質問の代償
「はぁ?なんでって?俺は何もしてない!」
「…そうか…」
Nが何も言う気がないことを察した俺はNから離れてしゃがんで頭を抱えながら何か呟いている小泉の元に向かった。
「おい」
「勇樹くん、嘘だよね。私のことを捨てるだなんて」
「裏切っといてそんなことよく言えるな」
彼女は俺の足に手を伸ばして縋ろうとしてきた。
俺は軽くバックステップを踏むように引き、彼女から距離を取ろうと思ったが、俺は敢えてしゃがみ彼女の目線に俺の目線を合わせた。
彼女の手は俺の顔には届かず落ちた。
「なぁ、聞かせてくれ。なんでこんなことしたんだ?」
「…」
「回答次第ではこれからのことも考え直してやるかもしれないから、教えてくれ」
俺はわざわざ分かっていることを聞いた。
俺が彼女に打ち明けていなかったのが悪いに決まっているだろう。
「勇樹くんが悪いの…私に手を出してくれないから」
「そうか、じゃあ認めるんだな」
俺はこの質問を通して優花に浮気という行為自体を認めさせることに成功した。正直これで俺らの勝ちは決まったようなものだった。
「…もうそれでいいから!勇樹くんこれで考え直してくれるんだよね」
「別に考え直すとも言ってないし、まだ質問も続きがある」
「…なんでも答えるから!」
彼女の悲痛そうな悲鳴を俺は聞きながら質問を続けた。
「俺が手を出さなかったから奴と体を重ねたんだろ。俺に申し訳ないとか思わなかったのか?」
「…思ったけど、勇樹くんなら許してくれると思ったの!」
駄目じゃねぇか。俺を壊した時点で。俺は軽く笑った。
「で結果がこれと」
俺は何故か更に笑ってしまった。
周りはいつの間にかシーンと静まり返っていた。
静かな空間に彼女の叫び声が響いた。
「勇樹くん、答えたからお願いします。許してください。勇樹くんのことを二度と裏切らないって誓うから!」
「一度失った信用はそんなすぐに戻らないし、まだ質問はある。なぁ、幸せだったのか?」
俺はそう言ってどうしても聞きたかったことを聞いた。
「勇樹くんと一緒にいるのは幸せだったよ」
「そうじゃない…、中山と過ごした時間だよ」
「…」
彼女は何故か黙りこくってしまった。
「どっちなんだ。教えてくれ。幸せだったのか?幸せじゃなかったのか?」
「…」
俺といる時間が幸せだったのなら、ただただ足りなかったのか、それともそれ以上に奴との時間が幸せだったのか、はたまた俺との時間だけで幸せだったのに奴に押されて付き合っていたのか。
やったこと自体は変わらないがそれによって俺の罪の重さも変わる。
「答えてくれ。俺をもう、これ以上苦しめないでくれ!」
俺はそう叫んだ。
「中山くんは勇樹くんが埋められないものを埋めてくれた。…でもね、これは全部勇樹くんのためなの!いつか勇樹くんとできる時上手い方がいいでしょ!」
聞いといてなんなんだという話だが、もう話さなくていい。結局苦しむんじゃねぇか。
そういう風に押し付けられるのが一番苦しいということは彼女は分からないのだろうか。
俺はそう思ったが口を開けなかった。
俺は彼女から目を逸らし、床を見つめる。
すると、俺のその言葉を代弁するかのように俺の肩に手が置かれ、いつの間にか近くにいた菜月が話しはじめた。
「優花さん、あなたやったことが分かっているんですか?裏切っただけならまだしも、粘って更に勇樹くんを傷つけてるっていうのが分からないんですか?…もう解放してあげてください、勇樹くんを」