それでは始めようか
俺は楽器の前に腰掛け手を置く。
指揮者の合図とともに音を出し始めた。
この後のことで精一杯のはずなのに何故か俺は今までで一番綺麗な音を出せた気がした。
一曲目を引き、二曲目も奏で終わると俺は手をピアノから上げる。
相馬と他の部員と顔を見合わせる。
拍手と歓声が沸き起こった。
俺は他の部員の人とともに立ち上がり、お辞儀をし、鳴り止まない拍手を聞きながら、冷めぬ興奮の中、舞台の横にあるマイクの前に向かった。
そして、マイクを手に取り、俺は声を出した。
「どうも、はじめましての方が多いと思います。音楽部の海川です。演奏を聞いてくださりありがとうございました。…今日は皆さんに話があるのでこの場をお借りして話をさせていただきます」
俺の言葉に参加者がなんだなんだ?、どうした?のようにざわめいた。
「俺は小泉優花さんと交際を、中山健汰と友人をさせていただいています」
俺はそう言い、視線を少し怯えたような顔をしているNと優花の二人、そして和田に向け、最後に相馬と菜月に向ける。
俺は大きく息を吸って今までのことを終わらせる、そして復讐の宣言となる最初の一言を言い放った。
「ですが、俺、海川勇樹は今から小泉優花、中山健汰と縁を切ります」
後夜祭を行っている空間がシーンと一瞬静まり返り、ほぼ全ての参加者がはっ?どういうことだみたいな顔になった。
俺はその顔を見ながら続ける。
「俺は俺が親友だと思っていた男、中山に彼女、優花を、いや小泉をNTRれました」
俺はそう言って奴らを直視した。
俺の視線に合わせて後夜祭の参加者の視線が奴らの方を向いた。
ざわめきは再び広がった。
そして、俺は兼ねてからの計画通り隣に来ていた菜月にマイクを渡した。
菜月は俺からマイクを受け取ると話し出した。
「はじめまして。下村菜月と申します。私からも言わせていただきます。私、下村菜月も中山健汰、小泉優花さんと縁を切らせていただきます。理由は海川君に同じくです」
この菜月の言葉で追い討ちがかかり、Nと優花に対する視線は余計鋭くなった。
俺が声を続けて出そうとすると突然優花が叫び出した。
「なんで、勇樹くん!」
俺はその言葉に縁を切ると言ったのにも関わらず返してやった。
「裏切ったから」
「私はそんなことしてない!」
「そうか」
俺はスマホを取り出し、参加者に呼びかける。
「今から証拠を配布します。エアドロップをオンにしていただけますと幸いです」
俺はそう言い、片っ端からエアドロップの受け取りを許可してくれた人に証拠動画、Nと優花が逢瀬を重ねている動画を送った。
あちこちから色んな声が聞こえてきた。
中には直接奴らに詰め寄る人も出てきていた。
彼女は更に声を上げた。
「私、こんなの知らない!」
「そうか、それは残念だな」
俺はそこで小泉を視線から外し、Nに向けた。
「中山、何か言うことはあるか?」
「言いたいことは沢山あるさ。まず、その動画は編集だ」