女王の許嫁
王女の婚約者になったわけだが――これは、婚約者になる前の話だ。
王女には生まれたときに決められた許嫁がいた。
それは国民には極秘事項で、ここへ来てから知ったのだ。
俺は正直ショックだった。
初恋の一目惚れの相手に許嫁がいたのだから。
王女は一人娘で、その結婚相手は必然的に国王になる。
家柄や血筋が重要なのだろう。
その相手は普段留学していて外国暮らしで会ったことはないらしい。
ところが、お年頃になった今、突然会いに来るというのだ。
イケメンなのか? どんな男なのか気になった。
しかも、会う際のボディーガードとして王女は俺を指名したのだ。
好きな女が目の前で許嫁と会うなんて正直心が苦しい。
見てみたい気持ちもあり、俺は渋々引き受けた。
相手は正統派の王子様みたいな人のようだった。
真面目そうで優しそう、世間ずれしていない箱入り王子。
こういうタイプのほうが王女には合っているだろう。
王女は男性的なタイプだ。
この許嫁は悪く言えば優柔不断そうなタイプ。
まさに、お似合いである。
俺の入る隙間はないように思った。
俺はこの前連絡先を渡してきた女子に連絡してリア充モード全開で一年を過ごそうか……
そんな計画を立て始めていた。
許嫁ということは結婚する予定の恋人であり、俺は告白する余地すら与えられないのだ。
相手がいる人を略奪するほど俺は自信家でもない。
ボディーガードの俺は車の運転手でもあった。
車の中で「なかなか 良い人そうだね」と王女に言葉をかけた。
王女は「そうか?」
少し不機嫌そうだった。気に入らなかったのかな?
王女の胸中はさっぱりわからない。
基本ツンデレのツンしかないような人だからこの人にとって
不機嫌は普通のことなのかもしれない。
帰る途中に海があったので、少し寄ってみることにした。
寄り道は、本当はだめなことなのだけれど、ほんの10分程度だけ、誰もいない海を眺めた。
女性と二人で夜の海に来ることは、もちろん初めてだった。
静かな海岸に波の音が響く。
王女はハイヒールを珍しく履いていたので、途中何度か転びそうになった。
そこで、俺は王女と手をつないだ。
何をするのだと振りほどかれるかという心配をしながらだったが、王女は嫌なそぶりもせず、手を握り返してきた。
砂浜は足場が悪い。
王女は俺の手を握り締めて砂浜を歩く。
転ばないようにしっかり重心を俺に預けながら。
そんな短時間の幸せな時間だったが、王女には許嫁がいる。
許嫁の男は頻繁に会いに来るようになった。
きっと王女を気に入ったのだろう。
俺はそれを見ていていたたまれなくなり、勇気を出してクリスマスパーティーで出会った女の子に連絡した。