をしていたのだ!!
5
【我々は喪す事でいつか楽園の門で出会う故に】
命は、
深藍色の深く冷たい海の底で
大量の大型の紐虫達に
貪り喰われる。
それを「許さない」と言う
喧しい法律家も
遥か昔に蔓脚類達を纏わりつかせ
珊瑚藻となった。
海底に横たわる
これらの[無痛の肉]達は、
過ぎ去った物語を気にもかけないのだ。
ああ、キリストに遺棄され、
砂地に横たわる
[命の骨]である巻貝よ。
黒い波間に囁くグラム陰性菌達よ。
巨大な棘皮類を喰い殺す
[付着する長桿菌]よ。
籬貝の
[内に窪む溝]の様に、
世界は今日も正確に再現され、
命は無数に消えていく。
わかり切った天使達の自死により、
命は塵の雪となり、
積もり砂地となり、
悍ましい美しさを作り出すのだ。
その美しさの前では
命に価値などない。
船乗よ。
お前は元々、
去る為に作られたではないか!!
崩壊が組み込まれた
[消費する肉体]に
それでも錆びた釘を
血漿に打ち込んでまで
縋り付くのか?
我々は失われる事で
我々は去る事で
我々は喪す事で
いつか楽園の門で出会うだろう。
ああ!!紐虫達に喰われ、
その白い骨すら細菌達の住処となり、
分解される栄光を!!
その栄光を
無人の荒野で月夜に踊る
命無き腐肉達は
知っているのだ。