歴史…
「なんでここに…?」
少し落ち着きを取り戻した俺は俺の腕を掴んでいる菜月に尋ねた。
「別に尾けてたわけではないですよ。欲しい本があって、それを買いに行こうとしたら勇樹くんたちがいただけで。…それでこれはどういう状況?」
菜月は俺、石塚たち、そして最後に優花の方に顔を向けた。
「まぁ、大体分かったわ。…優花さん」
「…何でしょうか?」
優花は警戒していることを隠さず、冷たく聞き返した。
「あなた、勇樹くんのこと、解放するって言いましたよね。それなのに、また勇樹くんに近寄ったのはどうしてですか?」
(怒ってるのか…?)
菜月の顔は相変わらずほぼ無表情で判断しがたかったが、口調と声色が少し厳しい気がした。
「…解放するともしないとも私は言ってませんよ。あなたが勝手にそう思われているだけで」
???
俺は後夜祭のことを思い出す。…確かに逃げただけで諦めるとも諦めないとも言ってはいなかった気がするが、逃げたのだから諦めたと取れるんじゃないのか?
…まぁ、俺がそう思っているとしても小泉はそうは思ってないのだからここにいるのだろうが。
そんなことを俺が少し落ち着きながら考えている間にも攻防は続く。
「そんなことより菜月さん。あなたはいつまで勇樹くんの腕をつかんでいるつもりですか?」
「優花さんが諦めてくださるまでですかね」
「そうですか。あなたがそういうのは勝手ですが、とにかく勇樹くんから手を放していただけますか?彼女でもないのにおかしいですよね」
「そういうあなたも、もう彼女ではないですよね...」
菜月は盛大なカウンターを決めて、少し呆れたような顔をした。
ただ、小泉はそれを気にすることなく返答をしだす。
「私は彼女です。あなたと一緒にしないでもらってもよろしいでしょうか。ねぇ、勇樹くん。いつまでこの女の話を聞いてるの?」
「...」
「あっ、分かった!勇樹くん、この女に洗脳されちゃったんだね!それなら愛の力で治してあげる。治したらまたやり直そうね。今の私なら勇樹くんが戻ってきたら何でもしてあげられる。何してほしい?」
彼女はそう言って俺のほうに再び近付いてこようとした。ただ、それはまたしても石塚たちによって阻まれる。
どうやって考えたらそうなるのだろうか?ちょっとばかし、頭の中お花畑すぎないだろうか。
俺は小泉の言葉で無駄だと、頭のおかしいやつには何を言っても基本通らない、そのことを理解させられた。
そうだ。後夜祭の時もそうだった。結局、張本人にしかこの問題は解決させることはできない。
俺はため息をつき、俺の腕を掴んでくれているどこか頭を悩ませている様子の菜月に目を向けて軽くうなずいて見せた。
そして、俺は小泉に向けてとびっきりの微笑みを作り、深呼吸をして後夜祭の時にまず伝えるべきだったのであろう言葉を伝えた。
「俺のためになんでもしてくれるんだよな。それなら、俺の目の前から消えてほしい。理由は俺がお前のことを好きじゃない、嫌いだからだ」