初彼女
失恋のやけ酒につきあってもらった。
女の子はこんな俺のやけ酒に付き合ってくれたのだ。
ブサメン時代だったら絶対になかったことだ。
女の子がしっぽをふって俺についてくるなんて絶対になかった。
見ただけで逃げられていたことは何度もあるが。
飲みすぎた……記憶をなくした俺は目覚めたら彼女の部屋にいた。
しかも、朝になっていた。
まずい……俺、やらかしたか?
となりに笑顔のライちゃんがいる。
ベッドの上にかわいい女子と二人。
信じられない。でも現実だ。
しかも相手は拒否するどころか受け入れてくれている。
これ、初恋は置いておいてライちゃんと付き合っちゃうか??
「俺、飲みすぎた。記憶なくて……何かしたかな?」
「やだ……もう、私に言わせる気?」
やっぱり俺は彼女に何かしたのか?
ライちゃんは肩くらいの髪のかわいい系女子だ。
女子力は高いだろう。王女と比べたら天と地くらい。
「私たち付き合うことにしたのよね、記憶ない?」
記憶ない。全然ない。
彼女は料理が上手で、さっと朝食を作ってくれた。
はじめて俺なんかのために料理を作ってくれる女に出会った。
ブサメンのままなら絶対にありえない事実だとわかっている。
初彼女がとうとうできたのだ。酔った勢いとはいえ、断るのも失礼だ。
一年限定のリア充男子を楽しまないと。
女の子は好きな男のためならこんなにかわいい表情をするのだな。
そんな顔されたことなかったから、知らなかった。
俺は今、城の戦士の寮に住んでいるが幸い一人部屋だ。
周りに朝帰りだとばれなければいいのだが。
そうだ肝心なこと、聞いてなかった。
「俺は、君に何かした? 実は記憶がなくて」
「記憶ないの? キスくらいはしたよ」
キスしたのか? ファーストキスだったのに。
好きでもない相手と。
なんだか乙女みたいな発想だ。
でも、キスだけだった、よな?
ホッとした自分がいた。
朝帰りだと仲間内にバレていて
朝から周囲にからかわれる俺。
今日はいつもに増して王女は機嫌が悪い。
ツンツン尖っていて、触ったらチクリと刺さりそうだ。
殺されそうだ、の間違いかもしれない。
何が王女をそうさせているのだろうか?
「勝負だ」
いきなり俺と勝負かよ。
以前の弱い俺なら一撃で殺されているな。間違いない。
でも、今の俺は相手の動きが読めるし、かわすことが容易だ。
王女はやけになって刃を向けてくる。
これ、気を抜いたら殺されるレベルだな。
やはり、今日も王女の胸元にネックレスが光っていた。
「このネックレス、つけていてくれていんだ?」
王女は少し照れたような顔をした。
「これは魔除けだ」
「王女ならもっと高価なものがたくさんあるのにな……」
「デザインが気に入ったのだ。文句あるのか?」
文句はありませんが……。
普段、アクセサリーなどに興味がない王女。女子力ゼロなのに、珍しい。
そんなとき
「差し入れ持ってきました」
ライちゃんがこんなところにやってくるとは、間が悪い……。
「彼女でもできたのか?」
「違うけど……」一応否定しておく。
「これ、昨日の忘れ物だよー」彼女が叫んだ。
朝帰り=昨日この女といたことがバレバレじゃないか。
王女はひどく怖い目で睨みつける。
「彼女っすか?」仲間たちが聞いてくる。
「そうでーす」彼女は堂々と 肯定した。
その日、王女がここへ戻ってくることはなかった。
それからなんとなく避けられているような気がした。
許嫁の男ともうまくいっているようだったし、距離が自然とできていた。
避けられているといってもいいかもしれない。
元々、俺は小太りのブサメンだ。
元々弱いし魔法の力がなければ、王女に近づくことも不可能だった。
いい夢が見ることができたのだ。