後夜祭終幕
俺らが和田の前に行くと和田は体をビクッと震えさせて俺に尋ねてきた。
「…もう、何も言わないんじゃ?」
「ああ、俺は何も言わないさ。俺はな。いいよ、菜月」
俺の言葉を受け菜月は言った。
「ちょっと話したいことがあるから、和田さん着いてきてもらってもいい?」
「…分かりました」
和田の返事を聞くと菜月は俺に言った。
「勇樹くんはちょっとここで待ってて」
「…分かった」
そうして、菜月と和田は二人で一旦舞台裏に向かった。
俺は壁に寄っかかり、彼女たちが戻ってくるのを待った。
俺に何かを話そうと近付いてきた人もいたがそれは相馬が止めてくれた。
そして約五分が経った頃だろうか、彼女たちは二人で戻ってきた。和田は少し安心した顔で、菜月は少し疲れたような表情で出てきた。
菜月が俺の方に来て言った。
「私も終わったよ」
これで完全に終わりか…。
俺は気が抜けて張り詰めていた糸が切れたのか、フラッとその場に倒れ込みそうになった。
慌てて、菜月が俺のことを支えてくれた。
「ごめん」
「ううん。疲れたんでしょ。ここまで長かったんだから」
「…」
俺は無言で頷き、彼女に体を預けた。しばらくして野中先輩が戻ってきた。そうして俺たちに言った。
「お疲れ」
「先輩、ご迷惑おかけしました」
「悪いのはお前じゃないだろ」
先輩はそう言って俺の髪をくしゃっと弄ると続けて言った。
「後片付けはもう任せろ。家に帰ってもう今日は休め」
俺は疲れていたので今日だけはその言葉に甘えることにした。
「すみません。お願いします」
俺は先輩にそう言い、一旦舞台上に戻り、マイクを取り言った。
「お騒がせして申し訳ありませんでした。僕の話は終わりです。引き続き後夜祭をお楽しみください」
俺はそう言い、舞台を降り菜月と相馬に聞いた。
「どうする?もう帰る?俺は帰るけど」
「私も疲れたから帰ろうかな、勇樹くん、ちょっと心配だし」
「僕は少し残ろうかな」
「分かった。じゃあ帰るか、じゃあな相馬」
「ああ、また来週」
そうして俺と菜月は一緒に帰った。
帰り道の途中で彼女が話し出す。
「ごめんね。送らせて。送るつもりだったのに」
「いや、もう暗いしな、女子の方が夜道は危険だから」
「…長かったね」
「ああ、…長かった。ありがとう」
「どういたしまして」
沈黙が俺らに流れ、そこで菜月は聞いてきた。
「私と和田さんが何話したのか聞かないんだね」
「…ああ、俺から離れて話してる時点で少しは察するさ」
「…」
俺はそこで一つ思い出した。
「そういえばさ、菜月に協力してもらう代わりにお願い一つ聞くって言ったけど、お願いって何?」
「…それもう少し取っておいてもいい?」
「ああ、いいけど…」
そこで俺たちは菜月の家の前に着いた。
「ありがとうね、勇樹くん」
「いや、こちらこそ」
「じゃあ、また来週」
彼女はそう言って手を振りながら彼女の家に入っていった。
俺は手を振りかえし、自分の家に向かった。
彼女と別れてからの道は風が冷たかった…。