抵抗しなきゃおしまい
「編集か。この動画が編集っていう証拠はどこにある?」
「俺たちはそんなことをしていないからな。そんな動画があるはずがない」
「そうか…、こっちには証人がいるんだが」
俺はそう言い、相馬を呼んだ。
「僕も見たよ。君たち二人が一緒にいるのを」
相馬はそう言ったが、正確には相馬が見たのはNと俺の妹、Nと和田が一緒にいるところだけだ。だが、あらかじめ打ち合わせで決めておいた。いつ、どこで誰が何をしていたか、そこまで情報を共有しておいた。
ここは司法の場ではない、奴らを断罪する場なのだからできることはなんでもした。
相馬の言葉に余計に奴らへの視線と浴びせられる罵詈雑言は酷くなった。だが、Nも簡単には諦めてこなかった。
「それはお前が用意した証人だろ。戯言はいい加減にしろ。今謝るなら許してやるよ」
奴は少し余裕のある顔でそう言ってきた。
ここは司法の場ではないので予めこの流れも予想していた。
俺はこれはイタチごっこだなと思い、速やかな決着のために二つ目の計画への移行を決定した。
俺はマイクを置き、和田の方に向かった。
そして、和田にだけ聞こえる小声で言った。
「和田さん、見てほしい動画があるんだけど」
「…なんでしょうか、海川くん」
彼女は怯え切った顔で俺に聞いてくる。
そして、俺は彼女にだけ見えるようにNと和田が言えないような場所に入っていく動画を見せた。
彼女は賢かった。蒼白な顔で俺に小声で尋ねてくる。
「何が目的ですか?」
「脅す形で心苦しいんだけど、中山に無理やりされたって言ってくれない?そしたらこのホテルに入っていく動画の部分だけに切り抜いて周りには見せるし、この件については俺は突っ込まないから」
俺は彼女に自分だけ助かるか、Nもろとも死ぬか尋ねた。
「…分かりました。言います」
俺は彼女のその言葉を聞くと、和田を舞台の前に連れて行った。
俺は彼女にマイクを渡して、話すことを促した。
彼女は震える手で俺からマイクを受け取り話し出した。
「私は、…あそこにいる、中山くんに、レイプをされました…」
その言葉はシンプルであったが何かを破壊するには十分だった。
「だってさ、中山」
「ふざけんなよ!俺はそんなことしてない!裏切りやがったな、和田!」
中山は俺と和田の言葉にキレ散らかしていた。
会場自体の熱のボルテージも更に増し、会場が荒れた。
俺は奴のことを冷ややかに見つめて言う。
「諦めろって。そもそも和田が何ををどういうふうに裏切ったんだ?ただ彼女は真実を述べただけだろ」
「…違う!俺は嵌められたんだ!おい、なんか言えよ、小泉、なんかないのか?」
「…なんで…、なんで…」
小泉はそう静かに繰り返しているだけだった。
中山はそれを見ると奴を囲んでいる人を押してどかして俺の方に走ってくる。
「海川!お前だけでも!」
奴はそう言ってステージを登り俺の方に突っ込んでくる。
どこからか悲鳴が上がった。
別に殴られたぐらいじゃ死ぬことはないし、俺に手を出してくれた方が好都合だった。
だが、奴は俺に辿り着けなかった。
「おい、離せって!」
奴は横から出てきた野中先輩に羽交締めにされていた。
野中先輩は奴を諭すように言った。
「おい、中山!もう諦めろ!海川に手を出したら終わりだぞ!」
「嫌だ!俺は死にたくない!」
俺はそう言ってまだ暴れている中山の方に向かった。
「おい、海川、危ないからやめておけ」
「先輩、もう少し抑えてもらっていてもいいですか?」
「ああ、構わないが…」
俺は中山の目の前に行って尋ねた。
「なぁ、なんでこんなことしたんだ?」